第28話 ファンタジーな里とユージュリアの家族
「うわぁ……」
御者台で目を丸くする以外何も出来ないワタシ。
それもそのはず、今目の前にあるのは空に浮かぶ島々と物凄く大きな樹。時々羽の生えた生物が飛んでいくし、空の色もなんか違う。薄黄色で太陽はないのにすごく明るい。あと、何故か虹がみえる。一言で表すなら…めっちゃファンタジー。あと、所々に大きな門があるのも気になった。何だろう?
「どうやら一番近い場所に出たらしいな」
デルフィンさんはそう言うと、止まっていた馬車を進めた。
馬車を進めると同時に、大きな樹へと続く金色の道が現れる。うへぇ…ファンタジーが過ぎるよぉ…。
「この道の先は神族の里の中心地だ。俺達の本拠地『ユグドラシル神殿』もそこにあるんだ」
「ユグドラシル神殿?」
「あの巨樹…『原初の世界樹』の根元にある神族の聖地にしてユグドラシル教の本拠地だよ」
「ほぇぇ…」
巨樹はほんとに巨樹だった。
いや、何を言ってるか分からないかもしれないけど、私も何を言ってるかわからない。ただ、巨樹の大きさに圧倒され神聖な何かをビシバシと感じるって事だけは確かだ。
そして、ユグドラシル神殿は巨樹に埋まっていた。ほら、大きく育った木に近くの看板が埋まったとか括り付けた紐が一体化したとか…そんな感じ。神殿は古代ギリシャ的なガチ神殿という外観なんだけど、建物の奥の方は樹の幹の中。デルフィンさん曰く、建物自体は特に問題なく使えているんだってさ。不思議だなぁ〜。
「おかえりなさいませ」
神殿前に馬車を停めて中から全員が降りてくると、それに気付いたのか数人のエルフ族が集まってきた。全員が長袖の…貫頭衣?頭からスポッと被るワンピースみたいな服で、腰をロープで縛っている。袖や裾には青色の刺繍がされていて『神様に仕えてます』感がすごい。
「アウグレーティア様、長の旅路より無事戻られましたことお慶び申し上げます」
出迎えてくれたエルフ達はアウグレーティアさんの前で膝をついている。えっ、そんな感じなの?
その様子に驚いていると、クルルがそっと近寄ってきた。
「ユージュちゃんとルノ様の事を知ったら、たぶん担がれるわよ」
「え?担がれるって…」
「輿に乗せられて運ばれるってこと」
「うへぇ…」
「気配遮断しておいて正解だったでしょ?」
「うん…感謝してます」
ここに来る前のこと。馬車内からクルルが顔を出してワタシにペンダントを差し出してきた。
「これは?」
「気配遮断の魔導具。ルノ様にも渡したけど、そのままの気配で向こうに行ったら多分大騒ぎになりそうだから」
「まさか…捕まったりするの?!」
「あはは!ある意味正解!…あのね、ユグドラシル教にとって大精霊や神獣様は『神の使い』として崇める対象になってるの。普通の精霊ならその辺にもいるから問題ないんだけど、ユージュちゃんの気配は大精霊以上だからさ、大騒ぎになりそうなんだよね」
「えぇ…?ルノはまぁ分かるけど、ワタシも?」
「間違いなく大騒ぎだね!…ユージュちゃんは担ぎ上げられるの苦手そうだから、コレで気配遮断しておくと良いよ」
「クルル…ありがとう!!」
一緒にいる期間は短いけど、商隊の中でも年若いクルルとは何だかすごく気が合うんだよね。実際はクルルも何百歳とかなんだけど。そんな彼女から渡されたのがペンダント型の魔導具。これで精霊の気配を消しているというワケなのだ。ちなみに、ルノは完全に気配が消えているので誰の目にも映っていない。ちなみに、ワタシはルノと魂で絆が結ばれているから見えてるよ。
アウグレーティアさんは慣れた様子で神殿の中に入っていく。まずは神殿の礼拝堂で帰還の報告をするんだって。
神殿の中は…何と表現したらいいのやら。
