第31話
……それも、そうだろう。この中で唯一のSランク探索者であり、もっとも瞬間火力が高いのに、それが相性ゆえに通用しないのだから。
ミスリルゴーレムも強い魔物ではあるが、嵐堂さんの魔法が通用するなら……勝てない相手ではないと思う。
再び、ミスリルゴーレムが動きだし、近くの倒れていた探索者を潰そうと拳を構える。
……まずい。
俺は、すぐにファントムへと変身し、【瞬足】で加速する。
同時に、取り出した大剣を振りぬき、その体を殴り飛ばした。
「……っ!?」
ミスリルゴーレムの体がぐらつく。……さすがに、あそこまで加速した不意打ちならば、多少はダメージも与えられるか。
だが、倒れない。すぐに、ミスリルゴーレムが踏ん張り、こちらを睨みつけてくる。
「……ふぁ、ファントム!?」
「な、なぜここに……っ」
【偽装】によって消していた姿だけは戻し、俺はミスリルゴーレムへと斬りかかる。
ミスリルゴーレムが俺へと攻撃を叩き込んでくるが、動きは遅い。……笹間さんのように、ヒット&アウェイで攻撃していれば問題ない。
ただ、それではダメージを削り切れない。
今の俺の攻撃も、大したダメージにはなっていないだろう。
【瞬足】から攻撃を叩き込んでいけばいいのだが、直線的な動きになりすぎるの、連続で使われると反撃される危険がある。
……やはり、魔法か。
先ほどのミスリルゴーレムの様子を思い出しながら、俺は【闇魔法】を放つ。
「ファントムさん! こいつは魔法を吸収します!」
もちろん、それは知っている。
ただ、さっき観察していた気づいたことがあったので……試してみたかった。
嵐堂さんの叫びを聞きながらも、俺は出力を押さえたダークアローを放つ。
それを、ミスリルゴーレムは吸収したが、俺は即座に別のダークアローを放った。
四方八方から放った魔法のいくつかは、ミスリルゴーレムの体に当たった。
「……っ!?」
ミスリルゴーレムが苛立った様子でこちらを見てくる。
……なるほどね。
だいたい分かった。
ミスリルゴーレムが反撃するように俺の魔法を返してきたが、それを跳んでかわす。
「嵐堂。ミスリルゴーレムが吸収できる魔法は、正面からのものだけだ。お前の方にミスリルゴーレムの背中が向くようにするから、そこに魔法を放て」
「……わ、分かった……!」
俺は【瞬足】を使い、ミスリルゴーレムの背後へと周り、斬りかかる。
そこから連続で大剣を叩き込むと、煩わしそうにこちらへと体を向け、拳を振りぬく。
計画通り。俺が【瞬足】で後方に下がった瞬間、
「……喰らえ!」
ミスリルゴーレムへと嵐堂さんの魔法が放たれた。荒れ狂う風の一撃が、ミスリルゴーレムへと迫り――即座にミスリルゴーレムがその体を嵐堂さんの方へと向けた。
「なっ!?」
「嵐堂。ありったけの魔力を込めて、魔法を維持しろ」
「……くっ!?」
ミスリルゴーレムが即座に魔法を吸収したが、嵐堂さんはそれに負けないように魔力を籠め続ける。
そして俺は、隙だらけとなったミスリルゴーレムの背中へと【闇魔法】を放つ。黒く大きな槍。
作り上げたそれをミスリルゴーレムの背中へと叩き込んだ。
「がっ!?」
やはり、同時に吸収はできないようで、深く俺の槍が突き刺さる。まだ、終わりじゃない。
そのミスリルゴーレムの体へ【重力魔法】を放ち、全身を圧縮するように魔力を込める。
……まだ、魔法の精度はそこまで高くないため、魔力によって無理やり押しつぶすような力技。
だが、それが最後の一手となり、ミスリルゴーレムを押しつぶした。
「終わりだ」
トドメに、黒い槍をもう一度放ち、ミスリルゴーレムを串刺しにすると、その体が消滅した。
「……やった」
嵐堂さんの方から短くそんな声が聞こえてきた。
俺はそんな嵐堂さんの方へと近づき、口を開く。
「……済まない。様子を伺っていて救助に遅れた」
死者は……出ていないと思う。だが、それでも多くの怪我人を出してしまったことを、俺は後悔していた。
……テンペストギルドに依頼された内容なので、邪魔をしてはいけないかもという思考があった。
「……い、いや……そんなことを責めはしませんよ。助かりました、ありがとうございます」
「それなら、良かった。俺は少し用事があるから、これで帰らせてもらう」
「あ、あの……! ファントムさんですよね!? 私、テレビ局のものなのですが、取材のほうを――き、消えた!?」
もちろん、答えるつもりはない。
……目の前で【偽装】を使い、俺はその場から姿を眩ませた。
だって、ファントムが呑気に取材を受けるのはらしくないだろう。
それから、テンペストギルドの面々のうち、まだ動ける人たちでダンジョンコアの破壊をしたのを見届けた俺は、魔物の出現しなくなった大宮ダンジョンから脱出した。
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