第20話



 日曜日は、朝早くに渋谷ダンジョンの七階層に行き、スリープシープの討伐と呼ばれる魔物を討伐した。

 こいつは羊のような姿をした魔物で、こちらを睡眠状態にする攻撃をしてくるのだとか。

 ソロでは、状態異常耐性は特に大事だと思っている俺は【睡眠無効】が手に入るかもと、日曜日の【強欲】をこいつに使用して、【睡眠無効】を手に入れた。


 これで、毒、麻痺、睡眠は効かなくなった。主要な状態異常はこんなところだが、他にもまだまだ色々とあるので、今後も状態異常耐性に関しては集めていきたい。

 ……あとは、やっぱりファントムとしての活動用のスキルかな。

 この前の渋谷でもそうだったけど、あちこちにカメラがあった。……一応、【索敵】で捉えることができるので、姿を隠せるようなスキルがあるのなら欲しい。


 ……あるかな?

 姿を隠すような魔物がいるけど、あれってどうなののだろうか? それとも、また別のスキルになっちゃうのかな。

 星谷町ダンジョンの九階層にも、カメレオンと呼ばれる魔物がいて、こいつは姿を消すんだよね。


 【透明化】のスキルとかになるんだろうか? ……まあ、【透明化】でもかなり使い勝手は良いと思うけどね。

 まあ色々とあったけど、渋谷まで足を運んだのは大成功だったと思う。

 今回の目的は果たせたので、日曜日の夕方には星谷町へと戻った。




 月曜日の朝。いつものように登校し、教室に入ると、すぐに耳に飛び込んできたのは、ファントムの話題だった。


「なぁ、見たか? ファントムの動画、めっちゃカッコ良かったんだぞ!」

「見た見た! この前の渋谷の奴だろ!? 凄かったよな!」


 あちこちでファントムの名前が飛び交っていた。

 ……ファントムの動画? 別に俺は動画をあげていない。

 ……あー、そういえば、現地でたくさん撮られてた。

 スマホを取り出し、動画投稿サイトを見てみる。


 ファントム、と入力するとすぐに『ファントム 渋谷』とかそういうワードがたくさん出てきたので、それで検索してみると……たくさんの動画があった。

 やっぱり俺が助けた場面が、投稿されているようだ。……まあ、別にファントムだからいいんだけどね。

 もしもこれが、自分の素顔だったら絶対無理だったけど。

 試しに一番上の五百万回再生されている動画を見てみる。


 再生回数だけでなく、コメント欄も凄いことになっていた。

 褒めるコメントが前よりも増えているみたい。

 ……うん、嬉しいかも。ファントムが皆に認められていて、俺は少し嬉しくなる。

 ただ、やはりアンチコメントもいくつかある。


『ファントムってダサくね?』

『厨二すぎてキモイ』

『渚ちゃんに近づくな』

『犯罪を手配して自分で解決しているふりをしているだけのクズ』


 などなど。

 くそぉ……批判する人たちもまだまだいるかぁ。

 もっと、頑張っていかないと。


 確かにまだまだアンチもいるけど、称賛の声が圧倒的に多い。

 ……とりあえず、良かったかな。

 動画を見終えた俺は、満足してスマホをしまうと、ちょうど桜井さんがやってきた。

 クラスメートたちと挨拶をかわしながらやってきた彼女は、微笑を浮かべてきた。


「あっ、おはよう、瀬戸くん」

「おはよう、桜井さん」


 ……挨拶されるとは思っていなかったので、少し驚く。

 一応、彼氏っていうことになっているし、挨拶してくれたのかもしれない。

 そんなことをぼんやりと考えていると、桜井さんがこちらの席にやってきた。


「……瀬戸くん、相談したいことがあるんだけどいいかな?」

「何?」

「……今日の放課後一緒に帰れない?」

「え? 別にいいけど……何かあった?」

「実は、金曜日に他校の生徒に告白されちゃって……それでその、彼氏がいるからって断ったんだけど、しつこくて……」

「え!? また?」


 桜井さんは少し困った顔で頷いた。

 ……他校の生徒に告白されるって、俺には信じられない出来事だ。


「……うん。だから、そのしばらく一緒に帰ってほしいっていうか……も、もちろん、暇なときでいいんだけど」


 桜井さんは慌てた様子で両手を振ってくる。

 ……今はファントムじゃないけど、困っている人を助けたいっていう気持ちは変わらない。


「別にいいよ」

「ほ、ほんと?」

「うん……大丈夫だよ」

「……そ、そっか。……ありがとね、じゃあお願いします」


 ぺこり、と桜井さんが頭を下げてきた。

 ……少しだけ笑顔を浮かべてくれて良かった。

 ファントムのようにかっこよくはないけど、今の俺でも誰かの役に立てるみたいだ。


 それから、思い出したように桜井さんが口を開いた。


「そういえば、瀬戸くんの家ってどこら辺なの? 私、駅の方になるんだけど……」

「……あー、えーと……」


 桜井さんの家、あっちの方か。この学校を中心に見て、駅の方は北側だ。

 俺の家は、南側にあるので……逆方向である。

 もしかしたら、桜井さんが気にするかもしれないと思って、ちょっと言いづらかったけど、桜井さんが首を傾げてきたので、続ける。


「……南の方なんだよね」

「え!? あっ、じゃあ逆方向になっちゃうし……悪いよ」

「ううん、大丈夫だよ。……放課後はダンジョンに入ることもあるから」

「……本当に? 無理してない?」

「うん、大丈夫だよ。それじゃあ……放課後、ね」

「……うん、ありがとね。大変なときには言ってくれていいからね?」


 桜井さんの言葉に小さく頷いた。

 ……実際、いつもダンジョンに行っているので、強がりでも気を遣っているわけでもなく、本当に大変なことはなかった。



 放課後、俺が教室にいると、桜井さんがこちらへとやってきた。


「それじゃあ、一緒に帰ろっか」

「……うん」


 桜井さんの言葉に合わせ、俺もカバンを持って席を立つ。

 その時だった。クラスメートの数名がちらちらとこちらを見ていた。

 ……なんだか、驚いたような意外そうな様子だ。

 その人たちの横を通るときだった。桜井さんが声をかけられた。


「あれ? 桜井さん? ……その人と一緒に帰るの?」

「うん、そうだよ」

「……え? 意外」


 意外、といわれるのは仕方ないよね。俺と桜井さんは学校での立場があまりにも違いすぎるし。

 桜井さんが何かを言うより先に、田中くんが声をかけてきた。


「意外って言ってもな。瀬戸と桜井は付き合ってるんだぞ?」

「……えええ!?」

「そんな驚かなくてもいいじゃん。ね、火蓮」

「……う、うん」


 桜井さんが頷くと、さっきよりも驚いた様子で声を荒らげる。

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