第5話
ダンジョンで手に入るものは様々なものがある。
魔物を倒すと魔石や素材がドロップし、運が良ければ武器や防具といった装備品がドロップすることもある。
その中でも、現在もっとも世界が注目しているのは……スキルカードだ。
これは魔物が稀にドロップするものであり、そのドロップ率は極めて低いとされている。
ダンジョンが出現してから、今年で十年になるが、スキルカードは月に数枚発見できたらいいほうだ。
人によっては、ダンジョンに入り続けても、一章スキルカードを拾うことはできないかもしれないとさえも言われている。
実際、俺も小学校の頃からこっそりダンジョンに入って戦っていたのだが、未だに一度もスキルカードと出会うことはなかった。
スキルカードは、超高額で取引されており……もしも手に入れることができればそれこそ宝くじなんて目ではない金額が動くことになる。
例えば、海外で発見された【火魔法】と呼ばれるスキルカード。これは、火魔法が使えるようになるようだが、最終的な金額では五百億くらいだったと聞いている。
正直言ってふざけた金額ではないかとも思えるのだが……現代の兵器で戦闘機とかを用意するとなるとかなりの金額がかかる。さらに言えば、それらの燃料などの維持コスト、定期的なメンテナンスを含めれば……人間にスキルカードを使えばその人間の健康状態だけを気にすればいいのだから、そのくらいの金額になってもおかしくはないのかもしれない。
スキルカードには、もちろん上から下まで様々なランクのものがあり、すべてのカードがそんな高額で取引されるということもないのだが、どんなに安く見積もっても億はいくのではないか、というのが現在の世界の状況だった。
そんなスキルカードを――俺は手に入れてしまった。
目の前にあったスキルカードをじっと見ながら、その時のことを思い出す。
時刻は夜。
星谷町のパトロール……というわけではないが、軽い運動がてら町中を走っていた俺は、偶然にも魔物を見つけてしまった。
そいつはウルフだった。
星谷町ダンジョンに出現する魔物ではないので、恐らくは近隣の町から流れ着いたものだと思われる。
あるいは、イレギュラーが外に出てきたとか……いやいや、さすがにそんな低確率×低確率なできごとが発生しているとは考えにくい。
ダンジョンの外に、魔物が出ることは本来ない。
……ないのだが、スタンピードが発生する前などは魔物が外に出てきてしまうようになる。
そうなったら、すぐにでもダンジョンコアの破壊に向かう、というのが今の世界の常識なんだよね。
今の星谷町ダンジョンに、スタンピードの気配はなかったので、恐らくは近くの町で発生したものだったんだと思う。
隣の町で、ちょうどダンジョン攻略に向けての選抜メンバーが集められていたのは中村さんに教えてもらっていたし。
恐らくは彼らがダンジョンに潜る前に外に出てしまっていた魔物だったんだろうけど……そいつを倒したら……まさかのスキルカードをドロップした。
……そして、現在に至るというわけだ。
拾った瞬間はめちゃくちゃ焦った。
何せ、最低でも一億円で売れるであろうスキルカードが、ぽんと床に落ちたんだから。
それこそ、自由に一億円まで使えるクレジットカードが目の前に落ちたようなものなんだから、慌てない方がどうかしているだろう。
ひとまず、急いで回収し、すぐにその場を離れて自宅に戻ってきた俺は……大切にアイテムボックスにしまってここまでもってきた。
このアイテムボックスもダンジョンから手に入った魔道具だ。ただ、これはそこまで珍しい品物ではないし、そこまで便利ではない。
ラノベとかでよくあるような、中に入れたものの時間が停止するようなこともなければ、無限にアイテムがしまえるわけでもない。
せいぜい、普通のリュックサック程度の荷物をしまっておくことくらいしかできない。……まあ、便利ではあるんだけどね。
一人暮らしの静かな部屋で一人スキルカードと見つめあう。
……別にスキルカードを落としたところで、破損するということはないんだけど……なんだか無駄に慎重に手に持ってしまった。
まだ、スキル名も確認していなかったんだよね。
スキル名は――。
「……【強欲】、か? なんだか、あんまりいい名前じゃないなぁ」
でも、悪いスキルじゃない感じはする。効果までは書いていないので、自分で使ってみるか、検索してみるしかないんだよね。
