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「____どした?」



視界ににじんだ、少し灰色がかった色に、慌てて反応する。





「いえ、何でもないです‥‥‥‥」



「さっき、俺だったらなんて言うかって。シノ、言ってたけど‥‥‥‥」












「俺はそいつに、俺がいるから大丈夫って、言うと思う」












「‥‥‥‥たぶん、俺ができるのって、そのくらいだし。


理解してくれない奴が100人いるよりかは、理解できる奴が1人いる方がマシかなー‥‥‥‥って」




ちょっと照れ臭そうに笑う彼が、いつもより眩しく見えて。






その言葉があったかくて。なんだかほっとした。







「____ありがとうございます。ちょっとだけ、救われました」



「あれ?友達の話じゃなかったっけ?なんで過去形?」



「‥‥‥‥ずっと、悩んでたので」








「そっか。よかった」




彼が笑ったのを見て、私も少しだけ嬉しくなった。



正直に話していても、同じ言葉をかけてくれたんだろうことは、なんとなく想像できてしまったから。



桜庭くんが人気な理由が、ちょっとだけ分かった気がする。









____ピンポン。


軽快な音と共に、桜色が視界に浮かぶ。




彼が「止まります」と書かれたボタンを押したことに、少ししてから気が付いた。


彼の降りるバス停まで、もうあと10分もない。








「____そういやさ、シノの名前、なんていうの?」ふと、そんなことを聞いてくる。



「え」なんでいきなり。



「名字しか、漢字読めなくて‥‥‥‥」申し訳なさそうに、彼が言う。



クラスの名簿を見て、私の名前を知ったらしい。





「あ____」



言われて、下の名前を教えていなかったことを思い出す。


ちょっと特殊な読み方をするから。



クラスの人にも「東雲さん」としか呼ばれないし、分からないよね。









「いろはです。東雲しののめ 彩葉いろは





「かわいい名前だね」



「‥‥‥そんなこと」



名前褒められたことあんまりないから、ちょっと照れる。





「俺のことは、そうでいいよ」



「そう、君‥‥‥」



「____ん。じゃね、彩葉」



さ____じゃなかった。奏君はそう言って、私より一つ前のバス停で降りて行った。














「は‥‥‥‥」





なんだか少し、ほわほわした気分。



口元が自然と緩んでいくのを止められない。



今日はちょっと、晴れやかで。特別な気分。





行先に「緑が丘団地」が表示されると、手近にあるボタンを押す。



「ありがとうございました」運転手さんにお礼を言って、バスを降りた。






____いつもより少しだけ、目の前に広がる世界がクリアに見えた気がした。





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