第13話 崩壊が招いた誤算

 ダストンは座りこみ、空をぼんやり眺めていた。他のクルー達も、かなりの疲労からくる体の重みに耐えきれず横になったり、うなだれたまま座る者も少なくなかった。全員が今は何にも手を付けられない状態だった。

 

 あれから何があったか、何日経ったのか、しかし実は三時間ほどしか経っていない。

 無情にも船はバラバラに大破し、全て飲み込まれてしまった。何とか脱出船も数基完備していた為、何百人かは避難できた。何百人かだ・・・。もちろん人数分の機体は常備乗せていた。無ければ、安全法律上に違反するからだ。

 だが、ほとんどの機体を乗り込む前に失ったり、乗り込んだ後そのまま失ったのだ。その中には女性や子供も多く含まれていただろう。今はそれを全て把握することは、ダストンにはできそうもない。というのも、一番の友人でもあった、キーホを失ったからだ。


 キーホも最後まで全員を無事に逃がそうと必死になって、自分のできることを最大限していた。

それも虚しく、目の前でバラバラになっていく愛する母船を、涙で顔をクシャクシャにしながらも懸命に守ろうとした。

 どこかで頭をぶつけたのか、血を流しながら気絶しているリーチも身を徹して助けた。しか

しそれはキーホを犠牲にしての話になってしまった。吸い込まれる破片の中に、懸命に伸ばしたキーホの手は、最後にリーチの手を掴み、力いっぱいキーホを自分の方に引き寄せて、そのまますぐ近くの脱出船に放り込んだ。その後、横の方から不意に、どこからか外れてきたドアがキーホを直撃した。

 そのままキーホは勢いよく、ドアと共に飛ばされたと、目撃した何人かのクルーが言っていた。

考えたくはないが、あのままブレスに・・・


 あの切迫した危機から逃れられたのは他でもない、あの謎の女のお蔭なのだ。理由は分からないが、彼女はダストン達を助けてくれた。まだ名前も聞けてない彼女がだ。


・・・目の前にいるから聞いてみよう。ダストンはうつむいたまま聞いた。


「君はホントにいったい何者なんだい?そろそろ名前くらい教えてくれないか?」

顔を上げて彼女の方に向いた。


「・・・コーレ。」 背を向けて立ったままコーレは答えた。


「そうか、ありがとうコーレ。俺の名前は言ったっけか?」


「ダストンでしょ。聞いたわ。」


「ここはコーレの知ってる星かい?いい場所だな。」


「私が住んでる星よ。ここだったら私の船で一瞬で来ることができる装置があるから、あなた達を連れて来れた。とりあえずは安全だから、ゆっくり休むといいわ。」


「遠慮なくそうさせてもらうよ。ここは何だか落ち着くな。水も美味い。湧水か何かか?そこの川の水も綺麗だし、こんな星初めてだよ。変に懐かしい感じもするしな。」

「・・・あなたに話しておく事があるわ。これはあなたが私に聞きたいと思っている事と、

 直結した話よ。あなたの質問はこうよ。私がブレスを操れる事、もう一つは、あの男との関係の事。そうでしょ?」


「そうだな。ぜひ聞かせてもらいたいな。」


「時間もないから簡潔に話すわ。まずはあの男の事だけど、あいつは遥か昔に存在したベシャル人という、とても有能な民族の生き残り。しかも彼はその民族の王だった者よ。」


「王?王様ってことかい?そんな奴が何であんな事を?」


「昔の彼はあんな人ではなかったみたいよ。何かが乗り移ったかのように人が変わってしまったと、古文書に書いてあったわ。まぁ昔って言っても、遥か昔から生きてる人だから。3000年くらいにはなる、元々かなり特殊な男よ。」


「そんなにベシャル人っていうのは、長生きできるのか?」


「だから言ったでしょ、特殊だって。ベシャル人はもぅとっくに絶滅した民族よ。彼は何らかの理由で生きてるのよ。ちなみに言っとくけど、私も約1000年くらいは生きてるわ。」


飲みかけた水を、勢いよく吐き出したダストン。

「1000年!?君も特殊な民族か?・・・そういえば今更気付いたけど、君は俺と少し見た目が似てないか?あまりにバタバタしていたから気に留めれなかったが、よく見りゃ一緒だ!」

肌は薄いグリーンで、常人より指が長い。確かにそっくりだ。ついでに言えば、髪はロング

ヘアーでかなりの美人ときてる。


「・・・そうね、じゃあもぅはっきり言うわ。私もそのベシャル人の数少ない生き残りよ。ていう事は、どうゆう事かお分かり?」


「まさか・・・俺も!?」


「ご名答。何の因果か、あなたと私は同じ民族。しかも絶滅されたとされる者同士が、今ここで出会ってる。誰かの差し金のような感じがしない?」


「誰かの?・・・思い当たるとすれば、あの男か?」


「いい勘してるわね。まさにあの男が、私とあなたを近づけた張本人よ。そして彼は私達民族の王。何をしたいと思う?」


「それは・・・まさか民族の復活か?」


「正解よ。私が彼と初めて会った時にその話を聞いた時は、正直いい話だと思ったわ。どうやって私のことをベシャル人と調べてきたのかは知らないけどね。」


「君は自分がベシャル人と知っていたのか?」


「歴史書とか本を読むの好きだから、何となく気づいていたくらいだけどね。自分の特徴くらい自分が一番分かってるし。」


 歴史をあまり学んでこなかったダストンには、今一つベシャル人というのが分からないが、どうやら凄い民族みたいで、しかも自分がその一族の末裔という事を初めて知らされたダストン。

 母は亡くなっていて聞くことはできなかったが、父親はなぜこの事を教えてくれなかったのか、父親?そう言えばどんな顔だったっけ?最近特に思い出せない気がする。


 「・・・ちょっと待ってくれ、俺の親父って肌が緑色だったっけ?指は・・・?コーレ、ちょっと聞きたいんだけど、俺がベシャル人って事は、両親もベシャル人てことだよな?」


 「普通ならそうね。でもあなたの両親とされる人は、ベシャル人ではないわ。少し言いにくいけど、本当の両親は別にいるの。」


 開いた口が塞がらないとは、今のダストンのことを言うのかもしれない。このショッキングな告白は、今しがた仲間を失ったショックとが入交り、精神が崩壊しそうな程の衝撃だ。

 でも両親の記憶が薄いのもこれで納得いく形になった。・・・しかし待ってくれ。じゃあ本当の両親は誰だ?俺はどうやって生まれたんだ?


 「あなたの父親よ、彼は。」


 目と鼻が飛び出そうになった。いや、一瞬飛び出たかと思った。特殊な体なだけに、それもあり得る。それにしてもびっくりする事だらけで、読者の皆さんもそろそろ思ったことがあるだろう。早く話を進めろ!と。 次から進展しますよ。

 美しい星の空に突然、どす黒い大きな霧が漂い始めたのは、この会話をしてる時だった。ダストンとコーレはほぼ同時に異変に気付いた。ダストンの左腕が赤く霧だし始めた。そして、2人の後ろの方から、砂利の上を歩く足音が近づいてきた。

 2人は振り向いて、その男の姿を確認した。そして男は、こう告げてきた。


 「お前達が揃ったことに、ワシは深く感動しとるよ。これは目的が65%は達成されたことを意味する。どういう事か分かるかね?お前達はワシの大事な目的の大半を占める。ほぼ達成とみてよい。」


 「いったい何の話をしてるんだ!お前はいったい何者だ!」


 「おや?コーレから聞いとらんのか?・・・まぁいい。それよりその左腕、気に入っとるか?

  素晴らしい芸術品だと思わんか?それはワシが造ったんだ。」


 「話をすり替えるな!この腕は生まれつきだ!お前みたいな奴に何かされた覚えはない!」


 「なかなかの男前の顔しとるの~、若い頃のワシにそっくりじゃ。コーレよ、どこまで話は進んどるんじゃ?」


 「いいかげんにしろ!」

 苛立ちを右手に込めて、男に殴りかかるダストン。踏み出した一歩目は、地面をかなりえぐっ

た。そして力いっぱいの右ストレートを打ち込んだ。

 しかし男はそれをいとも簡単に、左手で受け止めた。


 「自己紹介をしとこう。ワシの名はミーゴ。全知全能の神に成り得る者であり、お前の父親だ。まぁ、それは聞いとったじゃろぅ。」


 おもむろにミーゴは右手を上に上げ、それを手刀の様に振り下ろし、ダストンの右手首を切り落とした!

