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『東雲さん、今日はよろしく✨』




授業が始まると、隣の席からノートの切れ端が送られてくる。


見ると、隣の席で麻美さんがヒラヒラと手を振っていた。




『あたしが黒板やるね✨』ということらしい。


私は背が低いから、少しほっとする。





『よろしくお願いします』と返して、教科書に向き直る。



目を離していたすきに、メモの部分が増えていた。


集中しないと。










黄緑色のチャイムが鳴る。






授業が終わると、日誌への書き込みに追われる。



授業の感想が上手く浮かばなくて、いつも休み時間がつぶれてしまう。



今日は移動がなくてよかった。



麻美さんが黒板を消すのを手伝ってくれたから、今回は楽だ。











「しののめさんっ!!」




彼女がまた声をかけてきたのは、お昼休みに入った頃。



突然視界に現れたオレンジ色に顔を上げると、麻美さんが申し訳なさそうな表情かおで立っていた。





「ごめん、部活のミーティング入っちゃったの。お願いできる?」





彼女が指差したのは、後ろの黒板前に積まれたファイルの山。2時間目の現国の時間に集めたやつだ。


日直の人が、お昼休みの間に職員室まで持っていくことになっている。





「はい、大丈夫です」



「ほんとっ!?ありがとうー!!」





「よろしくね!!」とだけ言って、すごい速さで教室を出て行く。





忙しい人だ。



確か、1年生のリーダーとか言ってたっけ。



運動部も大変だなぁ、と思う。












「っ、とと‥‥‥‥」





ファイルが嵩張かさばって、落としそうになる。



背が低いせいで、全然前が見えないし‥‥‥‥。








廊下に出たところで、教室に入ってきた誰かとぶつかった。



衝撃とともに、支えきれなかったファイルがこぼれ落ちていく。



バサバサという音と、視界に浮かぶ空色そらいろ







「痛‥‥‥」右肩に、じわじわと痛みが広がっていく。



あざになってないといいけど。

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