・5

「そういえば」



「はい」



「シノって、うどん好きなの?」



「‥‥‥?どうしてですか?」



「なんかよく、うどん食べてるの見かけるから」



「あったかいので‥‥‥‥」





言えない。



お金がピンチの時に食べているだなんて‥‥‥‥。



だって、250円という価格であの量なのだ。





「キツネ派?タヌキ派?」



「かき揚げが好きなんですけど、どっちに入るんでしょう」



「選択肢にないじゃん」



笑われてしまった。今日も桜庭君は、なんだか楽しそうだ。





「‥‥‥‥どちらかといえば、キツネです」



「じゃ、キツネうどんにしようかなー」



「桜庭君、今日はお弁当じゃないんですか‥‥‥‥?」



「うん。今日は朝早かったから。婆ちゃんにも悪いし」





お婆ちゃんの家に住んでるって、前に言ってたっけ。



家族想いなんだな‥‥‥。












「席、とっとくね!!」





食堂につくと、麻美さんと泉君が場所取りをしてくれた。



その間に、桜庭君と食券の列に並ぶ。


桜庭君は「人すごいね」と言っているけど、今日は少ない方だと思う。



少し心配だったけど、注文を終えて戻った時にはもう席が確保されていた。


お礼を言いつつ席に座ると、麻美さんが「それなに?」と声をかけてくる。




「うどんです」




中身を覗き込んで、「奏と一緒だ!!」と言われてしまって、ちょっと恥ずかしくなる。



同じものを頼んでいたとは思わなかった。








「シノもそれにしたんだ」



「目当てのが売り切れで‥‥‥」今日はお味噌汁の気分だったから、定食が良かったんだけど。





ふと、視界の端にあるお弁当に目が留まる。



お弁当に入ったおにぎりが、パンダになっていた。かわいい。



しかもそれを、泉君が無言で食べている。






「なにそれ」と桜庭君が声をかける。



「弟のやつと同じのにされた」言いながら、一口でパンダおにぎりを平らげる。ちょっとかわいそう。



「いずみんのとこ、いつもキャラ弁だもんね」今日は気合入ってるんだねぇ、と麻美さんが付け加える。





彼女はというと、2,3人分はありそうなお弁当をすごい速さで食べ進めていく。



麻美さんの胃袋はどうなっているのだろうか。






「今日は、弟が遠足らしくて」



「いい天気ですもんね」今日は珍しく晴れている。気温は相変わらずだけど。



「どうせ、保育園の裏の公園なんだろうけどな」と言いつつ、一番最初に食べ終えた。



「いいよな、子供はさ。単純なことで喜べて‥‥‥‥」



「何いきなり不幸感出してんの」



「やあ、なんかさー。もう単純なことで喜べないっつーか‥‥‥‥」



「いずみん、おじいちゃんみたいだよ?」



「だってひまそーじゃん。好きなことしてても怒られないし‥‥‥‥」



「ああ、なんかわかる」



「だろー。おれもう無理。しんどい帰りたいー」



ここで寝ないでよー、と麻美さんがフラフラし始めた泉君の肩を叩いている。






「あの‥‥‥‥」



「「ん?」」私が話しかけると、言い合っていた2人がこっちを向く。










「何で私、"お嬢"なんでしょうか‥‥‥‥?」










空気が重くなったような気がする。






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