ひとまず、ネットで調べてみようか。
日本の探索者たちを管理しているのは協会だけど、それらはすべて、ダンジョン庁と呼ばれる場所の管轄だ。
そのダンジョン庁が管理しているホームページに行けば、スキルカードを検索するためのページもあるため、もしもスキルカードを手に入れた場合はそこにそのスキル名を入力すれば、ヒットするはずだ。
……ただしもちろん、前例がなければヒットしないわけで――。
「……出ないなぁ。ってことは、初めてのスキルか」
……初めてのスキルとなると値段がどうなるかは分からない。
まあでも、俺は元々売るつもりはなかった。
億の金が手に入るからといって、俺はそれらには興味ない。
……い、いやちょっとくらいは興味あるけど、それよりも陰の実力者の活動のために使えるスキルを増やしたいとはずっと思っていた。
……なので、使いたいとは思っているのだが、迷いはある。
この強欲を売却した金で別の効果が判明しているスキルカードを買うという方法だ。
実を言えば、欲しいスキルはたくさんある。周囲の状況を把握するための【索敵】とか、あとは攻撃魔法なども使ってみたいんだよね。
夢はたくさんあるんだけど……でも、スキルを売却したときに税金もかかるからなぁ。
探索者が得た魔石などはすべて約10%の税金を差し引いた状態で支払われる。
日本は特に探索者が少ないせいか、その探索者を増やすために、これ以上に余計な税金がとられることはない。
確定申告などをしなくてもいいし、親や家族の扶養に入ったままでもいくらでも稼ぐことができるため、特に学生とかはアルバイトの代わりにダンジョンに入るほうが効率がいいとも言われている。
……まあいくらでも稼げるとはいえ、命の危険もあるから全然効率がいいとは言えないと思うんだけど、理論上は一番税金を気にせずに稼げるんだよね。
……そういうわけで、【強欲】を売却した際には手元に入るお金は減っちゃうわけで、【強欲】の価値が低かった場合は何のスキルカードも購入できない可能性がある。
……うん、やっぱり自分で使ったほうがいいよね。
俺は早速、自分の体からステータスカードを取り出す。
これは、ダンジョンの魔物を討伐すると手に入るものだ。
自分の名前と、世界ランキング、それと所有しているスキルが記載されている。
現在の俺は、『瀬戸悠真 ランキング 114514位』となっている。
これは単純な強さランキングというわけではなく、その人間の価値含めてのランキングと言われている。
全世界でみて、まあだいたい十万位くらいに入っている俺は探索者としてみれば優秀な方だと思う。
それだけ、まだまだ探索者の手が足りていないということでもある。
このランキングについては、その人の強さだけで計算されるわけではないらしい。
例えば、スキルカードを使った瞬間に順位が跳ね上がることもあるそうで、その人間の価値、をダンジョンが示したランキングとも言われている。
なので、ダンジョンに入ってひたすら鍛錬を積んでいって強くなればその分ランキングは緩やかにだけど上がってもいく。
スキルを使う前は、この順位を確認しておくとスキルの価値が分かりやすいとも言われていたので、その順位を覚えながら俺はスキルカードを手に掴み、強く念じた。
……スキルカードの使い方、良く分からないけど、これでいいのだろうか?
そう思った次の瞬間。
スキルカードから光が生まれ、俺の体の中に消えていった。
……やけに、あっさりとしていた。もっとこう、なんか色々あるものなのかと思ったんだけど、何も感じない。
……まあ、身体能力を強化するようなスキルじゃなかったし、このくらいのものなのかもしれないよな。
さて、あとは俺の世界ランキングがどうなったかを確認しないと。
まさか、下がっていることはない……よね?
ステータスカードへと視線を向けた俺は、スキルの場所に【強欲】がしっかりと増えていることを確認してから、世界ランキングを確認する。
そこには『1位』と書かれていた。
え? あ、あれ。
目を擦ってから、もう一度確認する。
「んんんんん!?」
しかし、何度みてもそこには『1位』という文字が君臨していた。
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