第24話





 昼食を終え、次の体育の授業に向かう途中、田中くんが話しかけてきた。


「よっ、瀬戸。今日の体育のサッカーはペアで組んでの練習らしいぜ」

「……そ、そうなんだ」


 以前もそうだったので、だよね、という感じだ。その事実に俺のテンションは嫌でも下がる。

 ペア……つまりは二人組だ。

 いつも俺は余っている人と組むことになるんだけど、なかなか心苦しいイベントだ。


「そういうわけで、一緒に組まないか?」

「……いいの?」

「いいって。ちょっと話したいこともあったしな」


 話したいこと? 田中くんの言葉に、俺は首を傾げつつ、了承した。

 ……二人組を組むまで、悩まなくてもいいと分かった瞬間、心がずいぶんと軽くなった。

 校庭に出てから、軽く準備体操を行ってから、俺は予定通り田中くんとペアを組む。

 お互いに軽くパスを出し合って、体を動かしていく。


「……瀬戸、やっぱり運動神経いいよな」

「……まあ、ダンジョンに入っているおかげかな?」


 思っているように体を動かせるので、だいたいの運動は得意なほうだ。


「どっかの部活入らないのか?」

「うーん、特には」

「そうなんだなぁ。……やっぱ、探索者優先か?」

「……まあね」


 探索者活動の方を優先したいから部活については一度も考えたことはなかった。

 ……高校によっては、ダンジョン部とか探索者部みたいなものもあるらしくて、部活動としてダンジョンに入るところもあるらしい。

 そもそも、合宿で使う場合もあるし……昔に比べたら学生のうちからダンジョンに触れる機会も増えている。


「凄いよな、瀬戸って」

「え?」

「いやさ。オレって結構、なんでも中途半端にやっちゃうからな。運動もそうだし、今もたまにダンジョンとか皆で入ってるけど、別に本気で探索者とか目指したいわけじゃないしさ。……だから、なんか全力でやってて凄いなって思ってな」

「……そうかな?」

「そうそう。だからたぶん、桜井もお前の事気に入ってるんだろうな」

「気に入られてはいないと思うけど……?」

「いやいや、気に入ってるって。桜井、周りと一線引いたところがあるだろ? 今まで恋人とかの振りをお願いすることもなかったのに、瀬戸にはお願いしたし……相当気に入っていると思うぞ?」


 どうだろう? 単純に、お願いしやすかっただけという可能性もあるけど。

 俺が周りからどうやって見えているかは分からないけど、桜井さんからしたら無害そうに見えたんだと思っていた。

 まあでも、嫌われているは気に入られているほうが嬉しくはある。


「……そうだったら、いいかな」

「そうだって。とにかくまあ、桜井のこと頼むわ。なんか、しょっちゅう色々と絡まれて可哀想だったからな。……オレは彼女いるから、さすがに桜井の彼氏のフリとかできないし。気にかけてやってくれよ」


 そう言って、田中くんはボールをこちらへと転がしてきた。

 それを受け止めながら、少し考える。

 桜井さんが言っていた、高校デビューの話もあるから……たぶん周りと少し距離を取っているんだと思う。

 誰にも話したことはないと言っていたけど、田中くんは色々と察していて……凄いと思った。


「もちろん……できる範囲になっちゃうけど、何か相談があったら協力するつもりだよ」

「お前……いい奴だよな!」

「……それは田中くんの方じゃない?」

「オレが……?」

「……うん。……だって、友達のために、わざわざこうやって言えるのは、凄いと思うし」

「……い、いやいやそんなことないって。まあ、瀬戸も何かあったら言ってくれよ! いくらでも相談にのるからな」

「うん、ありがとう」


 恥ずかしそうに田中くんは頭をかきながら、誤魔化すようにそう言っていた。

 なんだか、こんなやり取りをしているのが少し嬉しかった。


 ……今の俺と田中くんって、友達なんだろうか?

 これまで基本的にぼっちだった俺にとって、もし田中くんが友達だといってくれるのなら……嬉しいかも。




 放課後、桜井さんと今日も一緒に下校することになった。昨日のダンジョンの話をしたり、学校でのことについて話したりしながら、俺たちは歩いていく。

 桜井さんは時々俺の言葉に興味を示しながら、楽しそうに相槌を打ってくれる。

 こうして話せるのは、楽しかった。


「じゃあ、また明日ね。ダンジョン、気を付けてね」

「うん、またあした」


 桜井さんと別れた後、俺はすぐに星谷町ダンジョンへと向かった。


 ダンジョンに到着した俺は、六階層に移動する。

 ここに出現する魔物は巨大なイノシシのような姿をしていて、ボアと呼ばれている。

 特徴としては、非常に硬い皮膚を持っているので中途半端な武器だと攻撃が通りにくい。


 まあでも、魔法であれば関係なかった。

 戦闘に入り【強欲】を発動してスキルカードを確定させてから、ダークアローを放って仕留めた。


 ……よし、来た。

 討伐後、手に入れたのは【硬質化】のスキルカードだ。

 スキルを獲得して、早速使用してみると……皮膚が頑丈になったような気がする。


 ……たぶん、あのボアの持つ堅い皮膚も、このスキルによる効果なんだろう。

 常に発動しても気にならないので、これは普段から使っておこう。

 今日のスキルカードも獲得できたので、集まった素材を売却するため探索者協会へと向かう。


「あれ? 瀬戸くん久しぶりね」

「お久しぶりです中村さん。素材の売却をお願いします」

「了解!」


 中村さんが明るい笑顔とともにそう言ってきて、俺はアイテムボックスから素材を取り出して査定していってもらう。

 中村さんの査定が終わるまでしばらく待っていると、奥の部屋から一人の男性が現れた。


「おっ、瀬戸くん。ちょうど良かった!」

「野口さん? どうしたんですか?」


 この探索者協会の支部長である、野口さんだ。


「いやさ。単刀直入に聞きたいんだけど……最近星谷町ダンジョンの様子、おかしくないか?」

「……え? まあ、確かにイレギュラーは発生しやすいですよね、今日も出てきましたし」

「大丈夫だったのか?」

「はい。討伐しておきました」


 まあでも、Dランクダンジョン相当の魔物だったので、別に恐れることはなかったけど……危険なダンジョンであるのは間違いない。


「それは良かったよ……。そんでオレも改めて測定器で検査したんだけど……まったく異常はないだろ? それでまあ、色々ダンジョンの事例を調べてみたんだけど……なんでも測定器の数値は普通なのにいきなりスタンピードしちゃった事例が海外ではあったらしいんだよ」

「……そういえば、聞いたことありますね。確か、イレギュラーが発生することが多くなったと思ったらいきなりスタンピードが発生ってやつですよね?」

「そうなんだよ……。何も起きなければいいんだけど、万が一スタンピードとか発生したら、この町、まず終わるだろ?」


 スタンピードの難易度次第……だとは思う。

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