第3話 過去の手錠
願いを一つ叶えてくれるなら、あなたならどうする?よく聞かれている質問だが、俺なら迷わずこう答えるだろう。
「俺の両親が、過去で出会ってないことにしてくれ」と。
そうすれば、俺も生まれてはいないし、両親も死ぬこともなかった。ついでに言うと、俺の左腕もこんな事にはなっていなかっただろう。そう、俺は生まれてはいけなかったんだ。
両親が結婚し、初めての子供が俺だった。病院で生まれた俺は、生まれてすぐにその病院を破壊した。その原因は、生まれた時から左腕がミーゴブレスで、形成されていたからだ。取り出すまで、そのことが分からなかったのは、今だに謎のままだ。母親の体内の何らかの力が働いていたのかもしれない。
母のお腹から出た赤ん坊の凄まじい力で、病室は大パニック。舞い上がる施術用の器具、包帯や衣類、壁際を手で力強く掴み、今にも飛ばされそうな看護師や医師たち。現場はTVニュースの台風中継さながらだ。そのパニックを抑え込み、危機を救ったのは、生まれたばかりの俺だった。自分でやっといて、自分で抑える。何とも破天荒な赤ん坊だが、どうやったかは今の俺が覚えてる訳はない。ただその時、一番冷静だったのは、母だけだったらしい。
何かを知っているかの様に、冷静な母は、俺の手を握り、微笑んでいたらしい。何かを伝えたい様に泣き叫ぶ俺。赤ん坊は何で泣いているのか分からないとよく言うが、この時の母は何か分かっていたのかもしれない。
そんなこんなで大変な出産になった訳だが、それからしばらくは、大した問題は起きなかったらしい。左腕のミーゴブレスは大人しく普通の左腕でいてくれたようだ。霧の様な感じだが、なぜか服も着れるし、触れば肌に当たる感覚と一緒だ。ただ普通と一つ違うとすれば、力を入れると大きく肥大化してしまうところだ。これは物心が付くと自然と自由自在に操れるようになった。
これは友達であろうと絶対に誰にも見せるなと、親に言われていた。自分でも気持ち悪いと思っていたから、自ら見せる様なことはしなかった。でも俺が10歳の時に、友達とケンカしてしまった時に、カッとなって思わず力いっぱい殴ってやろうと思い、それが発動してしまった。しかしこれはヤバいと反射的に感じた俺は力を抑えたが、友達に怪我をさせてしまった。軽傷で何とか済んだので不幸中の幸いと言える。
しかし、ずっと長袖と手袋で隠していた俺の腕が、とんでもない事になったのを目撃した友達は、目が点状態だった。それからは遊んだりはしてくれなくなった。あいつには悪い事をしたと思っている。まだ10歳という、未熟な精神状態でかなりの恐怖を与えてしまった罪は重い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます