第44話

 戦闘が終わり、周囲の静寂が戻ってくる。

 俺は大きく息を吐くと……身体中の疲労が一気に押し寄せてきた。魔物たちは全て消え去り、ダンジョンは静まり返っていた。

 俺はふらふらとしそうになる体に気合を入れなおした。

 

 ……ファントムとして、情けない姿を見せられない。

 ボロボロの状態になっていたテンペストの人たちへと近づく。

 リーダーの嵐堂さんはこちらを見てから、苦笑を浮かべた。


「……助けにきたつもりだったんだが、あまり力に慣れなくてすまなかったね」

「いや……助けられた。おかげで、何とかなった」

「それなら、良かったよ。……ここのダンジョンはもう魔物も一切出現しなくなっているみたいだね」

「……そうだな。さっきのあの魔物がボスと……ダンジョンコアの役目を担っていたんだろうな」

「……あの女は何者なんだ?」

「詳しいことは分からないな。……今は、脅威が去ったことを喜ぼう」

「……そうだね」


 俺の言葉に、テンペストの面々も頷いた。

 階段を上ろうとしたとき、テンペストの面々にいた一人の女性に視線を向ける。海原さんだ。


「海原、渚だったな」

「……ふえ!? な、名前覚えてくれていたんですか!?」

「一応な。……配信を拡散してくれたのか?」


 一気に視聴者が伸びた可能性として、それを考えていた。


「……はい。……私のファンからすぐにあの配信のURLが届いて。それで、すぐにSNSで取り上げたんです」

「助かった。おかげで、テンペストギルドの人たちもすぐに来てくれた。感謝する」

「……え、えへへ……あ、ありがとう……ございます」


 照れた様子の海原さんを見て、思い出す。

 そういえば、俺のスマホはまだ配信中だったか。


「あ、あの……! ファントム様!」

「……様?」

「な、渚って……呼んでください! も、もしも今度配信とかする予定があるなら、私絶対見に行きますね、ファントム様!」

「え? あ、ああ……分かった、渚」

「……ァァッ!」


 その予定は別にないんだけど。……ファントム様って。

 渚のどこか興奮した雄たけびに若干ビビりながらも、俺は急いでスマホへと向かう。


 ダンジョン入口付近にたてかけるように置かれていたスマホへと近づき、手に取って、配信画面を確認する。

 ……なんか、滅茶苦茶コメントとかついているし、視聴者数も凄いことになっていた。

 とはいえ、別にそれには興味はない。


「拡散してくれた人たち、ありがとう。おかげで、こうして助けが来てくれて何とかった。それじゃあ、これで切らせてもらう」


 俺はそれだけを伝え、すぐに配信は切った。


「それじゃあ……俺はここで失礼させてもらう。本当に、助けに来てくれてありがとう」


 ……俺が改めて皆にお礼を伝え、ダンジョンの外へと出る。

 ……やばい、ぶっ倒れそうだ。

 そう思っていると、何やら興奮した様子で駆けつけてくるカメラマンとマイクのようなものを持った女性がやってきた。


「ふぁ、ファントムさんですよね!? 私たち、テレビ局のものなのですが、今よろしいでしょうか!?」


 ……よろしくない。

 滅茶苦茶疲れているんだ。俺は小さく息を吐いてから、その場で【偽装】を発動した。


「うえ!? あ、あれ!?」


 俺が突然消えたことに、全員が驚いている様子だった。

 ……周りに何と言われようとも、俺はこのまま逃亡させてもらおう。

 すぐに【重力魔法】を使い、まっすぐに家まで向かう。


 本当に……やばい。今にも、ぶっ倒れそうだ。

 それでも、気合で何とか家まで向かった俺は、それから倒れるようにドアを開け、家の中に入る。


「……もう、ダメだ……」


 ファントムの変装を脱ぎ、アイテムボックスへと放り込む。

 そして、疲労に身を任せるようにして、すぐに目を閉じる。


 ……ファントムが、こんな情けない姿を見せるわけにはいかないからな。

 何とか、家までたどり着くことができて良かった……。


 そんなことを考えながら、俺は目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰の実力者ムーブで目立ちたい探索者、美少女ダンジョン配信者を助けてバズってるようです 木嶋隆太 @nakajinn

二次創作の作品にはギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