第4話
俺の両親は、昔ダンジョンから魔物が溢れるスタンピードに巻き込まれて……死んでしまった。
たまたま、両親ともが出張先で、運悪く……。
天涯孤独になってしまった俺を、両親と仲の良かった友人が拾ってくれ、大事に育ててくれたから……今の俺はある。
ただまあ、義両親にも娘がいて今は高校一年生。
家に同年代の血の繋がっていない男がいたら嫌かもと思い、今はアパートで一人暮らしをしていた。
中村さんから検査用の魔道具を受け取り、各階層の何ヶ所かで装置を起動し、測定していく。
測定自体は、こうして魔道具を使うだけですぐ終わるけど、もちろん道中魔物には襲われる。
星谷町ダンジョンは、広大な草原のようなフロアになっているため、敵に奇襲をされるということはほとんどない。
俺は、迫ってくる魔物たちを片手の魔銃で撃ち抜き、近づかれた相手には短剣で応戦する。
これが、瀬戸悠真としての戦闘スタイルだ。
ファントムのような大剣でのパワーファイターではなく、手数で攻めるスピードファイター。
真逆とも思えるスタイルなので、万が一にも俺とファントムが同一人物だと気づく人はいないだろう。
そんな感じでダンジョンの各階層の検査をしていったけど、特に大きな問題はなかった。
各階層、指定された場所で測定したし、なんなら昨日ミノタウロスが出現した地点は特に念入りに測定したんだけど、いつも通りの数値だ。
「……最近、イレギュラーの目撃情報は多いんだけどなぁ」
挑戦した探索者が、本来出現しない魔物に襲われたというのは何度かあった。
その度に俺が討伐を行っていたんだけど……やっぱり、測定値自体はおかしくないんだよなぁ。
ひとまず、最終階層である十階層へと行き、いつもの通りダンジョンのボスモンスターであるゴブリンロードの討伐を行った俺は、ダンジョンコアがあるフロアまではいかず、そのまま引き返した。
十階層のボスを討伐することで、さらにその奥にある扉を開くことができる。そこにあるダンジョンコアを破壊することで、そのダンジョンは完全攻略となる。
攻略されたダンジョンからは魔物が消え、数時間後に迷宮自体も消えることになり、ダンジョンによる様々な脅威がなくなるのだが……それはお上の許可がないと行ってはいけない。
ダンジョンは貴重な資源が眠っているからだ。
……一応、やることはやったし、戻ろうかな。
俺は測定器の結果の履歴を確認して、まったく変わらない数値にため息をつく。
これ、壊れているんじゃないだろうか? そんなことを考えながら、俺は協会へと戻っていった。
……協会に戻った俺は、少し驚いてしまった。
クラスの、イケてるグループの人たちがいたからだ。
全員の苗字くらいは覚えていたんだけど……向こうはきっと俺のことなんて認知もしていないだろう。
……ダンジョンに入る前に制服から、魔物の素材で作った私服に着替えておいたのでたぶん、気づかれることもないだろう。
そう思って中村さんに、測定器を提出して帰ろうと思ったんだけど、
「あれ? 瀬戸くん?」
「え!?」
イケイケ女子の中でも、特にクラスでも大人気の桜井さんに声をかけられた。
思わず、自分でもびっくりするほどの大きな声を出してしまい、恥ずかしくなる。
ただ、桜井さんは特に気にした様子はない。男子たちが、恐らくは素材の売却をしているのを待っている様子だ。
「いや、そんな驚かなくてもいいじゃん。クラスメートなんだし。私たちのこと知らないかな?」
「……い、いや知ってるよ。……桜井さんたちは、特に有名だし」
……やはり、同年代の人が相手だと緊張してしまう。声が上擦らないように、声が詰まらないように。そう意識すると、余計に緊張してなんだか背中から変な汗が出てきてしまう。
「そうかな?」
「ま、まあ……うん。そうだね」
……やばい。何も言い返しが思い浮かばない。
「ていうか、瀬戸くんももしかして探索者として活動中とか?」
