第12話




 【闇魔法】を使う前に、事前にやれることを色々と調べてみていた。

 【闇魔法】自体を手に入れた人はいないけど、【ダークアロー】、【ダークボール】のスキル持ちはいたそうだ。

 つまり、【闇魔法】でも同じことが再現できるはずなんだよね。


 ……わくわくしてきた。

 ずっと【闇魔法】を使いたくてここまで我慢していたんだからね。……早速、魔法を使ってみよう。

 魔法をどうやって使うんだろう? ……【索敵】みたいに意識するだけじゃダメだよね。


 ……魔力を意識して、それからダークアローを使っている場面を想像してみる。

 黒い矢、それを俺が狙いをつけて放っている感じ……。

 そう考えていると、体の奥から魔力が込みあがってきて、それが変化していくのが分かる。

 

 うん、出せそうだ。

 俺は片手を向け、そしてダークアローと心の中で呟いた。

 次の瞬間、まっすぐに黒い矢が放たれる。それは壁にぶつかり、僅かな音をあげて消滅していった。

 ……体から、魔力と思われるものが抜けていくような感覚。


「で、できた……!」


 魔法を、使った。

 子どもの頃からの夢だったその一つが、今達成できて、俺は滅茶苦茶テンションが上がっていた。


 ……いけない。ここは迷宮の中なので、あんまりはしゃぎすぎたらダメだ。

 口元が勝手に緩んできそうになるのを押さえながら、もう一度ダークアローを使ってみる。

 ……うん、問題ない。何度か使っていると、スムーズに魔法が使えるようになってくる。


 使っていって魔法に慣れてくれば、もっと威力をあげることもできそうだ。

 スキルとして確認されている【ダークアロー】と【闇魔法のダークアロー】では威力が違うのではないか? と言われている。

 例えば、【ダークアロー】は威力100で打てるが、【闇魔法】で同じことをすれば、威力90くらいが限界……みたいなことは言われている。

 まだまだ、どちらも極めた人はいないから、結論は出ていないみたいだけど、スキルなら、最初から全力を出せるみたいだから、そこだけ見たら別に悪いことばかりでもないんだよね。


 ただ、やっぱり汎用性が大きく変わってくるんだけどね。

 同じ要領で、ダークボールをイメージし、俺は眼前に放った。


 さっきよりも魔法の感覚に慣れたおかげもあるのか、問題なく使用できる。

 これが【闇魔法】のいいところだ。

 決して、一つの使い方に囚われることなく、威力、攻撃範囲、形など自分のイメージのままに作り替えることができる。


 オリジナルの魔法を研究して、自分だけの名前をつけてもいいんだしね。

 ……さて、攻撃魔法についてはこのくらいにしておいて、次にどうしてもやりたいことがあった。


 俺は闇の霧のようなものを作り出し、自分の体を覆っていく。

 ……俺の姿が完全に闇に飲まれたところで、その中で俺は……外套と仮面を身に着けた。

 そして、闇の霧を払う。

 ファントムとしての衣装への変身が、スムーズに行えた。


「か、完璧だ!」


 変身シーンは極めて大事だ。やっていることはどっちも人力で服を着ているだけど、それが見えているか見えていないかでずいぶん違う。

 これから、もしもファントムとして変身する時は、こうやって変身しよう。

 【闇魔法】を使って一番やりたかったことはひとまずできた。あとは、実際にパラライズビーに、この【闇魔法】の威力を試してみよう。

 そう思い、【索敵】を利用して三階層の様子を確認してみると、


「……うん?」


 一か所に三人の人と、たくさんのパラライズビーが集まっているのが、分かった。



 パラライズビーの数は、十体。それに対して、戦っているのは三人だ。

 ……ちょっと、心配だった。

 様子を見に行ってみよう。それで、何もなければ別にそれでいい。

 でも、もしも困っているのなら、助けないと。


 ちょうど、ファントムの衣装のままだったので、俺は急いでそちらへと駆けだす。

 途中現れたパラライズビーは、ダークアローで倒していき、通路の角を曲がった。

 その時、ちょうどパラライズビーに襲われている三人を見つけた。


 入る前に、声をかけてきた人たちだ。

 結局、三人でいるところを見るに、結局三人でダンジョンに挑むことにしたのだろう。

 一人が、二人を守るように戦っていたが、パラライズビーが麻痺液をちょうど構えていた。


「ぐう!?」


 回避できず、それをまともに浴びてしまった。

 ……よく見れば、二人の体にも液体がかかっていて、すでに彼女らは満足に動けないようだった。

 麻痺状態は、一度喰らったくらいなら動きづらい程度だけど、連続で喰らってしまうとまともに動けなくなってしまうらしい。


 たぶんだけど、誰かが攻撃を喰らっちゃって、それで足を止める形になってしまって、交戦しているうちにパラライズビーたちが集まってきちゃったんだろう。

 あのまま見過ごすわけにはいかない。

 俺はすぐに地面を蹴り、パラライズビーへと迫る。


「……シャア!」


 こちらに気づいた数体が、俺に向かって突っ込んでくる。

 ……遅い。

 俺は取り出した大剣を振り回し、まとめて薙ぎ払う。

 まさに今、女性の一人へと襲い掛かろうとしていたので、ダークアローを放ち、その体を打ち抜いた。

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