第23話 俺たちの関係性
「あの……成瀬さんだよね。初めまして、佐倉琴乃です。ター君の幼馴染です。」
コミュ障っぷりを存分に発揮している成瀬を見かねて、佐倉がフォローを入れる。
「あっ、なっ、成瀬、麻衣香です……高2です」
一方われらが成瀬はこのザマです。見るに堪えない。
確かに佐倉は明るくてあんな感じだし、成瀬が陽キャだとおびえる気持ちも分からんではない。実際そのまま委縮してくれている方が、俺としては都合がいいからたすかるんだが……。
「実はちょっとこの本屋に興味あるみたいでさ、悪いんだけどちょっと見させてあげてくれない?」
「ああ、そのくらいなら全然大丈夫だけど……」
佐倉は少しためらうような表情を見せる。
「ああ、そっちの件は成瀬が帰ってから始める感じで」
「分かった、じゃあ案内すればいいね?」
「あいつ相当ラノベオタクだから、佐倉のポップアップ見たら多分喜ぶと思う。」
多分と言うか、絶対。ブログと書店だが、好きなものを紹介したいという熱量は多分同じだろう。そしてその満足感のまま帰ってもらう……!と言うのが俺の今回の作戦だ、我ながらに悪魔的。
「ふーん」
「な、なんだよ」
「いや、成瀬さんと仲いいんだと思って」
「まあ、色々あってな」
「否定しないんだ」
少し不満そうにしていたが、佐倉は切り替えて成瀬を連れ出し始めた。俺は二人の後を少し離れた距離で見つめる。
「それでここがラノベコーナー、仕入れとか棚出しは私がやってるよ」
「へえ……」
「すごい興味津々だね、何か好きな作品とかあった?」
「いえ、作品と言うよりはこのポップアップがすごいですね……」
成瀬はじっくりと、嘗め回すようにおススメ文を読み上げている。褒められた佐倉もまんざらではなさそうだ。
「ほんと?」
「はい、なんと言うか、作り手のこだわりと情熱を感じます。本当にこの作品を推したいんだなーって気持ちが、伝わってきます。」
「えへへ、実はそれ、私が作ってるんだー」
「え!陽キャさんが!?」
本気で驚いている様子の成瀬、佐倉もその様子に困った顔をする。
「陽キャさんって……」
「ああ、すみません。佐倉さん、でしたよね」
「同級生なんだし、琴乃でいいよ?」
「じゃ、じゃあ、私も麻衣香でお願いします」
「オッケー、じゃあ麻衣香ね」
どうやら同じラノベ仲間として、通じ合うものがあったのかもしれない。二人はすぐに意気投合して、おススメのラノベがどうだとかあの作品のイラストが神がかっていたとか、そんな話をしばらくしていた。
「仲良くなったみたいでよかったな」
「うん、麻衣香もラノベ好きだなんて思ってなかったよ。」
「私こそ、佐倉さん……、じゃなくて琴乃みたいな人がラノベが好きだなんて思いませんでした」
「ちょっと、私ってどういうイメージ?」
二人とも、あははと笑いあう。成瀬も殆どラノベの話が出来る友達なんていないと言っていたし、こういう相手が欲しかったんだろう。自然な笑顔を見せている。
よし、そろそろ締め時か……
「よし、それじゃあ成瀬はここで……」
「そういえば、麻衣香って結局何でここに来たの?」
さらりと、佐倉は聞いてきた。
「あ、それは……」
「ター君には聞いてないから」
佐倉は俺の相槌をぴしゃりと止める。マズイ、なんだか知らんが不味い予感がする、俺と佐倉の長い付き合いから来る勘が。一方、話を振られた成瀬は何も考えていない表情でありのままを告げる。
「いえ、神野君と琴乃が二人っきりで怪しいことするって聞いたので、ちょっと何をするつもりなのか監視しに来たんです」
「ちょっと成瀬!」
俺は正直すぎる成瀬に思わずストップをかけようとするが、逆に成瀬が俺を制する。
「いえ、でも琴乃と今日話して感じました。琴乃みたいないい子が、神野君と変な事なんてするはずないって。友達を疑うなんて失礼ですし、私はここで帰らせていただきます。」
「成瀬……!」
直前までごねていた成瀬はどこへやら、彼女は反省した面持ちで深々とお辞儀をする。その様子に、俺は思わず感嘆の声が出る。
だが、イマイチ納得が出来ていない人が一人いた。
「ちょっと待って」
「どうしました、琴乃?」
「正直付いていけないんだけど……え?麻衣香とター君って、どういう関係なの?」
その質問に、俺と成瀬は顔を見合わせる。まあ、正直佐倉相手であればちゃんと説明した方が後々問題は無いだろう。
とは言え、この関係をなんと説明すればいいだろうか……。友達?相棒?パートナー?どれも間違っていないがイマイチしっくりこない。いや、ここはもう正直に全て話した方が誤解がないかもしれない。
「「俺達(私達)は……」」
俺達は特に示し合わせることなく、二人ともその答えにたどり着いた。
「「一緒にラブコメする関係だな(です)」」
俺達は再びお互いの顔を見て、同じ思考を辿ったことに喜ぶ。
「いやいやいやいや、それはおかしいでしょ……」
しかし、佐倉は引きつった声を上げる。うつむいて、目の前にある光景が信じたくないと言いたげな上ずった声だった。
「さ、佐倉……?大丈夫か?」
俺が声を掛けると、佐倉はゆっくりと顔を上げる。その表情は……
「ひっ」
今日会ったばかりのはずの成瀬が思わず声を上げるほど……満面の笑顔だった。
「とりあえず、二人とも上がってもらおうか。話はそれから聞くよ」
「「は、はい!」」
今の佐倉に逆らってはならないと、本能が言っていた。
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