第7話 出会い
ダストンが、しゃがみこんで苦しんでいる。
「う、腕が、急に痛み出した!何だこれは!こんなこと初めてだ。」
初めての事に、キーホも焦る。
「どうしたの!大丈夫?急いで船医を呼ぶわ!ポピー!至急、コックピットまで来て!」
この船の船医の長である、ポピーの携帯が鳴る。それと同時に艦内のスピーカーにもポピーを呼ぶ放送が流れた。そして、8分後にポピーがコックピットに現れた。
「アタイを呼ぶなんて、よっぽどだね~、何事だい?」
ポピーは車椅子に乗った足の悪い、高齢の医者だ。車椅子と言っても、地面から浮かぶ最新鋭の車椅子だ。彼女は艦内をそれに乗って自在に動き回る。この船に乗る前は、ダストンの父親の船にも乗っていた、超ベテラン医師だ。
「何か知らんが、左腕が物凄く疼(うず)いて痛むんだ。何か分かるか?」
「ん~、左腕が?そりゃまたお前にしては、珍しい症状だね~。お前の左腕って事は、原因は一つしかないね~。そりゃ、左腕のミーゴブレスが何らかの影響を与えてるのは、間違いなさそうだね~。」
「今までこんな事なかったのに、急に何でだ?」
「ん~、アタイも医者を長くやってきてるが、お前みたいな特殊な検体は初めてだからね~、
正直わからん。」
「検体って、人を実験体みたいに言うなよな!」
「ヘっ、へっ、悪い、悪い。チョイと口が滑っただけさ。ど~れ、よく見せてみな。ん?こりゃ、腕が変色してるね。」
ダストンの左腕は、ミーゴブレスなだけに、普段は緑色の腕をしている。だが、今はなぜかポピーの言う通り、変色し、赤い色をしている。
「こりゃ~、あきらかに異常だね。特に赤ってのは最悪だね。なぜなら、アタイが見たことない症状だからね。手の施(ほどこ)しようがない。」
「まったく他人事だな、ポピーは。ちょっとは医者らしく、何か処置しろよな。超絶困ってんだよ、こっちは。さっきよりもかなり疼きだしたよ。」
「あっ!大変よ!かなり大きなミーゴブレスが近くに見えるわ!ダストンの様子がおかしいから気づかなかったんだわ。早く指令を出さなきゃ!どうしよう、ダストン!」
キーホも初めての事で、かなり焦っている。いつも人頼みだったのが露呈された。船内に知らせるスピーカーへのスイッチも、中々見つけられない。
「落ち着け、キーホ。腕は疼くが、何とかなる。今回は奴らの邪気を、いつもより強くビンビン感じてるが大丈夫。この船のクルーなら乗り切れるさ。」
落ち着いた口調で、周りを安心させるダストンを後目(しりめ)に、周りを監視していたリーチが何かに気付いた。
「何だ、あれは?ブレスの向こう側を良く見ろ!あれは人じゃないか? ん、?しかもあれは女じゃ!女が宇宙空間に立っておるぞ!」
リーチは確かに高齢ではあるが、普段の喋り方に年寄りであることは微塵に感じさせないのだが、極限まで慌てると、つい老人の様な語尾になるのだ。
コックピットの者全員が、船の大きな窓際に張り付き、リーチの言う方角に目を凝らす。
「本当だ!しかも両手を広げて何かしているぞ!・・・何だ?あれはまさか、ブレスに何かしているのか?・・・まさか、操ってる?」
全てを飲み込むミーゴブレスを目の前にして逃げ出さず、それよりも宇宙空間に一人浮かび、まるで彼女が操っているかの様な光景を初めて目の当りにしたダストン達。驚きと共に、今までの常識を覆(くつがえ)された瞬間だった。あんな凶悪なものが、まさか人の意思で造られていたとは。
向こう側も、こちら側の動きを警戒してか、今回は去っていくようだ。ゆっくりと方向を変え反対方向へと漂い、段々と消えていった。気づけば、謎の女の姿も消えていた。
ダストンは消えていくブレスを見つめながら、最後に見た彼女の目に、何か只ならぬものを感じ取っていた。目が合った彼女の目には、哀愁のようなものが見えたように思えたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます