第21話 神様がいる世界でも神頼みってのは難しい

「あぁ、神様…お導きに感謝します…」


ハラハラと綺麗な涙を零してワタシの手を握るのは、ユグドラシル商隊のアウグレーティアさん。その後ろでは精霊の御宿の女将エルヴィーラさんが目尻をハンカチで拭っている。


その横では、ルノがぐぬぬ…という顔で正座をしていて傍から見ると不思議な光景に見えたと思う。


「えーと、それでアウグレーティアさんはユージュリアの事を知ってるんですか??」


その言葉に、アウグレーティアさんがバッと顔を上げた。その顔は『ガーーーーン』という擬音が付きそうな程だ。


「…私が最後にジュリィと会ったのは貴女がまだほんの小さな赤子だった頃ですから…記憶に無いのも無理はありませんね…」

「へぇ、そうなんですね。ユージュリアとはどういうご関係なんです?」

「私の母とユージュリアの母は姉妹なのですよ」

「ほぁー、イトコって事か」

「えぇ。神族は元々の数が少ないので、どの家も遡ればジュリィはその体質から産まれてすぐにマナ濃度の薄い場所へと移されたのです。神族の住む地はマナ濃度が特に濃く、器以上にマナを蓄えてしまうジュリィの身体では留まるのが難しかったのです」


なるほど、だから国の外れの屋敷で暮らしていたんだな。…それにしても、小さな子供一人だけ屋敷に放置するなんて親は何してたんだろう。育児放棄かな?


「ジュリィの両親は神の国の統治者。故に神ノ門から離れられないのです」

「えっ、まさかのお偉いさんだった」

「いえ、オエライサンという名ではありませんが…?」

「あ、そういう意味じゃなくて。偉い人って事」

「あぁ、ヒト族の言葉スラングですか。…そうですね、我らは『おさ』と呼んでいます」

「なるほどぉ」


兎にも角にも、ユージュリアはお姫様だったワケだ。


「それで、ユージュリアの身体は今どこに?」

「ジュリィの身体…ですか?」


ワタシ達は、世界樹から『ユージュリアの肉体は結晶に包まれて保管されているはずだ』と言われた話をする。それから、ずっと北からワタシを呼ぶ気配がしている事も。


「そうですか…神族の肉体は次の生まで神ノ門のある神殿に保管されます。これは神族の特性なのですが、神族には『転換』という能力が備わっているのです」

「転換?」

「神族の『死』とは、肉体が休眠期に入る事を指します。そして、およそ百年が過ぎると肉体は『胎果』という実になるのです。その後、巫女姫による託宣の後、母となる者に与えられ新たな生命として母体に宿るのです」

「へぇぇぇ〜」


さすが異世界。すんごいファンタジーな話だね!


「ユージュリアは事故による『死』だったのですが、肉体は結晶に護られていたので他の者と同じように保管されているのです」

「ってことは、ワタシが肉体を得られる可能性が…」

「可能性はあると思います」


いよっしゃ!!!!


「すぐ!今すぐいこう!!!」


ルノの腕を掴んでドアに向かう。はやく、はやく身体に


(…あれ?)


逸る気持ちを抑えきれずに部屋から出ようとしたけど、ふとした違和感に足が止まった。今、何て思った??


すると、慌てた様子でアウグレーティアさんが引き止めてきた。


「お待ちください!神族の地は強固な結界によって閉ざされています。たとえ神獣様とて安易に超えられるものではありません!」


その言葉にハッとした。そうだった、確か世界樹からもそう言われてたっけ。だからユグドラシル商隊を探していたワケで…


「ごめんなさい、焦っちゃって。それで、どうしたら神族の地に行けるんですか?」


そうそう。一番大事なこと聞かないとね。


「神族の地へ向かわれるのでしたら、我々と一緒に参りましょう。特殊な結界を抜けるには決められた道順を辿り我々が持っている通行手形が必要なのですよ」


正しい道順と手形。そのどちらが欠けても神族の地の結界は抜けられないんだとか。この結界は神が張ったものなので神獣にも破れないんだって。神様すごい。つか、そんな力あるならもっと早く使っとけばユージュリアはあんな目に遭わなかったんじゃないのかなぁ??


