第25話 精霊が歩けば騒ぎに当たる…?

「…では冒険者証をお預かりします」


野営地で盗賊に襲われたワタシ達は翌日、近くの街を訪れていた。


盗賊達を生きたまま捕縛したので街にある自警団詰所に連行したのだ。自警団というのは街の治安を守る自治組織なんだけど、その大元は国の騎士団で、自警団も国の組織の一つになるんだって。そして、犯罪者が死亡している場合は証拠品を冒険者ギルドへ持ち込むだけで良いんだけど、犯罪者を捕縛した場合は自警団に引き渡すように取り決めがされているらしい。


…と、いうわけで捕縛した盗賊を近くにある街の自警団詰所へ持ち込んだというワケ。


「こちらの盗賊団は手配レベル5、そして身柄引渡となるので報奨金と身柄買取料金が出ます。受取方法はどうなさいますか?」

「では、こちらのユージュへ全額振込んで下さい」

「ちょっ…グランディルさん?!」

「捕縛したのは貴女ですからね、当然の権利ですよ」

「いやでも…」

「盗賊の討伐も冒険者の実績となりますし、我々ユグドラシルではこうした場合の報酬は全て盗賊の捕縛をした者の物になるんですよ」

「うぅん…そういう決まりルールなら…」


後ろを振り返ると、商隊の他のメンバーも頷いている。ルノは当然だという顔だし、アルルとクルルに至ってはサムズアップまでしていた。あとから『子供の小遣い稼ぎみたいなもの』なんだと皆が言うので、素直に頷いておいた。あって困るものじゃないからね!


予定外の寄り道になったけど、せっかく来たのだからとこの街を回ってみることにした。グランディルさん達はをするんだってさ。


「そういえば、商隊ってどんな風に仕事をするんですか?」

「そうねぇ…ユージュちゃんは商人についてどれくらい知ってるのかしら?」


グランディルさんが仕事のための手続きをしに行ってる間に、ペルテシアさんに尋ねてみる。ボンヤリとした知識はあるけど、詳しく知っているわけじゃないんだよね。


「えぇっと、モノが欲しい人とモノを売りたい人の間に入ってモノのやり取りを円滑に進める人…?」

「そうね、まぁ概ねその認識で合ってると思うわよ。小麦を売りたい人と小麦を買いたい人の間に立って仲介するお仕事ね」

「ふむふむ」

「そして、私達のユグドラシル商隊は遠くの品と人を結びつけるのが仕事ね」

「うーんと、遠くの土地にある品物を別の土地で売るってこと?」

「そういうこと!私達は訪れる街々でその土地では手に入らない品物を売ったり仕入れたりしながら回ってるのよ」

「へぇ〜」

「まぁ、それは表向きなんだけどね」


ユグドラシル商隊は世界樹を信奉するユグドラシル教の信者集団でもある。なので、各地にある世界樹を巡って異変がないか確認したり、時には剪定や栄養剤の投与。害虫駆除やユグドラシル教の教会施設に問題がないかの確認、物資の提供…といった事を行っているんだとか。


世界樹は地下深くに張り巡らされた根っこ同士が繋がっているので、その根っこワークを使って各地の様子を確認することが出来るんだけど、やっぱ植物だから色々とがあるんだって。そこを補うという目的もあるみたい。


アウグレーティアさんが同行しているのは、ユージュリア襲撃事件があった事でヒト族の動きをその目で確認する事と、襲撃に関わったヒト族を探し出す為。商隊として世界中を巡る彼らと一緒に色んな街を訪れて、人々の間で交わされる小さな噂を拾い集めて整理し、世界の情勢を読み解くんだって。難しくて半分聞き流しちゃったけど、何だかカッコいいよね。


ワタシの中に溶けてしまったユージュリアの事はまだ消化しきれていないみたいだけど、取り敢えずワタシの事は『ユージュ』として扱ってくれている。時々すごく優しい眼差しで頭を撫でてくれるんだけど、それが少しくすぐったくて胸の奥のユージュリアの欠片がズキンと痛むのはココだけの話だ。