とんでもなく高い天井からは、何故か光が降り注いでいる。神殿の素材は石っぽいんだけも、至る所に凝った装飾が掘られていてなんかスゴイ。中央には奥まで続く真っ青な絨毯があり、その両脇は椅子とかは置かれていなくて、その代わりに細長い絨毯が等間隔で敷かれている。その上で両膝をつき、両手を胸の前で組んで頭を下げている人がいる。たぶん、アレが祈りの作法なんだろうな。細長い絨毯は両膝を付く為の物みたい。
礼拝堂は広く、建物内なのにまぁまぁの距離を歩いてようやく止まった。
そこには黒と金の装飾がされた祭壇のようなものがあり、姿形の違う彫刻像が何体も並んでいる。その中央に一際大きい彫刻像があり、他の像と違っていて両手をこちらへ差し伸べている。目元や身体はローブで隠れていて、唯一出ている口元は柔らかな笑みをたたえている…ような気がした。
決して、某有名寿司チェーン店のあの有名なポーズを思い浮かべてはいけない。神様の像だからね。◯◯三昧とか言ってはバチが当たるかもしれない。
そんな事を考えたら余計にそう見えてしまって、何だか面白くなってきてしまった。
なので、そっと両脇にある他の像を観察することにした。マッチョとかイケメンとか少年少女とか獣人っぽいのやドワーフっぽいの。老人や艶めかしい女性の像もある。これも神様の像なのかな?
そんな風にボンヤリしていたら、アウグレーティアさん達が動き出した。しまった、お祈りし忘れてた。まぁ、後でまた来ようっと。
礼拝堂の端にあった扉を潜り、長い廊下をあちこちと歩いて、応接室のような部屋に通された。これから神殿の偉い人に旅の報告をするんだってさ。
ワタシ達は別行動かな?と思ったんだけど、どうやら一緒に行くみたい。観光は後回しかなぁ?
…なんて、呑気に考えていたのはワタシだけだったみたいです。
「うっうっうっ…ジュリィ……ジュリィィィ〜〜〜〜」
「あぁ、神様……」
「良かった…本当に良かった…」
「これも世界樹のお導き…」
「ジュリィィィ!!会いたかったよぉぉぉぉ」
ワタシは今、知っているけど知らない人達にムギュムギュと抱き締められている。
この人達はユージュリアの身内。一番暑苦しいのが父親で、その隣でひたすら泣いているのが母親。あとは兄達…らしい。
正直なところ、ユージュリアは家族と離れて過ごしていたから家族に関しての思い出というか記憶は少ないんだよね。ユージュリアとしては会いたくて堪らなかった人達なんだけど、自我の主導権というか中心にあるのは柚子の方だから『知識がある』程度でしかない。なので、感動している家族には申し訳ないんだけど『会えて良かったね』という感想しかないのだ。
「あの…そろそろ離してもらえますかね…」
「そんな、ジュリィ!!そんな酷いことを言わないでおくれ!!!」
「そうよジュリィ。ようやく会えたというのにそんな…うぅぅぅ」
「ジュリィ、僕達ようやく会えたんだよ?」
「俺達はずっとジュリィに会えるのを待っていたんだぞ」
「いやでも…」
顔を合わせてからずっとこんな調子なので、話は進まないしワタシもいい加減離して欲しいしで大変困っている。
というか、何でワタシは律儀に人形の中で大人しくされるがままになってんだろ?運良くユグドラシル商隊と出会って目的地には無事に入れたんだし、そもそもこの人形も里の結界を越えるまで必要だっただけで…
『こっちの姿で良いじゃん』
特に人形である必要性も感じなかったので、ムギュムギュされてる中から精霊体でニュルンと飛び出す。一応、精霊石に取り憑いている状態は保持してるけどマナが濃いのか精霊体の方が調子がいい気がするな。この里だったら精霊石に取り憑いたままでも精霊体で移動できそう。
久しぶりの魅惑の大根ボディをぐぃーんと伸ばす。
何だかんだクリオネボディの方が『自分の身体』って感じするよね。はー、のびのび出来て気持ちいいなぁ!
なんて呑気にしているワタシの姿を見て、その場にいる全員が硬直、のち、大絶叫だったのは言うまでもなかった。
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