「それがですね…」


一応、ユージュリアが襲われた時も結界はあったんだって。でも、その結界は『神獣や異世界人なら超えられる』って結界だったらしい。それまでは、神族の国に用事があるのは何か重大な使命を持ったヒトだったし、そもそもその存在は完全に隠されてた。


それが、とある神獣のせいで外部に漏れた結果がユージュリア誘拐未遂事件に繋がったんだとか。


これによって、神の園へ至る門を管理するユージュリアのお父さんと神様が相談しあって『特別な手形と特殊な道順をもって通行可能となる結界』を張ることになったらしい。


神獣も通さないのは困らないのかな?って思ったけど、神獣というのは魔物のいるような場所に生えている世界樹を護る存在だから必要ないんだって語るアウグレーティアさんの姿をルノがジトッとした目で見つめていた。


一通り話を聞いて、女将さんとアウグレーティアさんは商隊のメンバーに話を通してくると、部屋から出ていった。


「順調だねぇ〜」


話の内容はともかく、順調に進みそうなことを喜ぶ。


「いやぁ、楽しみだなーっ!!」


そらもう、ニッコニコですわ。ここまでで気になった食べ物を整理しながら、どの順番で回ろうか悩むよねぇ〜!そういえば、この世界って他にどんな国があったっけ。他国の名物料理も調べないとね!


「我が君、宿の者にこの辺りの名物を尋ねてまいりましょうか?」

「おっ!ルノ気が利くね〜」

「魔獣共を狩るだけの獣とは言われたくありませんからね」

「めっちゃ気にしてるぅ」


あれね、さっきのアウグレーティアさんの言葉が突き刺さっちゃったんだね。うん。折角だし、このお宿の人達に色々と聞いてみたら良いんじゃないかな。おもてなしのプロなんだし。


「そうですね!世界樹様からも色々と学びましたが、ここの者達からも学べる事はありそうです!」


ルノはそう言うと、勢いよく部屋を出ていった。一人ポツンと部屋に残されたワタシ。折角だからお風呂にでも入ってこようかな?


部屋に置かれていた館内案内に大浴場があるって書いてあったんだよね。ほんとに日本の温泉旅館みたいだなぁ。もしかして転移者が関わってるのかもね。


アウグレーティアさんの話から過去に何人も転移者が居たみたいだし。クリオネ精霊になったワタシみたいな転生者もいる可能性微レ存?あれ、でもアウグレーティアさんは転移者としか言わなかったな…


「まいっか!」


細かいことは気にしない!気にしたところで何があるわけでもなし。それよりもお風呂の準備準備。この身体はお湯に入ってもお水に入っても大丈夫なのだ。マナから味みたいなものを感じられるならお湯からだって何か感じられる筈。エルフが経営するお宿なだけあって街の中よりもマナが濃い場所なので絶対イケると思うんだよね。


大浴場はお宿の一番上の階にあって、中に入ると天然の岩場みたいな造りになっていた。壁から滝のようにお湯が流れ落ちていて、湯船に注がれている。なるほど、流れ落ちる間に適温になるんだね。


外へ続くドアを開けると、そこは露天風呂になっていた。


「うわぁ…すごぉ…」


周りは青々とした木々で囲まれていて、鳥の声が聞こえてくる。何処かの山の中みたいだけど、どうなってるんだろ?この周辺ってこんな景色じゃなかったよね…。


まいっか!


ワタシは先に身体を洗う派なので、ちゃんと洗ってから浴槽へ。足先からそっと入ると…


「あっ、あったかく感じる!!」


お湯の中に溶けた温かいマナが身体に吸収されてるのを感じる。なんか、お風呂入ってる〜って感じがする!!


そんな感じで『はふ〜』となっている時だった。


浴槽の中央が突然、お湯を噴き上げた!!!


「あぶぼぼぼぼぼ!!!!!」


なっなっ、なにごと〜〜〜〜?!

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