・4
初日に彼の方から部活を聞いてきたくせに、サッカー部に入ってしまった。
ちょっと話せる人ができて嬉しかったのに、ざんねん。
部活中も色とりどりのきらきらした声援が、4階からでも聞こえてくるんだから、すごいと思う。
転校して1日目でほとんどの人と話してたし、クラスの輪に溶け込むのも速かった。
____すごいな。私とは、別のセカイの人だ。
きらきらして。やさしくて。
本当に、別のセカイの人だと思った。
いつも必ずと言っていいほど、2、3人は女の子が机を囲んでいるし。
みんなにやさしい。
____そんな桜庭君との距離が縮まったのは、ある放課後のことだった。
その日は図書委員の仕事で、遅くまで教室に残っていた私。
学級文庫の入れ換えをしていた。
「あれ、シノだ」
「桜庭、君‥‥‥‥‥‥‥‥」
名字しか教えていなかったからか、彼の中で私は「シノ」と呼ばれることに落ち着いたみたいだけど。
部活に勤しんでいるはずの彼が、なぜここにいるのだろうか。
「どうしたん、ですか‥‥‥こんな時間に」
「あー、いや。忘れ物して」
「忘れ物‥‥‥?」
私が言い終わらないうちに、教室に入って机の中をまさぐり始める。
「あー、あったあった」
「これこれ」と机の中からボールペンを出す。
ちょっと高級そうなデザイン。
東京の高校生って、こんなにお高そうなもの持ってるのかな。
「あのさ、シノ」
「な、なんでしょ‥‥‥」
しばらく話してなかったからか、距離感がつかめなくて声が裏返る。
「それ、いつ終わんの」
「え、と‥‥‥‥この棚に入った本をこの項目通りに入れ換えれば、終わりです」
「じゃ、もうちょっと?」
「あ、はい‥‥‥‥‥え?」
私が言うと、いつの間にか後ろに移動して2段目の本を入れ換えていく。
「あ、あの、何を‥‥‥‥」
「仕事、終わらないと話せないし」
「あの、何で、本‥‥‥‥」
「手伝うよ、これ」
「あ、ありがとう‥‥‥‥‥‥‥‥」
この会話の間にも、どんどんと本を並べかえていく。
すごい速さ。
「お、終わった‥‥‥‥‥‥‥‥」
いつも3倍くらいのスピードで並び替えられた本棚を見ながら、感激する私。
こういうの遅いし、背が低くて2段目はいつも手こずってしまうんだけど。
「じゃ、いこー」
そんな私を置いて、さっさと廊下に出ようとする彼。
今気付いたけど、制服のままだし、鞄を肩に掛けている。
「あ、あの、この貸し出し表を図書室に返さないとなのでっ!!」
「じゃ、一緒に行く」
「え」
「だって、最近シノとあんまり話してないからさ」
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