第15話




 予定通り、朝早く起きた俺はホテルを出て、渋谷ダンジョンに向かった。

 さすがに、この時間だとこの辺りも人は少ないようだ。

 でも、朝まで飲んでいたと思われるような人がいたり、何だかテンション高い人が歩いている姿を見かける。


 ……ガラの悪そうな人もいるので、ちょっと怖いので俺は距離をとって歩いていった。

 ダンジョンの入口をくぐり、一階層から二階層に向かう階段に差し掛かる。

 そこで少し驚いたのが……階段の端に背中を預けて眠っている人たちの姿だ。


 あまり見た目の良くない人たちがいて、たぶんだけど浮浪者と思われる。

 ……そういえば、聞いたことがある。

 ダンジョン内は雨風をしのげるから、ホームレスたちがこの場所を寝床にしていることがあるとか何とか。


 でも、ダンジョン内ってそれこそ街中とかよりも色々な犯罪が起きやすく、証拠が残りにくい場所だ。

 ……例えば、ダンジョンで死んだ人って数十分もすればダンジョンに飲み込まれてしまうとかなんとか。

 だから、裏家業の人が人を消した後の処理の場所としても使われるとか……何とか。だから、ダンジョンに入ってそういう人たちを見つけてしまった日には、一緒に消されてしまうなんてこともあるとか――。


 俺もそれを聞いた時は怖いと思ったけど、実際そんなことが行われている場面に出くわしたことはない。

 そういう悪い話ばかりが世の中に出回るせいで、ダンジョンが危険な場所と思われることが多いんだと思う。


 とにかく、浮浪者がこうして集まっているダンジョンを見たのは初めてで新鮮な感覚だ。

 彼らを邪魔しないよう、先に進む。少し、臭いは気になったけど、俺の目的はダンジョンの五階層だ。



 五階層に到着した俺は、【索敵】を使って周囲を探った。

 魔物の反応はすぐに複数拾えるが、探索者の反応はない。

 やっぱり、朝早くに来て正解だった。

 あとは、リザードマンからどんなスキルカードが手に入るか……楽しみだ。


 【索敵】でリザードマンを発見した俺は、すぐにそちらへと向かう。黒い霧が周囲に漂い、その中から徐々に姿を現したのは、緑の鱗に覆われた人型の魔物――リザードマンだ。


 リザードマンは赤い目を鋭く吊り上げ、俺を睨みつけてくる。

 手には反りのある太い剣を持っていた。

 尻尾を地面に叩きつけ、好戦的に牙を見せてくる。


 攻略情報を事前に調べていた俺としては、リザードマンとの戦い方は頭に入っている。

 リザードマンは、剣を持っているがその技術はそこまで高くないそうだ。

 わざと剣を振らせ、大振りとなって隙が生まれたところで攻撃していけば、安全に倒せるそうだ。

 なので、下手をすればパラライズビーよりもよほど安全に倒せるみたい。


 そんなリザードマンだが、力強く剣を振り下ろしてきた。

 ダンジョンの地面に剣が当たると、激しい音が響く。

 ……隙は多いが、力はかなり強いので正面からやりあわないように、とも書かれていた。盾で受け止めた探索者が、盾を破壊されて殺されてしまったこともあるらしい。


 ……正面からやりあうのは確かに危険だね。

 

 さて、とりあえず【強欲】を発動する。

 ……狙えるドロップアイテムにはリザードマンの剣と【剣術】か。

 武器も、いずれは狙いたいよなぁ、と思いつつ、今回はもちろん【剣術】だ。


 これで、スキルカードのドロップは確定するので、あとは勝利するだけだ。


 リザードマンは勢いよく突進してくる。俺は短剣を構えつつ、すぐに距離を取る。

 重々しい剣の一撃が地面に叩きつけられた。

 そんな素早くリザードマンの横に回り込み、短剣で横っ腹を狙って斬りつける。鋭い刃がリザードマンの鱗をわずかに裂く。だが、ダメージはそこまではないと思う。


「ガアア!」


 俺の攻撃に顔を顰めたリザードマンが煩わしそうに剣を振り回してきた。

 俺は後退しながら、腰のホルスターから魔銃を取り出した。

 銃口をリザードマンに向け、躊躇なく引き金を引く。


 魔力の銃弾が放たれ、リザードマンの肩に命中する。魔力の衝撃でリザードマンの動きが一瞬止まった。

 俺は再び短剣を手に、リザードマンへと突っ込む。

 足首を狙って素早く一撃を加えると、リザードマンはバランスを崩した。


 リザードマンの顔に魔銃を突きつけ、そこから銃弾を連射した。

 ……それで、リザードマンを仕留めることができた。


 戦闘は、問題なさそうだ。

 【闇魔法】を使ってもいいんだけど、ファントムの時にも使ってるからね。 

 瀬戸悠真として戦うときは、できれば温存したほうがいい。

 

 ……そもそも、魔法を使える時点で注目は集まっちゃうからね。瀬戸悠真は、あくまで肉体のみで戦えるようにしないとね。


 とりあえず、【剣術】のスキルカードが手に入ったので、すぐに使用する。

 これで、大剣での戦闘もだんだんと向上していくはずだ。


 さっきの戦闘をしていて思ったのは、支援魔法や肉体を強化するスキルも欲しいところだ。

 そう言ったものであれば、仮に瀬戸悠真の時に使っても気づかれないだろうし、今よりも分かりやすく力をつけられるはずだ。


「目的も達成したし……そろそろ、ホテルに戻ろうかな」


 ホテルは朝食付きだったので、戻って食事でも楽しもう。

 帰り道も特に苦戦することなく無事、ホテルへと戻った。

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