スキル【強欲】で世界最強になった俺は、人知れず輝きたい

木嶋隆太

第1話


 十年前、世界に初めてのダンジョンが発見された。

 ダンジョンの中には、ファンタジーな魔物たちやアイテムが発見され、それはもう世界は大騒ぎになった。


 ……そして。魔物たちと戦った人たちはダンジョンからステータスカードが与えられ、奇跡の力を手にいれた。


 彼らは後に探索者と呼ばれるようになり、世界に溢れ出していた魔物たちを押さえるために戦っていく。

 そんな彼らに……俺は憧れた。


 まさに、英雄のような存在だったから。

 ……でも、子どもながらに憧れた英雄だったけど、俺には一つ、大きな問題があった。

 それは……人前に出るのが苦手という、英雄にはあるまじき弱点だ。


 だから俺は……考えた。

 こんな俺でも、引っ込み思案で弱虫な自分でも英雄になる方法を。


 その方法は……簡単だ。


 正体を隠し、人知れず困っている人たちを助けていけばいい。


 だから俺は、ダンジョンに潜って力をつけ、魔物の素材で作った仮面と黒の外套、黒い手袋を作った。


 それが俺の理想の英雄――ファントムだ。



 星谷町第一ダンジョン。

 俺が暮らしている町に、唯一ぽつんとあるダンジョンだ。

 地元の人が、極少数程度しか訪れない寂れたそのダンジョンに、一人の女性がカメラを持って入っていくのを目撃した。


 ……見慣れない探索者だ。


 年齢的には、高校生くらいだろうか?

 自分も高校生だけど……高校生でダンジョンに入るのは結構危険だ。


 それも、ソロは……大変危険だ。俺も、ソロなので人の事は言えないんだけどね。

 

 とはいえ、星谷町ダンジョン内ではイレギュラーな魔物の目撃情報も増えていたので、余計に心配になってしまった。

 ……もうそろそろ、ダンジョンを出る予定だったけど……彼女の事が心配でもう少しだけダンジョンに潜ることに決めた。


 まあ、何もなければそれでいい。

 そう思っての再入場だ。

 彼女にいらぬ誤解を与えぬよう、距離をとったまま、俺は女性の様子を伺っていた。


 女性は、恐らくダンジョン配信者なのかな? 自動追尾のカメラを搭載したドローンで自分のやや後方から撮影させている。

 耳を澄ませば、その内容も聞こえてくる。


「いやいや、ちょっとマジでありえないんだけど。渚がやられるわけないじゃーん」


 ……ザ・若者っていう感じの話し方をしている。

 ダンジョン内ではインターネットが繋がるダンジョンもあり、そういったダンジョンでの戦闘している様子を配信している人たちがいるのは知っていた。


 遠くから彼女の様子を伺っていたのだが、実力はそれなりにあるようだし、そもそもこのダンジョンはEランクダンジョンなので、戦いに慣れている人なら問題はないくらいの難易度だ。


 特に問題なさそうだと判断して俺が帰ろうとした時だった。

 ――その異変は発生した。

 何度もこのダンジョンに潜っているからこそ分かる……異変。

 普段とは違う、微かに膨れ上がった魔力がドローンに向かって話していた彼女の背後に発生した。


「……え?」


 戸惑いのような声とともに、彼女が振り返る。それとほぼ同時だった。

 黒い霧のようなものが集まっていくと、やがて一体の魔物――ミノタウロスが、現れた。


「う、うそ……な、なんで……っ!?」


 ……ミノタウロス。

 高ランクのダンジョンに出現するような魔物であり、この星谷町ダンジョンに本来現れるはずのない魔物だ。

 ……やっぱり、ここ最近ちょっとおかしい。


 俺は一瞬で、仮面と黒の外套と黒の手袋を身に着ける。着衣に時間はかからない。だってずっと練習していたし。

 それで、完璧に姿を隠すことができる。変身英雄には、なくてはならない装備品だ。


 ……初めての活動にやや、緊張する心があった。

 ……思っていたよりも、ワクワクはなかった。

 人の命がかかってしまっている、そんな状況だったからかもしれない。


「ガアアアア!」


 威嚇するように咆哮を上げたミノタウロスに、女性は完全に動けなくなってしまったようで、その場でへたりと尻餅をついてしまっている。

 がたがたと震え、完全に腰が抜けてしまっているのが分かる。

 ……できるのならば、すぐにこの場から退散してほしいところだけど、仕方ない。


 そんな彼女を助けるのが、英雄の仕事だ。

 俺はアイテムボックスにしまってあった大剣を手に取る。

 ……普段は使わない武器である大剣。


 それが、ファントムの武器だ。

 自分の背丈をほどもある大剣を握りしめ、真っ直ぐにミノタウロスへと飛びかかる。


 こちらにすぐさま気づいたミノタウロスだったが……どこか油断しているように見える。

 目の前に、涙目の女性がいて、そちらにばかり注目しているからか?


 ……まあ、油断してくれているのなら、好都合だ。

 一撃で、決める。

 まともにやりあったら、苦戦するのは確実だ。

 俺は別に無敵の英雄と言えるほどの強さはまだない。


 全ての力を込めた一閃を、俺はミノタウロスへと振り下ろした。

 ミノタウロスは避けることはせず、俺の一撃を斧で受け止める。

 だが、止まらない。

 斧を切断し、そのまま一気に体を両断し、仕留め切った。


「……」


 終わりだ。

 俺はすぐに大剣をアイテムボックスへとしまい、その場を立ち去ろうとする。

 陰の英雄として……初めての活動に成功した。

 

「……ま、待ってください! あなたは何者ですか!?」

「……ファントムだ」


 ……決まった。


 俺はそれだけを残し、すぐにその場から退散した。

 初めての陰の英雄としての活動は、大成功に終わった。

 こうして少しずつ活動をしていけば、都市伝説的な存在としてこの町に定着していくはずだ。


 ふふふ、楽しみだ。じっくり、少しずつ。この英雄活動を行っていこう。

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2024年10月8日 00:03
2024年10月9日 00:03
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