第20話 お身内、みーつけた!!
「事の始まりは数千年前にさかのぼります」
それは、恐らく世界樹も知らない小さな異変から始まった。
実は、この世界は過去に一度、異世界人がもたらした高度な知識によって滅びかけている。
世界の滅びの際に、神々と世界を護る為に戦ったのが神族の始まり。以降、神族は神々の住む楽園へと続く扉を護り世界が再び滅びの道に進まないよう密かに活動している。その活動のうちの一つが『ユグドラシル商隊』らしい。
彼等は世界樹を通して異世界人の調査と、世界情勢をその目で確認するためにアチコチを巡っている。
その中で、とある異世界人の男性の話を耳にした。
その男は、ウォルム公国という東方にある小さな国の公都に突然現れた。
その手には真っ赤に血濡れたナイフ。もう片手には真っ赤に血濡れた動かない黒髪の少女を抱えて。
誰がどう見ても、その男が少女をナイフで殺したのたと理解した。何故なら、男性の衣服には飛び散ったような血が付着していて、少女を物のように掴んでいたのだから。それと同時に、居合わせた人々はパニックに陥ってしまう。なにせ、賑わっている所に突然人殺しが現れたのだから。
居合わせた冒険者が男を捕まえようとしたが、男はナイフで応戦。そのまま逃げられてしまった。
ユグドラシル商隊の面々は、その男の動向を追った。すると、行く先々で盗賊のような事をしているのがわかった。どうやら剣の才があるらしく、この世界の冒険者達も捕まえるのに苦戦しているようだった。
やがて、男は盗賊団の頭となり道行く人々を、襲うようになった。
しかし、そのような者はこの世界にも少なからずいる。ユグドラシル商隊としては、他にもやらなければならない事を抱えていたし盗賊団なんてそこら中にいるのだ。
その後は、木々の噂で彼の盗賊団が大きな商隊を狙ったとか聞く程度。始めこそ警戒したものの、結局はその程度の異世界人。世界が危機的状況に陥るわけではないからと、後のことはヒト族に任せて特に何もしなかった。
そんな中、盗賊団が目をつけたのが、この世界で最も古く、神の園に至る扉の番人たる神族だった。どうやら襲った商隊の中に神族についての情報を知る者がいたようだ。
『その美しいヒト族こそ我に相応しい』
その異世界人は、あろう事か神族の姫に目をつけた。そして、姫を奪って我が物にしようと神族の地に攻め込んだのだ。
しかし、強大な力を持つ異世界人とは言え大勢の神族には敵わなかった。もちろん神族にも被害は出たが、異世界人を斃し亡骸を深い森の奥へと封印した。普通に埋葬すると、アンデッドという怨念を抱えた魔物に転じちゃうからなんだって。特に犯罪を犯したような遺体は魔物化しやすい傾向にあるらしい。と、ここで少し疑問に思った事を聞いてみた。
「…火葬とかしないの?」
「火葬…とは?」
「いや、にほ…んんっ、ワタシの住んでた場所では、ヒトが亡くなったらお葬式をしてから遺体を燃やして骨だけにして、最後にお祈りをしてお墓にいれるんだけど…」
「我が君、ヒト族では弔いの時に遺体を燃やすのは野蛮な行為とされています」
「あ、うん、それは知ってる。てもさ、遺体が残ってるから怨念とかで魔物化しやすいんじゃないの?」
ゾンビ映画見てて毎回不思議だったんだよね。ゾンビ怖いのになんで遺体残すんだろう?って。そう思っての発言だったんだけど、ルノもアウグレーティアさんもエルヴィーラさんもその発想は無かった!!!って顔をしていた。えぇ…
「ま、まぁ、とりあえず封印?ってのはしてあるんでしょ?」
「あっ、そう、ええ、そうなんです。以降千五百年の間は定期的に封印を確認するだけで何事もなかったのですが…」
どうやら、封印に綻びが生じていたらしい。定期的に見に行っていたとはいえ、それは長命のエルフ族の感覚。どれくらい長いこと放置してたかは分からないそうだ。ダメダメだねぇ?
「封印をし直したら良いんじゃないの??」
「いやそれが…」
封印が綻んでいる事に気がついた時には、すでに神族の地が再び盗賊らしきヒト族に襲われそうになった後だったらしい。
「襲われたのは、国の中でも外れの方にある屋敷でした。そこには一人の神族の少女と世話係のエルフ族が数名いるのみ。神族の国は強固な結界に護られて居るのですが、彼等は何故か国内に侵入していたのです」
「…我が君?」
知らず知らずに指先が震えていた。これが生身の身体だったら、顔色は真っ青になっていたかもしれない。
「その少女は…ユージュリアは、侵入者に気付いて、ありったけの魔力を放出しました」
「…っ!何故それを…?」
「ユージュリアはそのまま倒れ、魂は身体から離れました」
「…あぁ…まさか……」
「たぶん、魂の力も使っていたんだと思います。小さく消えそうになりながら、ユージュリアの魂は魔の森まで辿り着きました。そこで、とある精霊とぶつかってしまったんです」
「…精霊と?」
「その精霊は『フリョウヒン』。つまり、自我を持たずに生まれた精霊のなりそこないでした。しかし、その精霊にはもう一つ魂が宿っていたんです」
「我が君…」
「その魂は異世界の少女の魂。それを持ったフリョウヒンの精霊とユージュリアの魂がぶつかった事で、全てが混ざって融合してしまった。…それが、ワタシ。ユージュリアと柚子の魂を持ったフリョウヒンの精霊なんです」
そこまで一気に言うと、ワタシは人形の身体からニュルンと飛び出した。アウグレーティアさんも
『えーと、これが本当のワタシの姿です』
そう言って、クルクルと回ってみせる。2人とも固まったままだ。
「あぁ、我が君。やはりそのお姿も大変可愛らしいですね!」
『うふふ、やっぱりそう思う?このモチモチボディはやっぱり魅惑的だよねぇ〜』
「はい!それに、この美しい羽根…かつて存在した天翼人の羽根よりも美しいです!!」
『天翼人って…あぁ、背中に羽根の生えた一族で天空の島に住んでたんだっけ?ある日、雷が落ちて全滅したとか』
「えぇ、高所に住まうというだけで神獣すら見下す高慢な奴らでして…羽根の美しさしか自慢できるものしか無い哀れで傲慢な一族だったのですよ。おそらく神の怒りにでも触れたのでしょう」
『そうなんだ。天翼人…絵本の記憶があるなぁ。彼等が食べてたアンブロシアっていう果物は食べてみたかったな』
ポカン顔の2人をよそにルノと話していると、一足先に我に返ったアウグレーティアさんがボソリと呟いた。
「アンブロシアは天の味…」
その言葉に、記憶の一つが反応する。
「甘~い蜜と酸っぱい果肉、食べれば百年生きられる!」
人形の身体に戻って、ポーズを取りながら商品のキャッチコピーみたいなセリフをキメる。すると、アウグレーティアさんの瞳からポロポロと涙が溢れた。
「あぁ…ジュリィ…、そこに居たんだね…」
「うぇっ?!」
アウグレーティアさんはワタシを抱きしめると、そのまま静かに泣き出してしまった。ルノが引き離そうとしたけど、片手で止まるように指示する。そして、そのまま背中をトントンと叩いてアウグレーティアさんが泣き止むのを待つのだった。
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