第13話


 今の魔法で、パラライズビーたちの視線がこちらへと向いた。

 ……標的が、俺へと移ってくれたようだ。

 こちらへと襲い掛かってくるパラライズビーを大剣で薙ぎ払う。

 だが、数体のパラライズビーは後方で控え、麻痺液の準備をしていた。俺が近づこうとすると、通路全体に浴びせるように放ってくる。


 大剣で守りながら突っ込んだが、服に当たる。……あとで、洗わないと。

 でも、体が麻痺になることはない。

 【麻痺無効】、便利だ。

 パラライズビーたちは、最低限の知能はあるようで、俺が麻痺にならなかったことに驚いているようだ。


 だから、仕留めるのは簡単だった。大剣が切り裂き、ダークアローで打ち抜いた。


 ……ダークボールだと、範囲が広くなっちゃうので、ダークアローの方が周りの事を考えて戦うときは使いやすいかも。

 とりあえず、パラライズビーたちとの戦闘はあっさりと終わった。


 ……前よりも強くなっているのは確かだけど、それ以上にスキルを手に入れたおかげで多少無謀な戦い方ができるようになったな。

 さっきの戦闘だって、【麻痺無効】がなかったらもっと時間はかかっていただろう。


「獲物の横取りをして済まなかった。……体は大丈夫か?」


 一応、ちゃんとこれは言っておかないと。

 前回の海原さんの動画のコメントにもそんな感じに批判されていたしね。

 緊急事態だったのはそうだけど、本来ダンジョン内で他の人が戦っている魔物を奪ったらマナー違反だからね。

 そう怒る人がいるのも、無理のない話だ。


「……な、なんとか」

「ここにいると危険だ。二階層に繋がる階段はすぐ近くだから、そこまで運ぼう」

「……ありがとう、ございます」


 先に麻痺を喰らっていた二人は、多少痺れが抜けてきているのか、何とか歩けるという感じだった。

 なので、先ほど喰らってしまった人だけを背負って、俺は階段まで向かう。

 【索敵】を使ってはいるので、迂回すれば魔物と遭遇しないのは分かるけど……最短距離で行ったほうがいいよね。


 すでにダークアローは見せているので、スキルを一つ持っているのはバレている。

 魔物が出るのかまで分かったら、スキル二つ目を所持しているのもバレてしまう。

 ファントムなので別にそのくらいアピールをしてもいいとは思うけど、わざわざ見せつける必要もないしね。


「ま、また魔物です……っ」


 一人が叫んだのが聞こえた。ただ、出現と同時に俺がダークアローで射抜いた。


「……す、凄い」

「先を進もう」

「は、はい……っ」


 そうして、俺たちは無事階段に到着する。

 ここなら、スタンピードが発生していない限りは魔物が通路へと入ってくることはない。

 俺が背負っていた一人を下ろすと、彼女も多少は麻痺が抜けてきたようで口元を緩めた。


「本当に、ありがとうございました」


 ひどく疲れた表情をしながらも、笑顔を浮かべていた。


「三階層の魔物は麻痺攻撃を仕掛けてくる。気を付けた方がいい」

「……はい。不意を突かれてしまって、そこから一気に崩れてあんな感じになってしまったんですよ」


 ……まあ、事前に調べてるよね。

 なんだか、怒って注意したみたいになってしまった。

 ファントムの評価、下がっちゃうかな……。


「そうか。それならいい。俺はもう、地上に戻る。三人とも、歩けはするんだろう?」

「え? は、はい……! 本当に、ありがとうございました……! そ、そのファントムさんですよね!?」


 え? と一瞬思ったが……そういえば、海原さんを助けたときに名乗っていた。

 さすがにバズったといっても、一配信者のちょっとした出来事の中でのものだったので、ネットの一部以外ではすぐに忘れ去られるんだろうけど……知っている人はいるよね。


「そうだが」

「連絡先などを聞くことって……できませんか?」

「無理だ。要件はそれだけか?」

「…………はい。助けていただいて、ありがとうございました」


 少し残念そうにそう言った彼女に合わせ、皆がぺこりと頭を下げてきた。

 ……とりあえず、大きな怪我とかなくて良かった。

 それに……うん、理想のファントムとしてちゃんと振る舞うこともできた。


 二階層へと上がった俺は、ちょうど人目がなかったところで外套と仮面を外し、それからダンジョンを後にした。

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