・11
「____どした?」
視界ににじんだ、少し灰色がかった色に、慌てて反応する。
「いえ、何でもないです‥‥‥‥」
「さっき、俺だったらなんて言うかって。シノ、言ってたけど‥‥‥‥」
「俺はそいつに、俺がいるから大丈夫って、言うと思う」
「‥‥‥‥たぶん、俺ができるのって、そのくらいだし。
理解してくれない奴が100人いるよりかは、理解できる奴が1人いる方がマシかなー‥‥‥‥って」
ちょっと照れ臭そうに笑う彼が、いつもより眩しく見えて。
その言葉があったかくて。なんだかほっとした。
「____ありがとうございます。ちょっとだけ、救われました」
「あれ?友達の話じゃなかったっけ?なんで過去形?」
「‥‥‥‥ずっと、悩んでたので」
「そっか。よかった」
彼が笑ったのを見て、私も少しだけ嬉しくなった。
正直に話していても、同じ言葉をかけてくれたんだろうことは、なんとなく想像できてしまったから。
桜庭くんが人気な理由が、ちょっとだけ分かった気がする。
____ピンポン。
軽快な音と共に、桜色が視界に浮かぶ。
彼が「止まります」と書かれたボタンを押したことに、少ししてから気が付いた。
彼の降りるバス停まで、もうあと10分もない。
「____そういやさ、シノの名前、なんていうの?」ふと、そんなことを聞いてくる。
「え」なんでいきなり。
「名字しか、漢字読めなくて‥‥‥‥」申し訳なさそうに、彼が言う。
クラスの名簿を見て、私の名前を知ったらしい。
「あ____」
言われて、下の名前を教えていなかったことを思い出す。
ちょっと特殊な読み方をするから。
クラスの人にも「東雲さん」としか呼ばれないし、分からないよね。
「いろはです。
「かわいい名前だね」
「‥‥‥そんなこと」
名前褒められたことあんまりないから、ちょっと照れる。
「俺のことは、
「そう、君‥‥‥」
「____ん。じゃね、彩葉」
さ____じゃなかった。奏君はそう言って、私より一つ前のバス停で降りて行った。
「は‥‥‥‥」
なんだか少し、ほわほわした気分。
口元が自然と緩んでいくのを止められない。
今日はちょっと、晴れやかで。特別な気分。
行先に「緑が丘団地」が表示されると、手近にあるボタンを押す。
「ありがとうございました」運転手さんにお礼を言って、バスを降りた。
____いつもより少しだけ、目の前に広がる世界がクリアに見えた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます