・7





ヘッドフォンを外して、向かい側に座る彼に手渡す。



触れた指先が、一瞬あったかくなる。







「あれ、何も聴こえない‥‥‥‥?」



「はい。‥‥‥‥何も、聴いてませんので」







____ああ。今、「変なやつ」って思われた。







「変、です‥‥‥よね」







心臓が嫌に波打って、治まらない。



今のこれを色に表すとしたら、麹塵色きくじんいろ


濃く、暗い、茶色がかった緑色。





イガイガして、ぐるぐるして。



苦しくなる。





「はい」



「‥‥‥‥‥‥‥‥え」彼がヘッドフォンを取って、私の頭に被せてくる。






「‥‥‥‥‥‥‥‥」



「‥‥‥‥‥‥‥‥」



「あの‥‥‥‥‥‥‥‥」



「ん?」



「どうして何も、言わないんですか」



「なにが?」



「‥‥‥‥私のこと、おかしいって思いませんか」





私が言うと、目をぱちぱちさせて不思議そうな表情をする。












「べつに」













「え」



「だって、理由があってそうしてるんでしょ?」



「まあ、そうですが」



「俺は、シノのやり方でいいと思うから」

   








「‥‥‥‥‥‥‥‥違う?」やさしい笑顔を向けてくる。











____ああ、初めて。




私にこんな風に、言ってくれる人。 




心が、ものすごく軽くなったように感じる。




私のことを否定してくれなかったことが、これほど嬉しいなんて。




「べつに」の一言が、こんなに。




こんなに、嬉しいなんて____。








「‥‥‥‥‥‥‥‥っ」一瞬、目の前がぼやける。



「え、どうしたの、大丈夫?」溢れた涙に気付いたのか、少し灰色がかった色が見える。



「何でも、ないです。ちょっと目に、ごみが‥‥‥‥」







この人には話しても、否定はしないんじゃないかって。



そう思えた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る