第27話 いよいよ目的地!!

翌朝、宿の食堂に集合したワタシ達は軽い朝食の後に街を出た。盗賊団はすでに引き渡し済みだし、彼等の今後は軍とかギルドとかがどうにかする事だからね。ワタシ達は被害者だからある程度の事は教えてもらえるけど、それだけ。


「ところで、神族の里へはあとどれくらいかかるんです?」


街を出発して数刻。ワタシは御者台に座らせてもらい、隣で馬の手綱を握っているデルフィンさんに話しかけた。


デルフィンさんは華奢なヒトの多いエルフ族の中では珍しく筋肉質で大柄なヒトで、パーティーでは敵の攻撃を受け止める盾役として活躍している。ただ、その特殊な肉体のせいでエルフ族が得意とする魔法はほとんど使えなくて、せいぜいコップ一杯の水を出すか薪に火を付けるくらいしか出来ないらしい。たぶん、肉体の維持の方に魔力が使われているんじゃないか?って本人は言ってた。


「そうだねぇ。そろそろ最初の『境界』が見えてくるはずだから、それ程時間は掛からないと思うよ」

「きょーかい?」

「里とヒトの世界を隔てる特殊な結界の事だよ。何層にも分けられていて、時と場合に応じて里にたどり着く距離や時間が変わるんだよ」

「時と場合」

「境界の中は時間と距離が捻れていて、資格がない者は惑わされてそのうち境界の外に出されるか、境界の外環で永遠に彷徨うか…。逆に、里にとって重要な者はすぐさま里の中心部に入れるようになってるんだよ。僕達はいつも1日くらいだけど、今回はどうなるか分からないんだよね」

「えぇ…それってワタシ達は大丈夫なのかなぁ…」

「まぁ僕達と一緒だし、精霊様と神獣様だから、入れない事は無いはずだけどね〜」


若干の不安を覚えつつ馬車は街道を進み、やがて街道から外れて森の中へ。この時点で馬車の外で護衛していた他のメンバーも馬車内へと移動している。ここから先は馬車だけで進むらしい。馬を繋ぎ直して森の中に向かって再び動き出すけど、道がない場所なのに大丈夫なのかな?と思ったら、馬が一歩進むたびに道が出来るんだよね。すごい、不思議!


「この森には神の力が及んでいるから、資格ある者には道が示されるんだよ」


だって。まだ境界の外側ではあるけれど、道が出来るって事は歓迎されていると思って良いってデルフィンさんが笑っていた。


そして、この森に入ってからあることに気が付く。


「…精霊の気配がする」


精霊の気配を強く感じるようになったのだ。


姿は相変わらず見えない…というか、どうやら隠れてるみたい。デルフィンさん曰く『精霊とはそういうもの』らしいんだけど、それでもいつもより多くの気配がコチラを伺っているみたいなんだって。たぶん、ワタシと…ルノのせい?ワタシ自身はよく分からないんだけど、精霊としてもかなりの存在感があるらしくてと思われていそうなんだって。


いやでも、元々はフリョウヒンな精霊なんだけど。そういや、自称・温泉の女神も別れ際になんか言ってたっけ。


『最初は精霊神が来たかと身構えちゃったけど、意外と普通の精霊で良かったわ。楽しかったから、また旅の話を聞かせに来てね』


胸元に手を突っ込んで、革ひもを引っ張り出すと、そこには雫型の真っ青な石が通してある。温泉の女神がくれた水の精霊王に会うための紹介状だ。


ま、今のところ使う予定はないけどね!


落とさないように服の中に仕舞い込んで前を向く。森は相変わらず鬱蒼としていて薄暗く、突然現れる道が右に左にとクネクネしているだけだ。時々獣が横切るけれど、襲われるようなことはなかった。


「二人共、そろそろ休憩するよ〜」


馬車の小窓がパカリと開いて、中からペルテシアさんの声が聞こえた。どうやらこの場所で休憩を取るらしい。馬車が止まると、中にいたメンバーが外へ出てきた。


それぞれが身体を伸ばしたり、机や椅子を取り出して設置している。そんな中、斥候のフィルヒルは武器や防具の確認をして周囲を見渡していた。


「フィルヒルさん、何かあったんですか?」


何かを警戒している様子の彼に声を掛ける。フィルヒルさんはデルフィンさんとは逆に、すごく小柄なヒト。種族はエルフ族ではなくハーフリングと呼ばれる小人族なんだって。なので、髪もエルフなみんなと違って黒髪で身長はワタシと同じくらい。とっても身軽で気配を消すのが得意。力はないけど、暗器と呼ばれる特殊な武器の扱いに長けていて、毒なんかを使って敵を倒すのがフィルヒルさんの戦闘スタイル。


そんな感じで子供のような見た目なんだけど、年はデルフィンさんよりも上で経験も豊富なんだとか。


そんな彼が警戒している。つまり、何か危険なものが潜んでいる…のかと思ってたんだけど。


「ヒッ…い、いや、いつもより精霊が多いからな…一匹位は見えるかと思ったんだが」


クール系イケメン男子なフィルヒルさん、精霊には非モテ。


それもそのはず、フィルヒルさんってば精霊ヲタク過ぎてちょっと引くレベルなんだよね。温泉の女神も『いや、アレはちょっと…』ってなってたもん。見た目はちょっとクールな男子って感じなんだけどなぁ。


ちなみに、ワタシの事は『ガワには興味ない』という感じ。中身…というか、本体は凄く見たいらしいんだけど、最初に力ずくで本体を見ようとしてルノに徹底的にボコられた前科アリ。それ以降はちゃんと控えてくれている…というか、若干トラウマ化してるっぽいんだよね。なのでワタシが話しかけると『ヒィッ』と小さく悲鳴をあげて挙動不審になるんだ。ルノには『気持ちはわかるけどやり過ぎ』と注意しておいたよ。


「フィル兄はここに来るといつもなんですよね」

「そして、毎回嫌われてる」


目をギラギラさせて周囲を見渡すフィルヒルさんの事を笑うのは、双子のアルルとクルル。


兄のアルルは常に眠そうな感じで、妹クルルは元気ハツラツ!って感じ。二人は一卵性らしくふわふわとした金髪の巻き毛に鮮やかな緑の瞳のザ・エルフといった姿をしているんだよね。二人共見た目は大学生っぽいけど年齢はたぶんずっと上。そんな二人が『兄』と呼ぶフィルヒルさんは…うん、考えるのはやめておこう。


その後、今回もやっぱりフラれたらしいフィルヒルさんは、精霊によって頭に樹の実を落とされていて3人でまた大笑いした。まぁ、全部食べられる樹の実だから実はそこまで嫌われてないとは思うけど、それは黙っておこうっと。


馬たちを休ませてから再び出発。今度はアウグレーティアさんも御者台に座っている。


「そろそろ迎えが来るでしょうから」


とニッコリしていたけど、迎えって…?


首を傾げていると、手綱を握っていたデルフィンさんが声を上げた。


「『境界』を越えるぞ!」


空気の壁のようなものに当たる感覚がして、思わず目を閉じる。ピリッとした寒い森の空気から急に南国のような温かい空気に包まれてビックリしつつ目を開く。


すると―


「な、な、な、なんじゃこりゃ〜〜!!!」


目に飛び込んできた光景に思わず叫んだよね。デルフィンさんもアウグレーティアさんも『その反応は予想通り!』みたいに笑っている。いやもう、そりゃ驚くよ。


「何で空に島が浮いてるの…それに、あの樹…大きすぎるでしょ…」


そう。視界の先には雲海に浮かぶ島々と、視界いっぱいに広がる巨木。さっきまで森の中にいた筈なのに、目の前にあるのはとても森の中とは思えない神秘の光景だった。

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