第29話
俺は、スマホを手に取り、ニュースサイトをチェックしてとあることを調べていた。
調べていた内容は、テンペストギルドのダンジョン攻略についてだ。
目に飛び込んできたのは、「テンペストギルド、大宮ダンジョンのダンジョンコア破壊へ」という記事だ。
……本当に攻略しに行っちゃうんだ。
記事の詳細をみてみると、どうやら、ダンジョン内部で異常な数値が確認され、スタンピード寸前だということが分かったため、土曜日の昼頃を目安に攻略しに向かうようだ。
俺が今回、大宮ダンジョンを選んだ理由は欲しいスキルがあったからだ。
一つは、昨日獲得済みの【筋力強化】だが……もう一つは今日取りに行く必要がある。
すでに、警察とも連携し、大宮ダンジョンについては閉鎖してしまっているそうで、一般人の入場はできなくなってしまったとも書かれている。
……だけど、どうしても手に入れたいスキルがあるんだよね。
このダンジョンにいるというグラビトールという魔物がいて、そいつは重力を操るような力を持っているみたいなんだよね。
つまり、もしかしたら【重力魔法】を獲得できるかもしれないということ。
【重力魔法】をうまく使えれば、戦闘の幅が広がったり、空を飛んだりできるようになるかもしれない。
何より、かっこいい。
そんなわけで、大宮ダンジョンに一刻も早くいって、グラビトールのドロップを確認する必要があった。
テンペストギルドがダンジョンコアの破壊に動くまだまだ時間はある。
それまでにダンジョンに潜り、グラビトールを倒すんだ。
身支度を済ませた俺は、早々に大宮ダンジョンへと向かった。
大宮ダンジョンの入口には、すでにテンペストギルドの見張りや警察などによって近づかないようになっていた。
……ただ、彼らはあくまで周辺の通行止めを行っているだけで、ダンジョンの入り口を完全封鎖してあるわけではない。
その近くに立って、巡回するように、あるいはお喋りをしながら監視しているだけ。
おかげで、侵入は問題ないだろう。
俺は【偽装】を発動し、大宮ダンジョンへと歩いていく。
……俺からは完全に見えているわけで、堂々と彼らの目の前を横断するように歩いているのでめちゃくちゃ緊張はする。
でも、昨日嵐堂さんが俺に気づかなかったように、皆俺のことは素通りしてくれている。無事、大宮ダンジョンに侵入できたので、階段を降りて一階層へと進む。
一階層で【索敵】を使用すると、たくさんのゴーレムの出現地点が確認できた。
スタンピード直前なので、その出現数も増えてしまっているようだ。
あんまり、無駄な戦闘はしたくないので、避けて進む。
……何より、スタンピード前の魔物は通常よりも強いことがほとんどだ。
下手に戦闘に時間をかけてしまって、テンペストギルドの人たちがやってきたら面倒だ。
それでも、どうしても避けられないゴーレムだけは倒して進み、二階層へと降りる。
この階層もたくさんいるなぁ。
グラビトールがこの階層から出現するので……一体だけ出現する場所を狙って歩いていく。
やがて、黒い霧が集まり、グラビトールが出現した。
全長三メートルほどの、黒く巨大な岩の巨人だ。
「ガアアア!」
まだ、【偽装】は使っているけど、やっぱり気づかれている。
グラビトールが、こちらに片手を向けてきたので、横に跳ぶと、俺がいた位置の地面が沈むのが見えた。
……重力を操るのは、確かなようだ。
俺はすぐに【強欲】を発動し、ドロップアイテムを確認する。
……【重力魔法】。ちゃんとある! 来た甲斐があった!
