第10話 追憶の記憶

 ダストンの頭の片隅には、不思議な記憶が一つある。それは母親の記憶だ。生まれてすぐに亡くなったとしか聞いておらず、逢ったこともないが、なぜか夢で度々見る。それに妙にファッションが古い。ターバンやマントみたいな物を身に付けていて、何やら歴史で習う、大昔に居る様な感覚にいつもなる。現在はそんな恰好をしてる人はどこにもいない。今は簡単に言えば、宇宙服をカッコ良く着こなしている感じが主流だ。大体のイメージで察してほしい。

 なぜその夢を見て自分の母親と思うのか?それは埋め込まれた記憶、勝手に呼び出される記憶、まさにデジャブだ。デジャブとは、そのことを経験したことがないのに、過去に同じような経験をしたことがあるような感覚のことをいうが、その感覚に似ている。誰もが一度は経験があるのではなかろうか。

 ダストンはなぜ自分の腕がこんなことになっているのかを、たまに考えることがある。産まれた時から腕が霧だらけの奴なんて、普通いるか?と、ツッコミたくなる。しかも普通の生活じゃなく、宇宙の掃除屋などという特殊な仕事をやり、しかもその仕事対象が自分の左腕と同じものを駆除するという、何とも不思議な生活をしている。

 そもそも父親は何か知らないのか?そういえばその事について、ゆっくり話をしたこともないな。腕がこうなのも、父親の影響が何かあるんじゃないのか?

 何だろう、父親の顔が浮かばないな。一緒に船に乗ってた時は、どんな話をしてたっけ?

怒られたり褒められたりした事って、あったか?

声はどんな感じだった?低いのか?高いのか?

顔も思い出せない。

 父親は誰だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る