第3話

 次の日。いつも通りに登校した俺は、教室へと入った。特に友人はいなく、誰とも関わることはない。

 学校での俺は……ぼっちだった。

 あんまり人とコミュニケーションをとるのが得意ではないため、こんなことになってしまっていた。


 でも、構わない。

 陰の実力者は孤独なものだから……。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は教室でラノベを広げる。

 陰の実力者としての矜持を、様々なものから学びとる必要がある。


 そのために、ラノベはいい勉強になるんだよね。ペラペラとページをめくっていたときだった、大きな声が聞こえてきた。


「そういえば、昨日の渚ちゃんのダンジョン配信チャンネル見たかよ?」

「お いやまだ見てないけど昨日はなんか、この町に来てたんだよな?」

「お前バカ! 見てないのかよ! 昨日凄かったんだぞ!?」

「え? 何がだよ?」


 俺も少し気になった。

 ダンジョン配信というのは、ダンジョンが世界に出現してから急速に流行り出したジャンルの一つだ。

 読んで字の如く、ダンジョンに入って戦闘している様子を配信するというものだ。

 俺自分の戦闘の参考にできるかもと見たことはあるけど、あんまりそういう配信をしている人は少なかった。


 あくまでその配信者を楽しむためのコンテンツであり、俺はそんなに興味がなかったのでほとんど見ていなかったので詳しいことは知らないんだけど。


「イレギュラーモンスターが現れてな! もうダメだってなった時に、全身黒の外套を纏った仮面の男が現れたんだよ!」


 え? 何その既視感ある状況。


「え? なんだそれ? やらせとか?」

「いやいや、あれは絶対違うって。渚ちゃんも知らないらしくて、あとで正体突き止めるって言ってたからな。……とにかくもう大盛り上がりだったんだぜ? 瞬間同接な三十万人近くまでいってお祭り騒ぎ。ネットじゃ、ファンたちによる特定班も現れてんだからな」

「へえ……うお、マジじゃん。切り抜きめっちゃバズってんじゃん」


 ……おいおいおいおい。

 俺も思わずそのチャンネルについて調べてみる。

 海原渚チャンネル、というそうだ。


 どこかの事務所に所属しているダンジョン配信者……らしい。

 ちょうど俺が戦っている場面の動画が切り抜かれていた。

 試しに開いてみると、それはもう圧倒的な力でミノタウロスを倒したかっこいいのがそこに映っていた。


 ……我ながら惚れ惚れする手際だ。

 あんまり、目立つのは好きじゃないけどこの姿ならいいな。

 あくまで、そこにいるのは俺であって俺じゃないんだ。

 もう一人の、理想とする自分。それが、そこにいる陰の実力者……ファントムだ。

 ファントムの事、皆もかっこいいと思ってくれたかな?

 そう思ってコメント欄を見に行くと。


『厨二すぎて草』

『痛い奴』

『そもそも、人の獲物横取りしてるのなんなんだこいつ?』

『渚ちゃんが困るまで見てたろこのカス』


 か、かっこいいって誰も言ってない……! だ、ださいって……!

 かっこいいだろ!

 ……くそぉ、ネットの奴らにこの魅力はわからないか。


 あまりコメント欄をみていても精神的に病みそうなので、俺はそれ以上は見ることをやめた。

 ……思っていたよりもド派手にデビューしてしまった。

 ……と、とにかく、身バレに繋がることだけは絶対避けなければならない。


 陰の実力者は、その正体を隠すからこそ、意味があるのだから。

 だ、第一……目立つのは苦手だし。

 これからは、自分の行動をもっと気をつけていかないとな。


 そして……もっと大活躍して、絶対にかっこいいって言わせてやる……!




 無事、放課後を迎えた俺はその日も探索者協会へと向かう。

 星谷町役場の横に併設されたそこは、政府公認の探索者やダンジョンを管理するための機関だ。

 都会にある協会と違い、この町はそこまで大きくないからか、とても小さい。受付は三つしかないし、三つ稼働しているところを俺は見たことない。


 都会ならば常に誰かしら探索者が来ているものだが、この町自体の人口が少ないこともあって、閑散としている。

 そんな協会に俺が訪れた理由は簡単だ。俺がこの町唯一のCランク探索者として、呼ばれたからだ。

 受付にいた、よく俺の対応をしてくれる中村さんがこちらに気づいた。


「中村さん、こんにちは」

「こんにちは、瀬戸くん。いきなり呼んじゃってごめんね」

「いえ、僕も学校が終わったところですから、気にしないでください」


 瀬戸悠真。それが俺の名前だ。

 普段の生活では……俺は僕と言っている。……ファントムのように堂々とするのが苦手で、気づいたら俺は自分のことをそう呼んでいた。


 中村さんはとても綺麗な人であり、話すときは少し緊張する。

 でも、同年代の女性と接する時と違って、年上の人と話すときはまだいくらか緊張はしなかった。

 ……同年代だと、変に意識しちゃうんだよね。


「そういえば、瀬戸くんは今ネットで話題になってる、海原渚ちゃんの動画って知っていますか?」

「……学校で、少し耳にしました」

「それなら、良かったです。海原さんって子がそのチャンネルの運営をしていますが、この星谷町第一ダンジョンでミノタウロスと交戦してしまったみたいなんですよ」

「……みたいですね。本来、高ランクダンジョンに出現する魔物ですから、かなりネットでも騒がれていましたね」

「そうなんですよ。一昨日もダンジョンの魔力量を検査して頂いていましたが、また上から再調査をしてほしいという話がありました。ですので、調べてきていただけますか?」


 ダンジョンというのは、生き物のように成長してしまうことがある。

 何が原因で成長するかは分からないのだが、突然ダンジョンのランクが上がってしまい、出現する魔物が変化することがある。

 だから、各階層の魔力量を調べる必要があった。


「報酬に関しては……その、私も話をしたのですが、そんなにお金は出せないと言われてしまって――」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」

「……申し訳ございません。日当で一万円となります……申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 星谷町ダンジョンの現在の攻略難易度はEランクと設定されている。

 このダンジョンの各階層の調査を行うのなら、だいたい一階層辺り、一万円くらいが相場になると思う。

 全部で、十階層になるので、安く見積もっても十万円くらいはかかる。


 ……相場とかを歪めちゃうから本当は、あんまり安く受けない方がいいんだけど、俺としても町のために何かしたいと思っていた。

 ……この町は、俺の亡き両親の故郷だからね。

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