第22話




 桜井さんを家まで送っていて思ったのは、あちこちで注目されるということ。

 道を歩いていると、どこからか視線を感じる。

 周りの人たちが、ちらちらと桜井さんに目を向けているのだ。


 皆が見惚れているようなので、たぶん桜井さんの容姿が理由なんだと思う。


 彼女はそんな視線には気づいているのか、あるいは慣れているのか分からないけど、特に気にした様子はない。


 ……やっぱり、桜井さんは誰が見ても可愛い人として映っているんだろうなぁ。

 そんなこんなではあったが、桜井さんの家の前に無事到着。普通のよくある二階建てだ。


「今日はありがとね、瀬戸くん。明日は、お昼の用意はしなくていいからね?」

「……うん。お願いするね」

「任せてね。それじゃあ、ダンジョン、気を付けてね?」

「うん、また」


 念を押すようにいってきた彼女に、苦笑とともに別れを告げた。

 思っていたよりも桜井さんの家はダンジョンから近い。

 ……俺も、こっちの方でアパートを探せばダンジョンに行きやすかったかもなぁ。


 ただ、南側のエリアのほうがアパートとかの相場が安かったので、こっちにしてしまった。

 一応、探索者の収入が安定していれば収支はプラスになるんだけど、万が一のことがあったら稼げなくなるから、なるべく固定費は下げるようにしたんだよね。

 歩いて三十分くらいでダンジョンには行けるし、自転車使えばもっと早かったから気にしてなかったけど、毎日来るとなるとやっぱり近いほうがいい。

 それこそ、朝からダンジョンに入れるし……うーん、今からでも引っ越そうかな。


 そんなことを考えながら、星谷町ダンジョンへと向かい、今日の目標である第九階層へと向かう。

 基本的にダンジョンは先に進めば進むほど敵が強くなっていく。

 九階層にもなると一階層で苦戦するような探索者では勝てないくらいまで強い魔物が出てくるが、俺はもちろん前から戦っているので大丈夫だ。


 九階層にて、カメレオンを【索敵】で発見する。

 星谷町ダンジョンは、Eランクダンジョンでは中々の難易度と呼ばれている。

 というのも、この九階層のカメレオンが、姿を消して攻撃してくるので厄介だからだ。

 ただまあ……今は【索敵】のおかげで、奇襲されることはない。

 むしろ……姿が見えないと思って油断しているカメレオンに、先制攻撃を仕掛けられるね。


 向こうはまだ俺が気づいていることに気づいていないようで、ゆっくりと近づいてきている。……完全に風景と同化していて、【索敵】がなければ気づきにくい。

 足跡も完璧に消しているのだから、ただただ、透明になっているわけではないのは明白だ。


 ……とりあえず、【強欲】を使ってみようか。

 俺がスキルを発動すると、カメレオンのドロップするアイテムを確認できた。


「……【偽装】か」


 確かに、カメレオンは姿どころか、足跡なども完全に消している。

 【偽装】と言われれば、確かにその通りかも。

 とりあえず獲得できるスキルは確定させた。


 ……魔法で一気に仕留めようか。


 渋谷ダンジョンと違って、星谷町ダンジョンには人がいないので、気兼ねなくスキルを発動できる。

 もちろん、【索敵】で周囲に人がいないのを確認してから、俺はダークアローでカメレオンを打ち抜いた。


「ぎゃん……っ!?」


 驚いたような声をあげ、カメレオンの姿がさらされたがすでに一撃で仕留めたので、その体は消滅した。

 後には、すっかり見慣れたスキルカードがドロップしていて、【偽装】という文字を確認する。

 もちろん、すぐ自分に使用する。


「……よし、問題ないね」


 ステータスカードを取り出し、新しく【偽装】が獲得できたのも確認した。

 あとは、この【偽装】をどうやって使うか。

 ……俺は早速、カメレオンが発動していたように【偽装】を自分に使用してみる。

 体内の魔力が消費されたのが、分かる。

 ……ただ、姿が消えているのかどうかは分からない。自分の姿は、ちゃんと見えてるし……。


「……カメラ、はどうだろう?」


 試しに、スマホで自撮りしてみた。

 ……その写真を確認してみると――俺はいなかった。

 これは驚いた。完全に、ダンジョンの風景を映しているからだ。


「……こ、これは滅茶苦茶便利かも!」


 カメレオンと同じように、自分の姿を【偽装】できるのなら……かなり便利だ。

 あとは……他に何か使えることはあるだろうか?