テンションが上がってきたけど、落ち着こう。まずはこいつを倒さないとね。
さらにグラビトールが魔法を使ってきたが、俺はすぐに【瞬足】を使い、グラビトールの背後に回り込んだ。
持っていた短剣を振り抜くが、その巨体は頑丈で攻撃は通らないようだ。
では、魔銃はどうだろうか。
攻撃をかわしながら魔銃を構え、魔力弾を撃ち込む。何度もグラビトールに放っていくと、その巨体が崩れ落ちた。
……うーん。魔銃でも倒せないことはないけど、やっぱり魔法が手っ取り早いなぁ。
防御の高い相手を魔法以外で崩す方法があればと思ったけど、そう簡単には見つからなそうだ。
とりあえず、無事討伐したのでドロップアイテムを確認する。
待ち望んでいた【重力魔法】のスキルカードがちゃんとドロップしてるね。
もちろん、すぐにそのスキルカードを使用する。
スキルを獲得した俺は早速、【重力魔法】を発動する。
目の前の地面に放ってみると、そこに確かに重力がかかっているのがわかる。
……重力を倍にすることはできるが、だったら重力を半減させることもできるはず。
俺は早速それを自分の体に使ってみると……体が浮いた。
「おお! いけた!」
ただ、ちょっと操作が難しい。うまく調節しないと、自由に飛ぶことはできなさそうだ。
【飛行】と【浮遊】みたいなスキルがあるなら、きっとその方が楽に飛べるんだろうけど、これはこれで楽しい。
このダンジョンのように天井までが高く、開けた場所であれば飛んで移動することもできる。
しばらく、楽しくなってその場で練習していると……結構時間が経っていた。
まあ、別に……ダンジョンから急いで脱出するつもりは特にない。
というのも、俺はこのままテンペストギルドのダンジョンコアの破壊までの様子を観察しようと思っていたからだ。
……もしかした、近いうちに星谷町ダンジョンの攻略を行うことになるかもしれないからね。
知識としてどうすればいいのかは知っているけど、実際に見たことはなかったので、ここで学んでおきたかった。
一階層に移動して【重力魔法】での飛行練習をしていると……来た。
ぞろぞろとテンペストギルドのメンバーたちが入ってきた。
「そ、それでは……今回はよろしくお願いいたします」
……テンペストギルドのメンバーたちに合わせ、テレビ局も同行していた。
たまに、ギルドとかがダンジョンでの戦闘を撮影するための取材を受けていたけど、たぶん今回もそれなんだろう。
「ええ、よろしくお願いいたします」
先頭にいたリーダーの嵐堂さんが笑みを浮かべる。
さらに、今回は……確かサブリーダーの笹間さん……だったかな? も一緒に来ていた。
さらにぞろぞろギルドメンバーが入ってきて……総勢三十人ほどのチームとなっていた。
「今回、大人数ですよね?」
同行していたアナウンサーの問いかけに、嵐堂さんは笑みを浮かべる。
「ええ、そうですね。一応、普段は十人程度でダンジョンコアの破壊に向かいますね」
「それだけ、危険ということでしょうか?」
「いえ、そうではないのですよ。今、鍛えていた若手のメンバーにも、ダンジョンコアの破壊を経験してほしかったので、同行していただきました。とはいえ、Dランク、Cランク探索者ばかりですから足手まといになることはありませんよ」
「……凄いですよね。テンペストギルドが日本最強のギルドではないかと言われているのはその徹底的な育成環境ですよね」
「最強は……目指してはいますが、まだまだですよ。もちろん、今回もB、Aランクの精鋭メンバーも揃えていますから、安心してください」
テンペストギルドの宣伝も兼ねて、今日はダンジョン攻略を行っているようだ。
ギルドだと新人探索者の育成もしないといけないもんね。
まあでも、最低十人は必要なんだ……。
Dランクダンジョンでもここまでの規模で対応する必要があるとして、星谷町なんて、町全体の戦力を集めてもここまでの人が集められるかどうか……。
やっぱり、大きいギルドにお願いしないとダメだよね。
「スタンピード前のダンジョンでは侵入者を拒むかのように、より強力な魔物を生み出してしまいそうです。……その数もいつもよりも増えていくため、一階層の魔物相手でもかなり戦闘が大変というお話です。それが、複数体襲ってくる可能性があるわけですので……ここからのテンペストギルドの戦いに注目していきましょう」
アナウンサーがそう説明をしていった。
……俺の場合は、【索敵】スキルで魔物の出現位置まで把握できるが、それ自体が珍しい。
そうなると、正面突破するしかなくなるわけで、それだけ人手も必要になるんだろう。
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