「さて、許可も出たし店を出そうか」

「りょーかい!」


グランディルさんの一声で、商隊の皆が動き出す。


ここで言う『店』は露店のこと。街に店舗を持たない商人は、露店営業許可区画に露店を出す事になる。各街にある商業ギルドの窓口で代金を払い土地の占有許可証を貰って、露店専用の広場へと向かうと、そこには様々な様式の露店が出ていた。テントの形も売っているものも多種多様で面白い。じっくり見て回りたかったけど、まずは自分達のお店の準備が先だ。


ユグドラシル商隊の馬車は露店屋台も兼ねているので、決められた区画へ馬車を移動させる。他にも荷車を使う商人はいるから、ちゃんと専用通路が整備されてるんだよ。こういうのを搬入口って言うんだっけ?


馬車の横面がパカンと開くと、キッチンカーみたいになっていた。…ほんと、馬車の中と外観との大きさの比率がおかしくて不思議だなぁ…ヒトが横に二人並べる位の幅で、振り向いたらすぐに壁ってくらいの奥行きしかないけど、それでも馬車の五分の二くらいは販売スペースみたいに見える。仕組みが全く分からなくて目がグルグルしてくるけど、『魔法だから何でも出来るんだ』と無理やり飲み込む事にした。考えても仕方ないもんね!


ワタシ達が広げたお店は露店広場の端のほう。嫌がらせとかではなくて、単純に馬車が大きめだからいつも端っこにいるんだって。馬車の中から売り物の入った箱を出して並べていくのをお手伝い。品物の陳列が終わる頃には通りがかった地元の奥様達がポツポツとお店を覗きにきていた。


「あら、これは何かしら?」

「アトラシア産のパインナポという果物です。良ければ少し食べてみます?」

「あら、良いの?……ん!少し酸味があるけど甘くて美味しいわね」

「そうなんですよ〜、甘酸っぱくて美味しいだけじゃなくて、美容にも良いんですよ?ちなみに、こちらはパインナポから作られた美容液で〜」


ペルテシアさんが奥様達に試食をさせつつ商品を次々と売り込んでいく。試食のおかげか、珍しい果物と美容液のおかげか、女性達がたくさん集まってきて、他の露店に比べても大盛りあがりだ。どこかの凄腕実演販売士みたいだなぁ。


「ここはいいから、気になる店でも見ておいで」


アウグレーティアさんがそう言ってくれたので、ルノと露店を回ってみる。


全体的に木製品が多いみたいで、木彫りの人形や一点ものの家具なんかを出している露店もあった。いくつか店を見て、木を雫型に削り出して艶出しをしたものに細かな装飾が掘られているペンダントトップと、木のマグカップを購入。ペンダントトップの真ん中には石が嵌め込まれていて、それがすごく綺麗だったんだよね。これを作ったのは家具職人の娘さんで、余った木材で何か作れないかと考案したものなんだってさ。他にも、木でできた数珠のようなアクセサリや木と色ガラスを組み合わせたランプシェードなんかも置いてあった。


隣の雑貨露店で売ってた革紐にペンダントトップを付けて首にかける。うん、可愛いじゃん!たまにはこういうのも良いよね〜と思いつつ他の露店を見て回っていた時だった。


「おい、おまえ!!」


後ろから突然声が聞こえた。…誰かがケンカでもしてるのかな?と特に気にしなかったんだけど…


「おい!!!待てって……うぎゃっ?!」


ズダンッッという音がしたので振り返ると、ルノが一人の男の子を押さえつけていた。うぇっ?!何してんの???


「我が主に掴みかかろうとしておりましたので」


あ、うん。それで確保しちゃったんだね。男の子は「離せ!!」とか「ふざけんな!!!」とか言ってるし、周りも何事かと遠巻きながらこっちを注目してるし…


とりあえずルノに男の子を離してもらおうとしたんだけど…


「こらー!!そこで何をしてるんだ!!!!」


槍とか剣とか持った、自警団っぽい人達が人混みを掻き分けてこちらに走ってきた。


何って…何もしてないんだけどなぁ?

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