「え、えーと……その」
……ど、どうしよう。
ファントムであることはもちろん隠しているのだが、俺は探索者として活動していることも誰にも話していない。
だって、高校生でCランク探索者って結構優秀だから。
俺が困っていると、素材の売却を終えた男子たちが戻ってきた。
「おー、換金終わったぜ。これからファミレスで打ち上げしようって……あれ? もしかして……クラスメートか?」
「そう、瀬戸くんだよ。私、一年生の時に同じクラスだったんだよ。あれ、覚えてる? ほら、最初の授業で教科書忘れちゃって、見せてもらったよね?」
「……う、うん」
……桜井さん、ぺらぺらと自然に言葉が出てきて羨ましい。
ていうか、そんな細かいことまで覚えている桜井さんは本当に凄い。
ていうか、距離感もなんだか近くて、きっとこれが男を勘違いさせる魔性の女性なんだろう。
……うん、俺も勘違いしないようにしないと。
「へぇ、そうなのか。もしかして探索者活動してたのか? ちょうどこれからファミレスで打ち上げだから、どうだ? 一緒に来るか? ちょうど、あとちょっと打ち上げの費用が足りなくてさぁ」
「ちょっと瀬戸くんにたかったらダメでしょ?」
爽やかな笑顔を浮かべる運動会系のイケメンという感じの彼は、田中くんという。
女子の一番人気が桜井さんだとしたら、田中くんは男子の一番人気だ。
でも、田中くんは他校に恋人がいるって話しをしていたことがあったような……。
教室で時々そんな話が聞こえてきたのでよく見てみると……一人だけ違う制服の女性がいた。
……もしかしたら、彼が田中くんの彼女なのかもしれない。
「ていうか……それって、もしかして測定器か?」
「測定器? なんだそれ?」
田中くんの言葉に別の人たちが声を上げる。
「測定器ってダンジョンの魔力量を調べる奴だよね」
桜井さんがぽつりと口を開いた。
田中くんがその言葉に頷いている。
「そうそう。でもなんでそれを瀬戸が持ってるんだ?」
……そ、その疑問は当然そこになるわけで。
俺は少し、焦っていた。どうしても、高ランク探索者であることを誰かに知られたくはなかった。
今の注目でさえ俺には辛いのに、さらに注目されるなんてできれば避けたかった。
けれど、この状況を打破するいい言葉が思いつかない。
俺が一人困惑していると、
「……少し、協会の雑用をお願いしていたんです。わざわざ測定器を運んでくれて、ありがとうございますね」
……女神が現れた。中村さんだ。彼女は俺が隠していることを察してくれたようで、俺の手から測定器を受け取った。
測定器に記録の履歴が残っているので、特に何か言われるということもないだろう。
ほっと一安心していると、それを見ていた田中くんが改めて聞いてきた。
「なるほどな。それじゃあ、改めてどうする? 一緒に行くか?」
笑顔で、また聞いてきてくれる。
……きっと、田中くんと少なくとも桜井さんたちは俺が参加しても気にしないんだろう。
もしかしたら、他の人たちだってそうかもしれない。
だけど俺は……気にしてしまう。
特に交流がない彼らのグループに突然参加して、その環境を楽しめる余裕は俺にはなかった。
「……ごめんね。今日はちょっと用事があるんだ」
「そうか? まあ、じゃあまた今度な!」
ぞろぞろと彼らは協会を去っていく。
その後ろ姿を見送りながら……いいなぁ、とは思った。
でも、きっと自分のような人間がそういう場所に参加しても、場の空気を悪くしてしまうだろう。
……やっぱり、瀬戸悠真だと……ダメだ。
そういう自分が嫌だから……。
余計に、ファントムに自分の理想を押し付けちゃうんだ。
結果的に、協会に知り合いもいなくなったので、俺は中村さんに改めて測定器の検査結果について話をしてから、家へと帰った。
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