第26話 木工職人の息子、ルッコラ
「はーなーせー!!!」
「我が君に危害を加えようとする輩を離すわけにはいかない」
「うるせー!!!悪いのはソイツなんだ!!!」
「はぁ…?」
さっきから「お前のせいだ!」とか「俺の……だったのに!!」とか、意味がわからない事を叫び続ける男の子。全く見覚えが無いんだけどなぁ…?
そうこうしているうちに誰かが通報したのか、自警団の人達が数人こちらに駆け寄ってきた。
「冒険者が子供を取り押さえていると聞いたのだが…一体何があったんだ?」
リーダーっぽい人が周りで野次馬をしていた人達に話を聞いている間に、他のメンバーがルノと男の子を取り囲んだ。ルノは特に抵抗することもなく男の子を自警団に任せようとしたんだけど、男の子のほうが何故か私の方に掴みかかろうとしてくるので、今度は自警団の人に押さえつけられる形となっていた。
「あー、済まないが話を聞かせてもらえるかな?」
「はい、それは構わないんですけど…」
リーダーっぽい人にそう言われたが、話せるような事は何もないんだよね。改めて男の子をみても全く知らない子だし…。
「…なるほど、ユグドラシル商隊の者だったのか。今朝方に盗賊の引き渡しでこの街に入ったと聞いたが…」
「はい。ワタシとルノはこの街に来るのが初めてなので商隊の皆が露店を見て回らせてくれてるんです」
「あそこの店で買い物をした後、この者が突然掴みかかろうとしてきたのを取り押さえたのだ」
周りに証人もいるのでワタシ達への疑いは晴れた。となると、問題は男の子のほうなんだけど…男の子は相変わらず物凄いこっちを睨みながら暴れていて自警団の人達も困り顔。とりあえず自警団の詰所に連行しようかとした、そんな時だった。
「おんやぁ?コギトんとこの倅じゃねぇか」
そんな声が野次馬の中から聞こえてきた。
「む?…木工職人組合の副組合長じゃないか。おやっさん、この子供を知ってるんですかい?」
リーダーの目線の先にいたのは、白髪まじりのおじぃちゃん。どうやら街の偉い人みたい。
「あ、あぁ…最後に顔を見たのは随分と昔だったがな。名前は…ルッコラといったはずだ」
サラダかな?
ともかく、ここじゃアレだから…という事で場所を移すことになった。もちろん、絡まれたワタシ達もだ。ちなみに、ユグドラシル商隊の皆には自警団の人が連絡を入れてくれるらしいのでお任せしておいた。
「さて、まずはお嬢ちゃんを襲った理由を聞かせてもらおうか」
自警団のリーダーが男の子を尋問している。ワタシ達は姿が見えると男の子が暴れるので、コチラからは見えるけど向こうからは見えない小部屋で待機中だ。
「アイツのせいでオヤジが捕まったんだ!オヤジは何も悪いことはしてないのに!」
はいぃ?
「捕まった??お前の父親は木工職人のコギトじゃないのか」
「は?誰だよそれは。俺のオヤジは『精霊狩り』のサモンズ、あの精霊憑きのせいで捕まったんだ!」
捕まった…って、あの盗賊のこと??
