第19話 グッドグッド、ハンド!

 腕も無くなり、船も無くなり、仲間も無くした。どうしたらいいやら、まったく分からず、岩に腰掛け何もやる気が起きず、静寂な空気と一体化していた。

その空気の中に、微かに機械音の振動を感じた。それは段々と耳で聞き取れる程の音に変化してかなり大きな音になって、そう遠くない空に姿を現した。何と大きさが半分程になった、見れば分かる自分の船だった。


 目を丸くした表情の口元は緩み、嬉しさが上回る驚きで、喜びの発狂をしたダストン。

「みんなーーー!!イエーーー!ヒーハ   ―――!!」飛び跳ねながら叫んだ。


 着陸してきた船から何人もの仲間が出てきて、船長との再会を皆が抱きついたり、握手したりで、喜びを分かち合った。

 驚いたのはもう一つ、リーチとコーレが無事だった事だ。二人とも包帯だらけだが、笑顔で

こちらに近づき、助かった奇跡を喜びあった。

 そして会話をしている中で、やたらとニヤニヤしながら喋るリーチ。何かをひた隠しながら、まるでドッキリでも仕掛けたかのように嬉しそうにしている。

 すると突然、ダストンの背後から両目を隠し、「だ~れだ!」と、誰かにされた。その声を聞いた瞬間すぐに分かった。振り向けばそこには、おてんばキーホが確かに居るではないか。

「ダストン!無事で良かった!もう、どうなることかと思ったね!」


 何も変わらず元気な姿で、こんなに涙ぐむとは・・・。


 どうやってあの時皆助かったのか、キーホもそうだが皆一斉に見たのが、黄色い霧だった。

その霧は巨大で、突然現れ崩壊しそうな船全体を包み込んだ。そしてそのままタバコの箱くらいまで小さくなり、マッハの速さで、あの絶体絶命の場所から逃がしてくれた。

船ごと人も小さくなったが、体に異変はなく、不思議な体験をしたものだ。それにしても一体誰が助けてくれたのか、分からないままだ。


 少ない量ではあるが酒や食糧も残っていたので、心ばかりの祝杯を挙げた。各々が少し汚いグラスを片手に談笑する中、ダストンは一人少し離れた場所で、思い耽(ふけ)っていた。

 本当の父親を目の当りにした時は、かなり複雑な心境だった。嬉しさや感動というのを味わうのではなく、怒りや憎しみで再会を果たすという、特殊な親子だ。


 おかしな親父ではあったが、全ての元凶の始まりと終わりまでを一貫し、それを終結させる為の力を与えてくれたのは親父だっただけに、感謝するのかしないのか、訳が分からない。

 でも最後に見た夢のような光景の時は、気分は普通に良かった。


 そして、なんだかんだで1年が過ぎた。船は大破したが、残った部分だけでも使えそうな所を修理して、不細工で小さな船に生まれ変わったが、何とか航行している。

 クルーはあれからかなり減った。やはりあんな事があっただけに、もう船には乗れない者も少なくなかった。皆各々が故郷で自営や農業など様々な職に転職した。残っているのは、リーチやキーホを含めて、僅か10人になった。でもこれは心機一転、新たな気持ちで生きていくのに寂しさなどは皆無かった。

 

 ところで気になるのは、その小さな船で何をやっているのかだ。当然ミーゴブレスの駆除ではない。宇宙に散らばる宇宙ゴミだけは無くなっていない。よってそれを掃除する者がやはり必要なのだ。

 各星に存在する様々な国が、こぞって自分達の国の為の科学の進展や、名誉の為、あるいは軍事の為などで宇宙の覇権争いが後を絶たない為に、宇宙という特別な空間が、ちっぽけな人類によって汚されてるのは、悲しいの一言に尽きる。

 ダストンはというと、左腕はからくり仕掛けの機械の腕になっていた。慣れるまでしばらくかかったが、今は思い通りに動かせるようになっている。今も毎日、宇宙掃除に忙しくしている。


そしてコーレはというと、


「ダストン!そのゴミは、こっちに入れてって言ってるでしょ!」


「・・・はいはい、すいませんね、・・・(ったく!オメェは母親かよっ!)」


「何か言った?」


「いえ、いえ、何も!・・・そうだ、そろそろ休憩しようか!」


「・・・まぁそうね。皆のお昼ご飯もそろそろ作らないとね。今日はダストンの好きなオムライスにしてあげるわ。」


「マジかよ!やったーーー!よぉし、もう少しだけやってくるわ!」


「・・・ホント、子供ね。」


 半分呆れ顔で、優しい笑みを見せるコーレは本当に母親の様だ。

 ダストンの母親は、割と若くしてダストンを産んでいる。だから見た目の若さは、さほどダストンとは変わらない。生きているなら丁度、コーレの様な女性のはずだ。

その事を知っているのは、コーレだけ。

いつも微笑んで、不思議な力で見守るのもコーレだけ。

ちなみに今、コーレの右腕は、黄色い霧によって形成されている。


 今日も陰と陽を激しく入れ替えながら、目まぐるしく回る宇宙。それに伴いキラキラと輝きながら、綺麗に見える星々。それに魅せられた人類の希望や欲望で増える文明の開化。それはわざと複雑に作られた、愚かな人間の政治と法律によってできた、エゴだらけの機械戦争が起きる宇宙。世の中を正そうとする勢力は、大抵が悪者よりも非力で、苦労する事が多い。


 それを本当に浄化したいなら、あの力を使うしかないかもしれない。

 宇宙掃除軍の任務は、今でもヘンテコだ。

                                      おわり

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Good Good Hand 高乃原 世治 @tumecomi

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