第6話
……お、落ち着こう。落ち着くんだ、俺。
この世界ランキングというのは……ダンジョンが定めたものであり、まず間違いはないはずだ。
つまり……今の俺の価値はダンジョンから見て1位に匹敵するものであるということだ。
さっきまでの俺の順位からして、約十万人を一気に追い抜くほどの力が……この【強欲】にはあるということ。
「……や、やばい、よね。明らかに、これ」
日本人の世界ランキングの最高が97位だった。
世界ランキングはステータスカードだけで簡単に証明できるものなので、腕に自信のある探索者は皆それらをSNSなどに投稿し、自分の宣伝に使っていることが多い。
世界でも数少ないSランクの探索者として、テレビなどでは引っ張りだこだったので、俺も知ってはいた。
……今の俺は、実力的にはそこまで行かなくても、スキルだけでそれを抜き去るほどの価値を持ってしまった。
さ、さすがにこれほどのものは想定していなかった。
高ランク探索者が、スキルを獲得してごぼう抜きしたという話を聞いたことはあったけど、ここまでずば抜けたものは聞いたことがなかった。
と……とにかく、色々と考えなければならないことがある中で、俺が真っ先に思ったのは……ステータスカードが公式に提示されるものでなくて良かった、ということ。
相変わらずの自分の気弱な性格が理由なんだけど、もしもこれを見せる機会があったら、俺の意思とは無関係に表舞台に瀬戸悠真は駆り出されてしまうだろう。
本当に……良かった。
安堵はそこそこにして、俺はこの【強欲】の使い方を覚える必要がある。
使いこなせれば、世界ランキング1位になるような力を秘めているんだから、ちゃんと使えるようにしないと。
まったくもって使い方は分からないし、思い浮かばないけど……
「……【強欲】!」
とりあえず、叫んでみるけど、何も発動した気配はない。
……うーん、ダメかぁ。魔物相手に使ってみないとダメとかだろうか?
それかあるいは、パッシブスキルとか?
……パッシブスキルが、今の所一番可能性としては高そうなんだよね。
例えばだけど、魔物からのドロップ率が強化されるとか?
まさに、【強欲】という感じだと思うし、実際一回にドロップする素材が増えたり、ドロップ確率が上がるとなれば……それは探索者として生計を成り立たせるために非常に便利なスキルだと思う。
「……だけど、それでさすがに1位まで跳ね上がるのは、ちょっと変だよなぁ」
……めちゃくちゃ、気になる。
こうなったら、試してみようか。
もう夜遅いけど……ひとまず数回星谷町ダンジョンで戦ってみて、どんな効果か調べてみよう。
すぐに星谷町ダンジョンへと向かう。……あんまり夜遅くになると補導されてしまうので、速やかに実験だ。
一応、俺は協会と契約している探索者なので、それを証明すれば夜にダンジョンへと潜ることも許される。
でもまあ、警察の方の仕事を増やすわけだし、俺としても目立ちたくはなかったので、それをするつもりはなかった。
急いでダンジョンへと入った俺は、早速一階層を歩いていき、魔物を探す。
しばらく歩いていると、黒い霧のようなものが集まってきた。
ゴブリンだ。
俺はすぐに腰に下げている小さなアイテムボックスの一つから、魔銃を取り出す。
魔力の弾丸を込め、俺はすぐにゴブリンへと放った。
「ぎゃあ!?」
込めた魔力が相当なものだったので、ゴブリンは一撃で仕留められた。
……ただ、ドロップしたアイテムはいつもと変わらない。
まだ断定まではできないけど、パッシブスキル……じゃなさそう?
次は、戦闘中に使ってみよう。
しばらく歩き、再びゴブリンを発見した。
「……【強欲】!」
俺が再びスキルを発動した瞬間だった。
俺の眼前にゲームのウィンドウ画面のようなものが出現した。
「なんだこれ!?」
思わず声を上げてしまった。
ウィンドウ画面に書かれていたのは、簡単だった。
『ドロップアイテム:魔石、ゴブリンの爪、ゴブリンの牙、ゴブリンの棍棒、【索敵】のスキルカード』
……ゴブリンのドロップするはずのアイテムや素材だろう。これらのドロップアイテムは、すでに知られていたのだが、俺が聞いた話では棍棒までだった。
【索敵】のスキルカードがドロップすることは知らなかった。
そして……問題はここからだ。
『どのドロップアイテムをドロップさせますか?』
……そう、問いかけられていた。
選択肢は、先ほどのドロップアイテムの中から選べということなんだ、と思う。
……選べって……そんなの、誰がどう考えたってスキルカードを欲しがるだろう。
ただ、いくらなんでもそんなことが認められるとは思っていない。
だって、さすがにそれは……強欲すぎるのではないだろうか?
でも、できるかもしれないわけで……俺はそれを願ってみた。
すると、ウィンドウ画面は消えた。
「がああ!」
ちょうど、迫ってきていたゴブリンの攻撃をかわし、俺は魔銃をゴブリンへと向ける。
そうして、すぐに銃弾を放って……仕留めた。ゴブリンの体が黒い霧となって消滅したその後。
そこには……一枚のカードが落ちていた。
本日、二枚目のスキルカードのドロップ。……恐らく、運が良いと言われる人でもまずありえないほどのことが、目の前で起きた。
「……ま、マジで?」
俺はすぐに周囲にみられないように警戒しながら、アイテムボックスに入れる。
……【強欲】、やばすぎるよねさすがに。
世界ランキング1位にまで跳ね上がった理由がよく分かるぶっ壊れスキルだ。
そして、スキル使用後にも特に疲労などはない。……むしろ、それが怖い。
通常、スキルというのは発動の代償に魔力を消費する。
だというのに、今の俺から魔力が抜けた感覚はない。
それが、ちょっと怖い。
これほどのスキルを使っておいて、何もないなんて……そんなことあるのだろうか?
……そんなことを考えていると、再びゴブリンが現れた。
もう一度、使ってみようか。
今度は、心の中で【強欲】と念じてみる。
ただ、スキルは発動しなかった。ウィンドウ画面は表示されたのだが、
『現在このスキルは使用できません。再使用まであと3時間26分17秒』
……どうやら、スキルのリキャストがかなり長いようだ。
いやまあ、あれだけのスキルなんだからそのくらいはあっても当然だ。
ていうか……あと約三時間で使えるって、別にそんなに凄いデメリットってわけでもないよね。
……こんなスキルを持っていることが知れ渡ったら、大変なことになるだろう。
間違いなく、探索者界隈に多大な影響を与えるのは確実だ。
……今まで以上に、目立たないように気をつけないと。
今の俺は、まだ世界ランキング1位の実力を持った探索者ではない。
こんな、強大な力を持っていると知られたら、どこで誰に狙われるか分かったものじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます