・6


「え、みんな言ってるよね。しののめさんが静かであんまりしゃべらないし、敬語だし‥‥‥‥」



「おい、んな風に言うなって____」



「あいたっ!?」頭にゲンコツを喰らった麻美さんが涙目になる。






____やっぱり。そうなんだ。






「でっ、でもねっ!?みんな話したいと思ってて____」手振りまでつけて説明してくれる。



「大丈夫です」



「えっ?」



「分かって、ましたから‥‥‥‥」







そんなわけはないのだと。



改めて解ってしまうと、どうにもいたたまれなくなる。









「すみません、先生に呼ばれてたの忘れてました」










そう言って、食べ終えた食器を片付けて、食堂から逃げた。

 






逃げた。





私は逃げた。現実から。


















きい、と木製の扉の赤紫色の声が視界でにじんだ。



中を見ると、今日は珍しく、誰も居なかった。


逃げ込んだ図書室の隅にうずくまる。



こんなとこ、他人ひとに見られたら恥ずかしいけど。





今一番恥ずかしい。私が。  



なにも受け入れられない私が、恥ずかしい。











「はぁ‥‥‥‥」






ステンドグラスのついた窓と、本の臭い。









もうずっと、こうしてればよかったんだ。





こうして、人目に触れないでおけばよかったんだ。






舞い上がったから、いけなかったんだ。
















「っ‥‥‥‥‥‥」









静かな図書室に、私の嗚咽だけが響いている。








ばかだなぁ。




ばかだなぁ、私。




聞かなくたって、分かってたくせに。

  








「みんな、しののめさんと話したいと思ってる」なんて。




ふと、そう言った麻美さんの顔がちらついた。




フォローだよ、あんなの。










でも、さみしいって。少しでも思ってしまう。




なんで。そんなこと。




なんで‥‥‥‥‥‥。

















「しの____」














「‥‥‥‥‥‥!!?」




誰か居たんだ。全然気がつかなかった。




桜庭君‥‥‥‥?














「マジでいんだ。すっげ‥‥‥‥」







少しだけこもった声。本棚の向こう側にいるからだ。



姿は、よく見えない。











「なぁ」







____あ。




そのとき見えた萌黄色もえぎいろで、桜庭君ではないことが分かる。








「サクなら来ねぇよ」



「‥‥‥‥!!」





そうなんだ。




いつも、困ったときに来てくれるのに。






やっぱり、違ったのかな。



裏切られた気分だ。












「部活の先輩に捕まって話してるから」




「図書室にいると思うって言われて来たけど、マジでいるとは‥‥‥‥」







表情は見えないけど。呆れられてるのかな。











「大丈夫だよ。おれも、麻ちゃんも、東雲サンのこと、変に思ったりしてないから」




「‥‥‥‥え?」









「それが心配なんだろ、サクは」



いつも気にしてるよ、と付け加える。






「なんであいつ、東雲サンがここいるって分かったんだろうな」










「分かんねーなー」と、ひとりで話続けている。












しばらく、沈黙が降りた。






不思議と、嫌な感じはしなかった。

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