白猫と時渡りの杖

　二年前、キルクトーヤは残虐な養父・ナハトから逃れて見習い魔術師になった。キルクトーヤは魔術師学校で忙しい毎日を送っているが、まだ夜な夜なナハトが出てくる悪夢に苦しめられていた。夢のなかでナハトが「お前を逃がさない」とささやくのである。

　そんなある日、英雄・ジークが学校にやって来てキルクトーヤに求婚する。ジークは六か月前に、強力な魔族を打倒して凱旋したばかりの時の人だ。
　ジークは「十年前、君に求婚されたんだ」と言い募るのだが、キルクトーヤには心当たりがない。さらにジークは魔族を打倒したときにもキルクトーヤに会ったと言う。
「ほら、魔術の杖。君が落としていったのを拾っておいたよ」
　差し出された杖は、間違いなくキルクトーヤのものだった。しかし、キルクトーヤはそもそも国境に行ったことがない…続きを読む