3色目 ともだち

・1

「おはよう、シノ」




教室に入ると、花色はないろの声が私を出迎える。



桜庭さくらば君だ。






「お、おはよう、ございます‥‥‥‥」






私はそれだけ言って、そそくさと目の前を通りすぎる。



あんまり注目されたくない。



ただでさえ、「変な人」なのに。





自分の席につくと、彼がこっちに来るのが見えた。










「しののめさんっ♪」





急に視界に入ってきたオレンジ色。



ヘッドホンを着けているのに、目がチカチカする。






桜庭君を遮るようにして声を掛けてきたのは、隣の席の麻美さん。




いつもにこにこしている、元気な人。



鮮やかなオレンジ色がまぶしい人。










「____はいっ♪」





なんですか、と言うより先に、大きなノートを渡して来る彼女。日誌だ。




あ、そっか。今日だっけ、日直。





「ほんじゃ、よろしくねー✨」それだけ言うと、他の子に呼ばれて廊下に出ていってしまった。





「どした?」


呆然ぼうぜんとしている私の視界に、卯の花色がにじむ。






「‥‥‥なんか、」



「‥‥‥?うん」



「‥‥‥すごかったですね」



「‥‥‥‥‥‥うん?」  



「勢いが、なんか‥‥‥‥」







今まで席が離れていたからあまり関わりがなかったけど。

桜庭君が転校してきてからの席替えで、初めて麻美さんと隣同士になった。



近くだと思ったよりも色が明るくて、勢いがすごくてビックリする。



色の形もはっきりしているし。





しばらくは、慣れそうにない。








「今日、日直?」



「はい」



「‥‥‥1人で?」



「‥‥‥に、なりそうですね」



「‥‥‥」



「‥‥‥」





「桜庭君は、何でここにいるんですか?」いつのまにか、ちゃっかり麻美さんの席に座っている彼。



「シノと話したいなぁと思って」




「だめ?」と念押ししてくる。





隅っこ族の私が、人気者の転校生と一緒にいるだなんて。


あとが怖い。





「だめでは、ないですが」



「じゃあ、いいってことだ」



「‥‥‥よくも、ないです」



「‥‥‥どっちだよ」少し笑って、返してくる。





強引な人だと思う。



でも、秘密を知ってるから、ちょっとだけ安心できる。





それも、私の学生生活と引き換えだなんて、彼は思わないだろうけど。











「ね、シノ」



「なんですか?」



「手伝うよ」



「‥‥‥?」何を。




彼の視線は、私の机に置かれた日誌に向いていて。







「大丈夫です。いつも1人なので」



回りの目が気になって、こうやって突き放してしまうのに。









 


「困ったときは言って」



 


なんて。



どうしてそんなに、優しいんだろう。



変なの。








「____はい」





でも、その一言で安心してしまう私も。



なんか、変だ。







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