 ぱっとすぐに思いついたのは……【偽装】でステータスカードとかは偽装できるのかな?


 試しに、ステータスカードを取り出し、【偽装】を発動する。

 すると……どこをどうやって弄るのかを、選べるようだ。


 ……完璧だ。すべての数値を弄ることができたので、俺は世界ランキングを前のものに戻し、スキルもすべて獲得していない空白の状態に戻した。


「……うん、これなら、バレないね」


 ……うーん、ステータスカードは自分の身分を証明するものなので、警察などが捜査をする場合にその提示を求められることがある。


 俺が、ファントムとして活動していることを調査される可能性は十分にあると思っている。

 そして、わりとすぐにバレる可能性については危惧していた。

 だって、俺の活動範囲が狭く、その中でそれなりの強さを持った探索者を調べていけば、いずれたどり着くだろう。


 もしも、警察とかが俺のもとへとやってきて、ステータスカードの提示を求められれば、大量に持っているスキルはもちろん、世界ランキング1位であることもバレてしまう。


 それは、ファントムとしてダメだ。

 ファントムの正体は、誰にも知られてはいけない。

 陰の実力者として、存在を隠し続けたい。

 そのために、このスキルは大活躍してくれるだろう。


 ……なんなら、ファントムである疑い自体を消すために、一度ステータスカード込みでの探索者カードの再登録をしてもいいかもね。

 今のところ、全世界で【偽装】持ちはいない以上、俺のスキルがバレることはないだろうし。


 それから俺は【偽装】を使用しつつ、カメレオンと戦闘を行ってみる。

 ただ、カメレオンたちは……俺の姿に気づいてくる。

 それは、他の階層の魔物もそうだ。

 

 うーん……魔物相手だと、完全に姿を消せるってわけじゃなさそうだ。

 魔力とかを索敵されちゃうのかな?

 あとは、実際の人に使ってみようか。



 帰り道、【偽装】の性能を調べるため、町中で使って移動していく。

 ……誰も俺に気づいている様子はなさそうだ。一切、周囲から見られることはない。

 ……試しに近くにいる人の顔をじっと見続けてみる。……正面から見ても、無反応だ。


 次は、コンビニの前に立ち、スキルを発動する。

 姿を消したまま、自動ドアの前に立ってみた。

 ……ドアが開かない。


 ……機械も騙せるのかな?


 つまり、魔力索敵さえどうにかできれば、魔物にも認識されないってことだろう。

 驚きつつ、さらに試してみる。

 俺が自動ドアの前に立ったまま、お客さんが来るのを待ってみる。

 コンビニに入ろうとやってきた。

 彼はこちらに全く気づいていない様子で、まっすぐ歩いてくる。


 ……ぶつかる。


 慌てて横にずれると、彼は何事もなかったように通り過ぎていった。

 俺は再び立ち止まってみるが、誰も俺の存在に気づいていない。


 ……滅茶苦茶有能なスキルだ。

 これは……ファントムの活動で活躍すること間違いなしだ!


「……もしかして、配信とかもできるのか?」


 さっきの様子を見るに、機械なども誤魔化せているので……どうにかなるのかもしれない。

 試しに自分のスマホで自撮りをするようにカメラを起動してみる。


 ……【偽装】の強度次第で、カメラに自分が映るかどうかも【偽装】できるようだ。

 ファントム状態で、他人に瀬戸悠真と認識されない程度に【偽装】を使用し、カメラに映る程度の強度にするというのもできるようだ。


 もちろん、配信をするつもりはなかったけど、これで機械などを通じて正体がバレるようなことはなくなった。


 【闇魔法】と組み合わせれば、さらに隠密行動がしやすくなるかもしれない。


 かなりテンションは上がりつつ、俺は自宅へと戻っていった。

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