ラノベ作家とラブコメ計画
第9話 朝の来訪者
パスタ丸との出会いを果たした、翌朝。
ドタバタという足音とドアを勢いよく閉める音で目が覚める。時計を見るとそこそこいい時間で、寝ぼけた頭を強制的に覚醒させるために無理やり布団をはがして起き上がり、カーテンを開ける。
いつもはこれでしゃっきり起きられるのだが、今日はなんだか体が重く、明らかに疲れが取れていない。
「そりゃ疲れるよな……」
思い起こされるのは昨日の出来事。あの後はお互い衝撃が大きすぎて、事態を理解するのに時間が必要と言うことで、俺たちはそのまま喫茶店で別れた。あれ以降特にお互いに連絡は取っていない。
協力してもらうことになったとはいえ、あくまで形式上でビジネスライクな付き合いをしていきたいということなのだろう。俺も正直その方が助かるので、連絡が来ないのはありがたかった。
思いっきり伸びをしていたら、階下から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「夕ー、ご飯できてるからそろそろ起きなさーい」
「はーい」
母の呼ぶ声が聞こえ、俺はもう一回伸びをして階段を下りて行った。
「おはよー」
「おはよう、案外早かったわね」
「もう起きてたからね」
キッチンには俺の分の食器を出してそこにパンを置く女性が一人———俺の母、神野明美である。父が単身赴任でいない中、自分も仕事をしつつ、一人でこの家を守ってくれている立派な人だ。
「とりあえず歯磨いて、さっさとご飯食べちゃいなさい」
「うーい」
歯を磨き顔を洗って、食卓に座る。
「
「もう出て行ったわよ、部活の朝練だって」
「そっか」
ウチの妹は既に学校に向かっているらしい、ご苦労なこった。
「そういえば、お母さんしばらくちょっと仕事忙しくなりそうなんだけど、ご飯とか、陽毬とどうにかしてくれる?」
「ん?ああうん、大丈夫だよ」
パンを口に含んでいたので、飲み込んでから返事をする。別にそのくらいなんてことないのだが、母さんは申し訳なさそうにする。
「悪いわね、新作書く時間取っちゃって」
「いいよいいよ、気にしないで。母さんの仕事が忙しいのは分かってるし、俺も陽毬も応援してるから」
「そう……ありがとう」
母さんの仕事は大学で研究職をしているらしい。詳しい話はさっぱり分からないが、その筋では結構有名らしい。
ちなみに、家族は俺の執筆活動について知っており、全面的に応援してくれている。各々がやりたい事があれば、家族ぐるみでサポートする。それが神野家の家訓だ。
「ちなみにどう?新作の調子は。進展あった?」
「いや、まあ、なんていうか……」
言葉に詰まる俺、作品の進展は正直無いのだが……。成瀬との一件は、進展に含めてもいいんだろうか……。言いよどむ俺をどう捉えたのか、母さんは優しい笑みを浮かべる。
「まあ、一冊本が世に出る背景には、たくさんの日の目を浴びなかった作品たちがあるからね。めげずに頑張りなさい」
「……ありがとう。」
しみじみと言う母さん、論文などを書く彼女としても、俺の境遇に共感するところがあるのかもしれない。
「ご馳走様でした」
手を合わせて、食器をシンクに置く。今日は早めに起きたので、ここから一息つく余裕がまだある。しかし母さんはそうも行かないようで、バタバタと化粧を始める。
ぴーんぽーん
大変そうだなぁと、母をぼんやりと眺めていると来客を知らせるチャイムが鳴った。
「陽毬が忘れ物したのかも、夕くんドア開けてくれる?」
「はーい」
よっこいせ、と朝飯が入り少し重たい体を持ち上げて玄関へと向かう。
朝練のために早く家を出たのに忘れ物をするとは、我が妹ながらうっかり者だな……。
ぴーん、ぽーん
「はいはい、今出ますよー」
チャイムが再度ゆっくりと、自分が来たことをよく知らせるように鳴る。
しかし珍しい、陽毬なら家にいる俺たちの迷惑を考えずにピンポン連打するはずだが、今日は随分と大人しい。
あいつもついにその辺が考えれるようになったか………。少し感慨にふけりながら、玄関に到着し俺はドアを開ける。
「おはようございます、神野君」
しかし、そこに立っていたのは陽毬ではなかった。
「な、るせ ……?」
予想だにしていなかった来客に愕然とする俺に、彼女は天使のように、ふわりと優しく微笑む。
「ちょっと夕、玄関で何してん……」
化粧の途中で様子を見に来た母さんの表情は、見ないでも分かる気がした。
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