 強烈な痛みがダストンに走った!喉が潰れそうな程の叫びをあげ、膝まずきながら右腕を庇

(かば)った。


 「悪い子にはおしおきが必要と、昔から相場は決まっておる。親は子を叱るものじゃ、そうじゃろ?ポピー。」


 ポピー?今ポピーって言ったのか?ダストンは耳を疑った。内の船医のポピーが奴と知り合いなのか?

 するとミーゴの後ろの方から、聞き覚えのある車椅子の機械音がした。そこには確かにポピーが乗っている。


 「やれやれ、それは流石にやり過ぎってもんだよ、ミーゴ。そういうのを家庭内暴力と言うんだよ。内の船長が怪我したら、船医としてはほっとけないからねぇ、治してやろうか?ダストン船長。」


 レンズの小さなサングラスをしたまま、不気味な笑みで現れたポピー。船の中で一番の古株であり、かなり信頼感があったが、今はそうは思えない威圧感を感じる。


 「アタイが敵側の人間と知ってショックだろうねぇダストン。まあでも今まで楽しくやらしてもらってたよ。あんたらの事は嫌いじゃないし、嘘偽りなく、このまま暮らして生きていくのも悪くないと思っていたよ。

 だけど、ミーゴの理想も悪くなくてね、ある時誘いを受けたんだ。スカウト・・・いや、

ヘッドハンティングと言ったとこかねぇ。

金も入用でねぇ、かなりの報酬を提示されちゃあ、断る理由がねぇしね。アタイももう歳だし、残りの人生はやっぱり自分だけの楽しいものにしたいしねぇ。

あ、そうだ!お前も一緒にどうだい?船も無くなっちまったし、その右手もアタイが手術でマシンに付け替えてやるよ!お前なら直ぐにでも幹部候補さね!」


 ダストンの腕の痛みが消えた。一瞬、心に空白ができた。


 「ポピーの言い分は分かったよ。最後に一個だけ聞きたい。何百人もの仲間達が死んでいったのは、お前達の計画通りなのか?」


 「・・・・・、あれは必然と言わしてもらおぅかね。」


 次の瞬間、ダストンの左腕が赤と緑の色で、ねじり合う竜巻の様な腕になり、凄まじい程の

大気のうねりを生み出した!

 急な出来事に、後ろにいたコーレもしっかり踏ん張っていないと、巻き込まれそうだ。荒れ狂う塵や埃に、両手で顔を隠さないと、目も開けていられない。


 「こ、これは、何て力!?あんなの見たことないわ!」


 横にいたミーゴも、流石に急いで後ろに引いた。彼が身に付けていた、ターバンやマントは

竜巻と化した腕に持って行かれた。


 ダストンの目は右が赤色、左が緑色に変色しており、さっきまでの温厚な表情はなくなっていた。右手は切り落とされたままで、そこからは血がしたたり落ちてはいるが、激痛を忘れているのか、落ち着いた様子が異様さを漂わせている。

 そして、おもむろに左手を伸ばし、ポピーの車椅子を掴み、軽々とポピーを乗せたまま持ち

上げた。ポピーは何もできぬまま、突然の事に表情をこわばらせた。


 「は、離せ!何をする気だい!この恩知らずめ!今までどれだけお前たちを診てやってきたと思ってる!くっ、体の自由が効かないの知ってるだろぉ?

わ、分かった!アタイが悪かったよ!そ、そうだ!船をまた買おぅ!金はアタイが大半持つから!仲間のクルーもまた探せばイイ!すぐに見つか・・・」


 彼女の言分は最後まで通ることもなく、車椅子ごと、竜巻の渦に巻き込まれる様に、消えていった。

 まさかの敵だったとはいえ、笑い合った日々があった事は否めない。どことなくだが、哀愁漂う風が、そこに居たポピーに染み着いた薬品の匂いも消していった。

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