第12話 シャットダウン

 遥か昔に、ベシャル人という民族がいた。その者達は、争いが嫌いで、性格も比較的円く(まるく)、温和で勉強家な一面もあり、何でも学び取り入れて自分達の技術を高め、独自の技術を生み出す事に秀でていた。

 外見は少し変わっていて、手指が通常の人よりも長く、肌も薄緑の色をしていて、視力が非常に良くて、かなり遠くの物や景色も見渡せる程の目を持っている。身体能力も格段に高い。

 総合的に見ても、他の民族よりも稀で特殊な民族と言っても過言ではない。しかしこの民族は数百年ほどで滅んでしまった。いや、正確に言えば、本当に滅んだかどうかは分かっていない。だが、古い文献には滅んだと書いてある。しかもこの文献、誰が書いたのかは謎のままだ。

 じゃあ、なぜこんなにも疑わしく思うのか?それは、ある一人の青年が、そのベシャル人の特徴そのままだからだ。 そう、ダストンだ。


 「見ろ!あの時の女だ!またブレスを引き連れて現れたみたいだな。今度こそ逃がさん!聞きたい事が山ほどあるしな!」


 ダストンがそう思うのも無理はない。知らない人が見れば、彼女が生み出してるように見えても不思議じゃない。

 では、その彼女から見た彼は、どう見えているのか?


 「またあの船?・・・やっぱり間違いないわね。船の上に立ってるあの男、見た目が特徴そのままね、ベシャル人に・・・。」


 どうやらベシャル人のことに詳しそうなコーレだが、なぜ彼女はここまでベシャル人に執着するのか。それにブレスを生み出し、そしてコーレに向かってブレスを投げてきた謎の男と、彼女との関係性は何なのか?


 そうこうしてる内に、ダストンとコーレが遂に対峙する。

 ゆっくりと船は速度を落とし、彼女の方へと近づく。船の上に立つダストンの目線は、今完全に彼女の目線に合った。


「・・・・・・・。」 

「・・・・・・・。」


 しばらく見つめたままの沈黙があったが、ダストンが口を開く。


 「俺はダストンという者だ。この船の船長をやらしてもらってる。君の名前を教えてもらっ

てもいいかい?」


「・・・・・・。」

 

 「言葉は分かるか?もし分からないなら、君の言語にも対応できるかもしれない翻訳機があるんだが、それを使えば会話ができるんだけど、どうかな?良ければそうした・・・」


 「言葉ぐらい分かるわ。」


 「・・・そうか、なら良かった。・・・じゃあ単刀直入に聞く。君は何者だ?」


 「私はお前達と同じ人間さ。」


 「・・・そうか、なら良かった。・・・それじゃあ君が、ミーゴブレスと一緒にいる理由を聞かせてもらおうか?それは君が使い出してるものなのか?」


 「・・・使い操ってるのは私よ。でも生み出すのは私ではないわ。」


 「何?それはどういう事だ?じゃあ君以外の仲間がいるのか?」


 「仲間?そんなものいないわ。私はただ操られてるだけよ。そんな事どうでもいいけど、あなた、人助けはお好き?」


 「は?何をいきなり、藪から棒だな。そんなこと聞かれたこともないし、考えたこともないな。ん~、まぁ困った人がいたら、ほっとけない奴らは、この船には山ほどいると思うけどな。」


 「そう・・・じゃあ、あなたもその一人と思っていいのよね?じゃあ、今すぐ私を助けて!」


 その瞬間!コーレの横にいるミーゴブレスが、大きな口を開く様に急激に大きさを変え、ダストン達の船に襲いかかってきた! 全員が戦闘態勢に入る!


 しかし間髪入れずに、ダストンの左腕が新たな力の違和感を感じた。それは最初、後ろからかと思ったが、

 「上だ!船の上に誰かいるぞ!・・・しかも装備も何もなしで、宇宙空間に浮いてる?」


 「なんじゃと!生身でか?そりゃまるでお前と一緒じゃ!」

 慌ててとび出すリーチの老人語が、緊迫感を呼び寄せる!


