第11話

 年齢は同じくらいに見える。

 皆、綺麗な容姿をしていて、俺は少し警戒してしまった。


「……も、申し訳ありません。ソロで潜っているので……」

「あっ、そうなんですね。いえいえ気にしないでください。……お若いですよね? もうEランクダンジョンを一人で戦えるんですか?」

「……えーと、まあ。ちょっと、苦戦はしますけど」

「そうなんですね。それでも、一人で戦えるなんて凄いですね。気を付けてくださいね」


 そんな世間話をしてから、俺は黒い扉に触れて、ダンジョンへと入っていく。

 渋谷ダンジョン内部は遺跡のような造りをしている。壁には松明のようなものがついているのだが、それとは別に何やら天井から光のようなものが落ちていて、明るい。

 ……星谷町ダンジョンは時間に応じて景色が変化するダンジョンだったけど、ここは遺跡の中なので時間感覚が分からなくなりそう。


 通路がいくつもあるけど……すでに渋谷ダンジョンはたくさんの人が入っていて、ネットを調べればいくつも地図は出てくる。

 ダンジョン庁から、公式のものも配布されてるしね。

 なので、道に迷うことはない。


 入口から地下への階段を進んでいき、とりあえず、さくっと一階層の魔物から【強欲】を使ってスキルカードを手に入れようと思ったけど。


「よっし! 倒したぜ!」

「凄っ! ていうか、スキル持ちって本当だったんだ!」

「まあな。オレのスキルは【ファイアバレット】だけど、まあ強いだろ?」


 ……そんな話が聞こえてきた。

 人によっては、ステータスカードを手に入れた瞬間にスキルを獲得している人もいるみたい。かなり低確率なので、もっている時点で宝くじに当たったようなものである。


 そういえば、海原さんも、そのレアスキル持ちだったみたいで、そういうこともあって配信者としての人気がある部分もあるんだと思う。

 スキルには、【火魔法】のような概念的なものから、【ファイアバレット】のようなスキルそのものの名前まで様々あるそうだ。


 基本的には、やっぱりスキル一つしか使えない【ファイアバレット】よりも、【火魔法】のほうがレア度は高いと言われている。


 ……それにしても。

 人、人、人、魔物! 人が多い!

 あちらこちらで、戦闘が繰り広げられている。

 試しに、【索敵】を使用して周囲の状況を確認してみる。


 ……うん、凄い数の人だ。少ない魔物を、大量の人間が狙っている状況だ。

 少し歩けば誰かしらに遭遇する状況なので、はっきり言って一階層で戦闘をするのは大変そうだ。 

 ていうか、魔物を倒したところを誰かに見られてしまうだろう。


 スキルカードがドロップしたところを見られたりしたら、大変な事態になるのは目に見える。

 【索敵】を駆使すれば、うまく人がいないタイミングを狙って魔物を倒すことはできるかもしれないけど……万が一を考えたらなぁ。

 もしも、一階層の魔物を狙うなら、朝早い時間とか深夜とかを狙うのがいいかもしれない。


 ……人が少ない階層まで行って、そこで魔物を倒そうか。

 二階層も……まだ少し人がいる。

 三階層は……とりあえずいない。よし、ここで魔物を倒そう。


 三階層に出現する魔物は、パラライズビーと呼ばれる魔物だ。こちらの体の感覚を鈍らせる麻痺の状態異常を使ってくる魔物らしく、この階層は不人気。

 もしも挑む場合は、必ず複数で戦うようにしましょう、と渋谷ダンジョンの攻略サイトには書かれていた。


 ……都会のダンジョンについて調べていて驚いたのが、ちょっとダンジョンについて調べるとたくさんの攻略情報が出てくるんだよね。

 地方のダンジョンって、出現する魔物とマップが載っていたらいいほうだ。

 星谷町ダンジョンは俺がダンジョンの調査とマッピングを行ったからまだ正確に分かっているけど、本当に過疎化してしまっているダンジョンの場合、調査員すらも派遣できないので一階層くらいの情報しかないこともザラだ。


 攻略情報では、この三階層は無視して四階層に行く方がオススメと言われていた。

 だから、三階層に滞在している探索者はほとんどいないわけで、俺にとっては有利というわけだ。

 ……うん、【索敵】もよく機能している。スマホに保存したマップと合わせれば、どこに魔物がいるのか手に取るようにわかる。


 複数体出現する場所は無視して……一体を確実に狙おう。

 Eランクダンジョンだから、たぶん大丈夫だと思うけど、油断したらすぐ死んじゃうようなのが探索者だからね。

 【索敵】で見つけた方へと向かい、予定通り一体のパラライズビーを発見した俺は、早速【強欲】を発動する。


 ……スキルカードは、【麻痺無効】か。

 【麻痺攻撃】かもとは思ったけど、ソロだと状態異常耐性は大事なので【麻痺無効】の方が嬉しい。

 【麻痺無効】を選択した俺は、こちらへと向かって飛びかかってきたパラライズビーを、魔銃で仕留めた。


 ……よし、スキルカードゲット。そして、すぐに使用する。

 周りには誰もいない。……ちょっと安心する。

 これで、このパラライズビーを相手にしても、状態異常になることはなくなったので、安心して戦えるな。


 探索者も少ないので、ここで【闇魔法】の練習をしてみようか。

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