「ってか、『精霊狩り』って何??」
隣に立つルノにそう尋ねると、ルノはとても怖い顔をして男の子を睨んでいた。…怖いよ!!そしてアウグレーティアさんもすごく怖い顔をしている…。
「…精霊狩りは、その名の通り精霊を狩る罪人です。邪神を信仰する者達で、精霊だけでなく、神獣を狩り世界樹を切り倒さんと暗躍する者達。そして、神族の里を襲ったのも精霊狩り。つまり、我らの敵です」
ルノとアウグレーティアさんから殺気が漏れるのを必死に宥めているその間にも尋問は続く。
どうやら、ここに来る前に商隊を襲った盗賊は『闇夜の牙』という名前で、精霊の気配をさせているワタシを狙っていたらしい。彼等は『精霊殺し』と呼ばれる特殊な魔道具を持っていて、それに触れた精霊は跡形もなく消滅してしまう。まぁ、ワタシには効かなかったんだけど。
で、なんで木工職人の息子であるルッコラ君が盗賊をオヤジと呼んでワタシを狙ったかと言うと…彼、洗脳されてました。
彼のお父さんが病気で亡くなって、母親と母親の実家へ向かう途中に盗賊達に襲われて、幼い彼を利用することを思いついた盗賊のカシラが彼を洗脳したみたい。それから、ずっと盗賊団の仲間としてあちこち転々としていたんだって。子供だと周りが油断するから、ルッコラ君を囮にして門を開けさせたり精霊殺しを使わせたり…まぁ、色々とやっていた。
そして、盗賊団がワタシを襲ったあの日も実はルッコラ君も近くに控えていたんだって。しかも、ワタシに精霊殺しを使うために。作戦は、盗賊団が商隊を襲って無力化し、合図を貰ったルッコラ君が離れた場所から精霊殺しを使うという作戦だった。…まぁ、全員返り討ちにしたんだけどね。そして、ルッコラ君だけは襲撃場所から離れていた為に、捕まらなかったらしい。
ルッコラ君は、盗賊団を正義の集団だと思い込んでいてワタシの事を逆恨み。そして、犯行に及んだ…というのが今回の顛末。
ちなみに、何でここまでスルスルと情報を引き出せたのかと言うと、尋問部屋には犯人が色々とお話したくなる特殊な魔道具が使われている。それでも、大人相手だと少しばかり苦労するらしいんだけど、ルッコラ君は子供だから、すぐに効果が現れたみたい。
アウグレーティアさん曰く、精霊殺しは本当に危険な魔道具。そして、その燃料は使用者の生命…
恐らく、ルッコラ君の事は本当に使い棄てるつもりだったのだろうとの事だった。
なんて酷い事を!!ってプリプリしてたんだけど、自警団の団長さん曰く『よくあること』なんだって。生命が簡単に失われるこの世界では、親を失った子供達も少なくない。そんな子供達が全員孤児院に入れるかといえばそうでもなく、浮浪児となった子供達が盗賊に使い捨てのコマとして扱われるのは珍しくないんだとか…
で、で、で、デンジャラスぅぅ〜〜!!!
デッドオアアライブもいいとこだよ。異世界って魔法があるから楽しそうって思ってたけど、そうでもないんだな…。最初に喰われかけたのは精霊のフリョウヒンだったからだけど、ヒトの世界もそれはそれで大変だったっていう…。日本では親ガチャだの子ガチャだのって言葉があったけど、
目覚めて最初はちょっとアレだったけど、その後は順調だったから呑気にしてたワタシ。流石にちょっと心がキュッてなったよね。まぁ、だからといってワタシに何が出来るわけでもないんだけどさ。
ルッコラ君には、そのまま他の盗賊達の顔を確認してもらって他の盗賊達と一緒に軍へ引き渡されるんだってさ。一応、洗脳されていたという事情は考慮されるだろうけど犯罪奴隷として扱われるのは確定。地方の開発事業の労働力として送られるみたい。
取り調べが終わって解放されたのは日の暮れた頃。もうね、襲われた被害者なのに拘束時間長くて精神的に疲れちゃったよ。
「おかえりなさい、大変でしたね」
急遽とった宿へ戻ると、商隊の皆が出迎えてくれた。とりあえず情報共有を…という事で、全員で食堂の隅に集まる。他の宿泊客もいるけれど、一定の範囲外に声が漏れないようにする魔道具があるので内緒の話も出来るんだって。便利だね。
「なるほど、『精霊殺し』ですか…」
「ディル兄様、知ってるの?」
グランディルさんは『精霊殺し』について心当たりがありそう。ペルテシアさんは知らないらしくて不思議そうな顔をしていたけど、護衛組の方もなにやら難しい顔をしてる。
「エルフの年寄りから聞かされる話の中に『精霊殺し』についての伝承があるんだ。その昔、精霊を魔導具の素材にする研究が行われていて、その過程で生まれたものだって」
「うん。『精霊殺し』は精霊そのものを力にして、ヒトの範疇を超えた力を与えるものだったって。でも、随分前に失われたとも言ってたけど…」
「『精霊狩り』の事もあるし、今後のためにも警戒しておいたほうがいいかもしれないわね」
その後、改めて今後の予定を話し合い『急いで神族の里へ向かおう』という意見で一致。翌日の予定をすり合わせてその場は解散となった。
なんか、このまますんなり神族の里へ行けるか不安になってきたなぁ…。
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