第3話 決戦の朝
衝撃的な事実を突きつけられてはや数日、ついにパスタ丸と会うその日が来てしまった。待ち合わせは放課後。正直学校なんて行ける精神状態ではなかったが、俺も高校生なので登校し、朝っぱらから一人落ち着かない時間を過ごしていた。
「んあー」
「どうしたー、何か具合でも悪いのか。」
言葉にもならない声でうめいていると、俺の前の席に誰かが座る。
「ああ、誰かと思えば涼川か……」
「俺の声が分からんとは、こりゃまた重症だな。」
涼川政樹。俺のクラスメイトで、友人。そして俺がラノベ作家だという事実を知っている数少ない人物である。
「俺みたいなのに絡んでると、女子からの評判が落ちかねないぞ。」
「またまた、謙遜しちゃって」
「別に謙遜じゃないぞ。」
この男、名前からして既にと言った感じなのだが、実際見た目もイケメンで、更にサッカー部のエース。この時点でモテ要素の塊なのだが、さらに性格もいいと来た。。まあ、欠点と言えば二次元にしか興味がなく、女子と仲良くはするが一切付き合わないところなんだが、俺からしたらもったいないくらいの友人だ。
「そんで、今度は何でため息ついてんだよ。新作の設定にでも迷ってんの?」
「それならどれだけ良かったことか……」
2次元の恋愛なら今までいくらでも書いてきたが、いざ3次元となると話が違う。一応お互いの存在は認知している身ではあるが、どう関係を構築すればいいのか全く見当もつかない。そんな俺を見て、涼川は嬉しそうな表情をする。
「お、夕がラノベ以外で悩むなんて珍しいな。どれ、俺が話を聞いてやろう。」
「冷やかしなら帰んな。」
「いやいや、俺は親友の悩みを真剣に聞きたいなんだって。」
椅子の向きを変え、真剣に話を聞くポーズになる涼川。話したくねぇなぁ……。
しかしこいつはモテ男、俺一人でああだこうだ悩むよりは相談した方が良さそうな気もする………。今か今かと目をキラキラさせている涼川に、俺は渋々状況を説明した。
◆◆◆◆
「おお、それはまた……。なんつーか、ラノベみたいな話だな……。」
「お前もそう思うか。」
「ああ、そして夕には申し訳ないが俺も相談に乗れる自信がない。」
「じゃあ俺は何のために話したんだよ。」
唖然とした表情で首を横に振る涼川。期待外れのリアクションに俺も思わずため息が漏れる。とはいえあまり期待していなかったのも事実だ……
「まあでも、要は夕のファンの子が夕の新作を書く手伝いをしたいって立候補してくれてるってことでしょ?とりあえず会ってみれば?」
「いやお前、気軽に言うけどさ……」
世の男子が皆お前みたいに女の子慣れしてると思うな。そん考えていると、涼川はこちらに顔を寄せて小声で話してくる。
「じゃあ、もしパスタ丸が成瀬さんだったらどうする?」
「成瀬ぇ?」
「もしもだよ、可能性の話。」
「そんな可能性あるわけないだろ。」
とは言いつつも、俺は後ろを振り返り、朝から一人黙々と本を読んでいる美少女を見やる。
「綺麗だよな、成瀬さん。」
成瀬真衣華、黒髪ショートカットの10人すれ違えば10人が振り返る様な超正統派美少女。寡黙でいつも本を読んでおり、どこか人を近づけさせないようなオーラを放っている。その美しさは二次元にしか興味がない涼川ですら綺麗だという程で、今もページをめくる所作の一つ一つが美しい。
「いつも何読んでんだろうな、成瀬。」
「案外ラノベだったりして。」
「そんなわけないだろ。」
成瀬の方をチラチラと見ながら、ふざける涼川にツッコミを入れる。へらへらと笑っていたら、ふと成瀬がこちらを向いた気がする。
「あれ、今目合わなかったか?」
「成瀬さんと?気のせいじゃない?」
成瀬の事を話しているのは聞こえていないと思うが……まあ涼川の言う通り、気のせいか。そう思うことにした。
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