第17話
……若い男性が、慌てた様子で走り去っている。
女性はカバンを盗まれたときに倒れてしまい、足をすりむいてしまっている。
……大変だ。
すぐに、あの男を取り押さえないと。
俺は【索敵】スキルを発動し、逃げていく男を見つける。……脳内に浮かんだ周囲の人たちを示す点の中から、ひったくり犯の点をマークする。
周囲に人たちが女性を心配するように声をかけ、警察に連絡を始めてくれている。
……あとは、あの男さえ捕まえれば解決だ。
俺はすぐに走り出して追いかけると、ちょうど男の目の前に立ち塞がる男性がいた。
「そこまでだ! 女性から盗んだカバンを返しなさい!」
……勇気のある行動だ。しかし、男性は止まらない。
すぐに手を振り上げると、
「邪魔だ! 【ファイアショット】!」
……スキルを発動した。スキル持ち、か。
赤い光が探索者に向かって放たれ、炎の弾丸が一直線に彼の胸に突き刺さる。
「ぐあああ!?」
探索者はそのまま地面に崩れ落ち、炎の衝撃でその周囲が熱気を帯びる。周りにいた人々が一斉に叫び声を上げた。
「な、なに!?」
「ス、スキルだ!」
「ひったくり犯の野郎がスキルをぶっ放しやがった!?」
「巻き込まれるぞ!」
「きゃあああ!?」
通行人たちはパニック状態になり、慌てて離れていく。その様子を、ひったくり犯はどこか楽しそうに見てから走る。
……くっ、人が邪魔で追いにくい。
【索敵】スキルのおかげで見失わずに済んではいるが……直線で追いかけるのは難しい。
俺は近くの脇道へと入る。
【索敵】スキルで、周囲にカメラや人がないのを確認してから――ファントムへと変身した。
そして、道の先へと抜け、【索敵】を発動し、ひったくり犯の先回りをするように動いた。
俺の方が身体能力は高いようで、ひったくり犯に追いついた。
「……ど、どきやがれ!」
ひったくり犯が叫びながらこちらを睨みつけてくる。
「な、何!?」
「あ、あれって……ファントムじゃないか!?」
「な、何それ!?」
周囲が喧騒に包まれていく中、俺はひったくり犯に片手を向ける。
「盗んだものを返せ。そうすれば、怪我はしなくて済むぞ」
「な、なんだてめぇ……!? オレの【ファイアショット】をくらえ!」
再び炎の弾丸が放たれた。
だが、俺は事前にそれを見ていたので、対応する。
魔力を即座に【闇魔法】で防壁を作り出す。さしずめ、ダークウォールとでも言おうか。
黒い壁が立ち上がり、炎はその壁に吸い込まれて消えた。再びひったくり犯が驚きの表情を見せる。
「なっ!? て、てめぇ……スキルもちか!?」
「そうだ。実力差は理解しただろう。大人しくするんだ」
そう言いながら俺が一歩近づいた瞬間、ひったくり犯はアイテムボックスに入れていたのだろう剣を取りだす。
「この野郎、邪魔すんじゃねぇぞ!」
ひったくり犯がさらに攻撃しようと構えたが、俺はすぐに走り出す。
俺を迎え撃つように剣を振りぬいてきたが、その攻撃をかわす。
……大剣だと、人間相手だと使いづらいので、格闘で戦うしかない。……人間と戦うのはまったく想定していなかったんだけど、こうなると【格闘術】とかのスキルも欲しいかも。
俺の方が身体能力は上なので、制圧するのは……問題なさそうだけど。
「くっ!」
数度振りぬかれた剣をかわしたところで、俺は拳を彼の腹に叩き込んだ。
続けざまに、相手の顔面に拳を入れると、ひったくり犯はその場に崩れ落ちた。
「……終わりだ」
地面に倒れ込んだ男からバッグを取り返し、俺は振り返る。
ひったくり犯は気絶しているが、念のため、【闇魔法】でその体を拘束する。
遠くで、パトカーのサイレンも聞こえるので少ししたら自動で解除されるようにすればいいだろう。
……さて、あとはあの女性のバッグを返すだけか。そちらへと戻ろうとした時だった。
「ふぁ、ファントムさん……よね?」
すると、そこに海原さんが立っていた。
驚いた顔をしながら、俺を見つめている。
……見れば、周囲の人たちはスマホをこちらに向け、俺たちを……というか、たぶん俺のことを撮影している人たちばかりだ。
「……そうだが。どうした?」
「……その、ひったくり犯が現れたっていうから、止めようと思って、来たのよ。そしたら、あなたがいて――」
海原さんは驚いた様子で声をあげていたが、それからこちらへとやってきて、
「ありがとう、ございました」
深く頭を下げてお礼の言葉を口にしてきた。
「……あの時、あなたに助けてもらったのに、恐怖で動けなくて……その、お礼いうの忘れちゃって、ごめんなさい。それがずっと気がかりで、ずっと探してました。……そ、その配信とかだと、正体暴いてやるーとか言ってましたけど、そのあれ全部、そういうキャラだったので……本当は、ただ、お礼を言うために探していただけなんです。だから、その……とにかく、ごめんなさい! ネットとかで好き勝手言われちゃってて……とにかくこれ、ミノタウロスからドロップしていた魔石です……!」
……ぺこぺこと頭を何度も下げてきた海原さん。
別に俺は彼女の配信を見ていないので、どういう感じで俺のことを言っていたのかは知らないし、特に興味はなかった。
別に、ファントムのことを馬鹿にしなければそれでいいしね。
彼女の言葉に少し驚いたが、俺はファントムらしく振る舞うことにした。
「獲物を奪ってしまったのは事実だ。そのミノタウロスの魔石は好きに使ってくれ」
「で、でも……」
「俺は趣味で困っている人を助けているだけだ。たまたまお前が困っていて、助けた。勝手なことをしているのは俺の方だ」
ファントムの活動に、見返りは必要ない。
ただ、俺の理想としている陰の実力者を体現した。
……それだけだ。
海原さんは俺の顔をぼーっと見てきていた。
……そうだった。ちょうどよかった。
「俺は少し用事がある。……このカバンを被害者の方に届けてくれないか?」
「……わ、分かり……ました」
この格好で女性のところまで戻るのは大変そうだったしね。
俺の方をどこかぼーっとした様子で見てくる海原さんに、カバンを渡してから俺はその場から立ち去るように走り出す。
その場を立ち去ろうとした時、周りにはすでにスマホを向けた人々が集まっていたし、俺の後を追ってくる人もいたけど……すぐにそれらの追跡を突き放し、【索敵】で誰もいないのを確認してから、変装を解除した。
無事、ファントムとしての活動は完了したけど……こうなると、もっと安全に姿を隠せるようなスキルがほしいなぁ。
【転移】とかそういうスキルがあれば、さっきのような犯人を【索敵】と合わせて追いかけることもできる。
でも、【転移】のスキルなんてこれまで見つかったこともないし、あるかどうかも分からない。
とりあえず、事件は解決したんだし、俺は予定通りダンジョンに向かわせてもらおう。
―――――――――――
新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。
世界最弱のSランク探索者として非難されていた俺、実は世界最強の探索者
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