・3



____キンコンカンコン。



黄緑色が見えたら、お昼休みに入る。






休み時間になるたびに人に囲まれている桜庭君を置いて、食堂へと向かう。



人が多くて、ちょっと出るのが大変だった。





あったかいきつねうどんを持って、空いているお気に入りの席に座る。



少し奥の、柱の影。


個室みたいになっていて、好きなんだ。



それに、一人でも問題ないし____。








「あのっ!! ここいい?」



「ひゃぁぁぁ‥‥‥‥!?」





椅子に座りかけた私に声をかけてきたのは、桜庭君だった。



なんで。



さっきまであんなに囲まれていたはずなのに‥‥‥‥!!





とつぜんの出現に、思わず体ごと反応してしまう。


あんまりこういうことないから、耐性が‥‥‥‥。








「いい、ですけど‥‥‥‥っ」なんとか声を絞り出す。



「まじ!? よかった!!」彼がそう言って、向かい側に座る。







いつも1人だから、なんか変な感じ。



走ってきたのか、軽く息を整えている。





「な、なんで」



「教室、居づらくってさ。人すごいし、食べられる状況じゃなかったから」



「ああ____」教室埋まるくらいには殺到してたよね。







あんなんで息苦しくないのかなと思っていたけど。




でもさすがにここまで追いかけてくるなんて‥‥‥‥。


と、目の前でお弁当を食べるイケメンさんに訴えかける。







____それにしても。この状況‥‥‥大丈夫かな。


私みたいな隅っこ族が、こんなきらきらのイケメン君と‥‥‥。




この席だからいいものの、絶対許されない。


自殺行為だよ、こんなの。



あとからトゲトゲした視線で見つめられるとなると、今から怖い。





あったかい汁ものでよかった。


メガネが曇るおかげで、少しは緊張感がまぎれる。











「えっと、あの‥‥‥‥東雲さん、だっけ」



「はっっ、はゎい‥‥‥‥っっ!!」掴みかけたうどんがお箸の間からすり抜けて、黄金色の汁の中へ戻っていく。



「お願いがあるんだけどさ」



「な、なな‥‥‥‥」なんでしょうか。



「学校の中、案内してくれない‥‥‥‥?」



「へ‥‥‥‥?」



「ほら、俺まだ東雲さんしか知り合いいないし‥‥‥‥担任の先生も東雲さんにって」



「え‥‥‥私が、ですかっ!?」



「あれ‥‥‥?もしかして、知らなかった?」





なんでこんな人見知りに転校生の案内なんか‥‥‥と思いながら、その不思議そうな瞳を見つめ返す。



とはいえ、ここで私が断っちゃったらだめだ。





「案内とか、下手、ですけど‥‥‥‥それでもいいなら」





こうして私は、案内役を引き受けることになった。



強制的に引き受けた案内役は、私の人見知りのせいでほとんど話すことなく終了して。











____あれから、2週間がたった。




私たちの距離は最初と同じ、隣の席の人。


クラスの空気に戻った私とは逆に、桜庭君の人気は増すばかりで。 


隣の席というだけで、もっと距離ができてしまったように思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る