 上に気を取られたダストン達に、目の前までブレスが襲いかかっていた。

 「やばい!」

 ダストンは咄嗟(とっさ)に左腕を前に出し、いつもの態勢に入る!

 「我、守護神なりて、解放の神なり。」と、唱えた。


 「えっ!?」 コーレはそれを聞き逃さなかった。


 しかし、いつもよりも近過ぎた為か、技が発動するよりも速く、ブレスが船を含めた周りのありとあらゆる物を吸い込み始めた。


「ダメだ!技が間に合わない!」


 船が微振動を起こし出し、ミシミシと、船全体にきしむ音が鳴り始めた。リーチも船の逆噴射装置を作動させるが、引き寄せられる力が強すぎて、さほどの役に立たない。そのうち左翼に付く第3エンジンが、翼とつないでいるジョイントごと、えぐり取るように吸い込まれていった。

 操縦席から見る数々の電工表示が、いくつものアラーム音とともに鳴り響き、ピカピカと何度も付いたり消えたりしている。エンジンは6つあったが、残り5つになってしまった為に、このデカい船がどこまで持つか、ダストンは気が気でない。


 その気持ちを無視するかのように、船のボディーの外板が剥がれていく。それをただ見つめる事しかできず、やむを得ず脱出の準備を始めるクルー達。ダストンも自分が飛ばされないようにしながら、懸命に左腕をブレスに向けている。

 少しずつだが、左腕にブレスを吸収し始めたが、あきらかに遅すぎた。無常にも、船の左翼部分が引き付けられ過ぎて、折れてしまった。船内には、けたたましく凄まじい音が鳴った。


「全員退避して!急いで脱出ポットに!おねがい!急いで!」


 キーホの願い虚しく、船の一部の裂けた所から、クルーの何人かが外に放り出されてしまった。

 それが操縦室の窓から見えた。涙を流し、叫ぶことしかできず、ただただ窓に張り付いて目で追いかける事しか、キーホはできなかった。

 

 ダストンも、「これで終わるのか・・・。」と、諦めかけていた時、ミーゴブレスの動きがピタッと止まった。そして少しずつ後退し始めた。

 

 「な、何だ?ブレスがバックしてる?いったい何が・・・。」


 初めて見た後退していくミーゴブレスに、戸惑いと少しの喜びを感じたダストン。どういう事か理解できない中、ブレスの後ろの方で、自分に似た格好でいる彼女が見えた。彼女は右腕を前に掲げて、顔を歪めながら何かをしている。その間もブレスはどんどん船から離れていく。

 そう、つまり彼女が引き付けてるようなのだ。その事実を不思議に思いながらも、

「助かった。」

の一言が脳裏をよぎる。今の自分の非力さは後で責めることにして、今は仲間のこれからの無事が最優先だ。目的はどうあれ、このまま助かったら彼女に礼を言わなければ・・・、だがそれはあの謎の男に遮られることになった。

 男は不敵な笑みで自分の腕を刃物の様にして、彼女とミーゴブレスの間に振り切った。すると、突っ張ったゴムが切られたかの様に、彼女は後ろに体をよろめかせた。彼女はそれを素早く立て直し、上を見上げた。


 「駄目じゃないか、お前がブレスを止めるような事をしては。」


 男はニヤニヤとした顔で彼女を見下すように言った。彼女は怪訝(けげん)な表情で男を睨みつける。


 「私の邪魔はしない約束のはずよ!」


 「あぁ、それはワシの約束通りにしてくれたらの話さ。さっきの行動は明らかに違(たが)えたものだったんでな。少し修正させてもらったのさ。」


 「ふざけたことを!これ以上こんなことをやっても、あなたの望むようにはならないわ!」


 「・・・これがワシの望むことだよ。」


 何やら嬉しそうに下を覗く男の目には、ダストン達の船に再度襲いかかるミーゴブレスが映っていた。船に近づくブレスに、キラキラと輝く様に見える、バラバラになっていく船のパーツが、男には綺麗に見えていた。

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