・6
「まじ?」
「はい‥‥‥‥‥‥‥‥」
「うわー。めっちゃ不便」そう言いながら、近くにあった読書スペースに腰を下ろす。
「えっと‥‥‥‥‥‥‥‥」
「待つんでしょ、ここで」
「はい‥‥‥‥」
「シノのおすすめの本、ある?」
鞄を机の上に置いて、入り口付近の図書委員の掲示板の前に移動する。
「これです。私の、ブース」
私が指差すと、3冊の中から夕焼け色の本を手にとって、読書スペースへ戻る。
「あの」本を開く彼に、声をかける。
「なに」
私の声は小さいとよく言われるのに、彼はちゃんと拾ってくれる。
それは今日に限ったことじゃなくて、最初から。
「え、なに?」って聞き返されてしまうと、どうしても先に進めなくて嫌になってしまうのだけど。
彼といると、そんなことはなかった。
「どうして、私と‥‥‥?」だから私も、安心して言葉を続けることができる。
「さっきも言ったじゃん。話したいからって」
「だから、その理由を‥‥‥‥‥‥‥‥」
「いつも1人だから、気になって」
____ああ、そういうことか。
「同情、しますか」
「‥‥‥‥‥‥同情?」
「いつも一人で。ハブられて。空気で。かわいそうって」
「一人なのは気になるけど、それが同情になるなら、そうかも」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「どうしたの、急に」
「いえ‥‥‥‥‥‥‥‥」自分で墓穴掘った。
「シノとは、初日しか話してないからさ。あんまり知らないし」
これって、同情? と無邪気な
いじわるだな、と思う。
「これ、いいね」彼が見せてきたのは、夕焼け。
大半が青空なんだけど、水平線に向かって色が変わっている。
「そうですね」
「シノのおすすめって、写真集ばっかりだったけど、なんで?」
「写真集だけじゃ、だめでした?」
「なんか、珍しいなと思って」
「きれいな景色が、好きなので‥‥‥」
他にも、海と森の写真集をおすすめとして飾っている。
なんとなく、これを通して色の世界を共有したいと思っているのかもしれない。
「写真撮った人、すごいよね」
「‥‥‥?」
「だってこんなすげー景色をさ、1人占めしてるんだよ。羨ましいって思うじゃん」
「そうですね」
「こんなの目の前で見れたら、すげーよな。‥‥‥‥そういや、シノにずっと聞きたいことあったんだけど」
「‥‥‥は、はい」まさか私に話題が移るなんて思っていなくて、緊張が走る。
「いつもヘッドフォンしてるけど、なんの音楽聞いてんの?」
「え‥‥‥‥」
「Bluetooth《ブルートゥース》でしょ、それ」
それについては、間違っていないのだけど。
「よく、聞かれます」
「違うの?」
「‥‥‥聴きますか?」
「いいの?」
「ここなら、大丈夫です。減るものでもないので」
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