・7

「どうだったっ!?」


教室の扉を開けるなり、麻ちゃんがバタバタと近づいてくる。




「あー、分かんねぇけど。サクが言ってたことは伝えた」



「そっかぁー‥‥‥‥」おれが言うと、麻ちゃんは椅子の上にぐでっとなる。





そんなに心配なら、行けばよかったのに。



あの状況なら、逆効果だったろうなと思いつつ、その辺の椅子を拝借して、彼女の隣に腰かけた。







教室に誰か入ってくるたび、忙しそうにそわそわしているのを横目で見る。



「やばい」時の表情だ、これは。



何となくそのくらいは分かるようになった。




その反応だけで、東雲サンにも十分伝わるんじゃないかと思うけど。








「‥‥‥‥ダメなんだろうなぁ、多分」




おれがそう口にしたとほぼ同時に、サクが教室の入り口から顔を出した。









「おう、おかえり」



「おかえりー」



「ただいま。シノは?」



「まだ」一応伝えてはおいたけど、と付け加えておく。






俺が行けたらよかったんだけど、なんて、落ち込んでいる。



バカだな。






「いちいちお人好しなんだよ、サクは」



「んー‥‥‥‥」けど、なんか気になっちゃって。と困った表情をする。



「サク、まさか東雲サンに惚れてるとか?」



「えっ!?」



「そんなわけないでしょ」なんて、爽やかに言ってのける。





なんでこう、コイツは一挙一動が爽やかなんだと思う。









「だよな」



「シノも、色々あるんじゃないかな」



「奏、なんかしってんの?」



「ん?秘密」



「出たー、秘密主義!」と麻ちゃんが背をもたれると、ギシッとやばそうな音が聞こえてくる。





前から思ってるけど、なんで先生の椅子使ってるんだ‥‥‥‥?



なかなか古いのか、壊れぎみなのか、最近やけにギシギシ言ってる。








「つまんないじゃんー。ね?」と、何故かおれに同意を求めてくる。


「サク、秘密主義だから。転校したのも、はぐらかされたし」



「気軽に言えることじゃないしね」



「何?そんなヤバイことしたの?」



「んー、‥‥‥‥‥どうなんだろうね」





確信に触れそうになると、こうやってはぐらかしてくる。


言いたいのか言いたくないのか、はっきりしてほしい。




まあ、他人に知られたくないことくらいあるから、別に気にはしないけど。


ちょっとは話してくれてもいいのにと思ってしまう。


女子にあれだけ質問されても話さなかったんだから、相当バレたくないんだろう。











「あっ!!来た!!」






麻ちゃんがそう言って椅子から立ち上がったのは、5限目の自習を知らされたすぐあとのことだった。




廊下から出てきたその表情かおを見て、なんとなく、「大丈夫そうだ」と思った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

◇淡色の君と、透明なセカイ 星野ゆか @wolly_1029

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