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初日に彼の方から部活を聞いてきたくせに、サッカー部に入ってしまった。    



ちょっと話せる人ができて嬉しかったのに、ざんねん。



部活中も色とりどりのきらきらした声援が、4階からでも聞こえてくるんだから、すごいと思う。



転校して1日目でほとんどの人と話してたし、クラスの輪に溶け込むのも速かった。







____すごいな。私とは、別のセカイの人だ。



きらきらして。やさしくて。



本当に、別のセカイの人だと思った。



いつも必ずと言っていいほど、2、3人は女の子が机を囲んでいるし。



みんなにやさしい。















____そんな桜庭君との距離が縮まったのは、ある放課後のことだった。




その日は図書委員の仕事で、遅くまで教室に残っていた私。


学級文庫の入れ換えをしていた。





「あれ、シノだ」花色はないろが、視界に浮かぶ。



「桜庭、君‥‥‥‥‥‥‥‥」





名字しか教えていなかったからか、彼の中で私は「シノ」と呼ばれることに落ち着いたみたいだけど。



部活に勤しんでいるはずの彼が、なぜここにいるのだろうか。





「どうしたん、ですか‥‥‥こんな時間に」



「あー、いや。忘れ物して」



「忘れ物‥‥‥?」


私が言い終わらないうちに、教室に入って机の中をまさぐり始める。



「あー、あったあった」





「これこれ」と机の中からボールペンを出す。



ちょっと高級そうなデザイン。


東京の高校生って、こんなにお高そうなもの持ってるのかな。







「あのさ、シノ」



「な、なんでしょ‥‥‥」





しばらく話してなかったからか、距離感がつかめなくて声が裏返る。





「それ、いつ終わんの」



「え、と‥‥‥‥この棚に入った本をこの項目通りに入れ換えれば、終わりです」



「じゃ、もうちょっと?」



「あ、はい‥‥‥‥‥え?」





私が言うと、いつの間にか後ろに移動して2段目の本を入れ換えていく。      





「あ、あの、何を‥‥‥‥」



「仕事、終わらないと話せないし」



「あの、何で、本‥‥‥‥」



「手伝うよ、これ」



「あ、ありがとう‥‥‥‥‥‥‥‥」




この会話の間にも、どんどんと本を並べかえていく。


すごい速さ。





「お、終わった‥‥‥‥‥‥‥‥」




いつも3倍くらいのスピードで並び替えられた本棚を見ながら、感激する私。


こういうの遅いし、背が低くて2段目はいつも手こずってしまうんだけど。










「じゃ、いこー」




そんな私を置いて、さっさと廊下に出ようとする彼。


今気付いたけど、制服のままだし、鞄を肩に掛けている。






「あ、あの、この貸し出し表を図書室に返さないとなのでっ!!」



「じゃ、一緒に行く」



「え」



「だって、最近シノとあんまり話してないからさ」



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