第9話 冒険者になろう


亀さんとバイバイして、ふたたび空の旅へ。


話している間に随分と進んでいたらしく、直ぐに陸地が見えてきた。船の姿も見えるから、この辺にはワタシをパクリとした大きな魔獣さかなは居ないみたい。船があるって事は安全か、ヒトの手で追い払える程度の魔獣しか出ないって事だもんね。


ルノは人気のない場所に降りると、ヒトの姿に変身した。


「さて、まずはこの街で情報を集めますか」

『そうだね…そういえば冒険者登録とかしないとダメじゃない?迷宮って入場制限なかったっけ』

「そうですね、場所にもよりますが…登録はしておいたほうが良さそうです」


ワタシ達が辿り着いたのは貿易港として賑わっている街。こうした場所には『冒険者ギルド』という国に属さない組織の建物があるんだよね。冒険者として登録しておくと、その個人の能力に沿った仕事を斡旋してもらったり、持ち込み品を買い取ったりしてくれる。魔獣のいる世界だから戦う力も必要だけど、そうじゃない職人なんかも所属していて、ヒト手の足りない場所に派遣されたりするみたい。アチコチと職場を変える親戚のお姉さんが『コレが派遣の仕事なのよ〜』とか言ってたのを思い出した。


「いらっしゃいませ、ご用件は?」

「冒険者登録を」

「かしこまりました。説明は必要ですか?」

「必要ないな」

「では、こちらの用紙に必要事項を記入してアチラの魔導機に通してください。それと、続けて依頼を受けていかれますか?」

「いや、今日はまだこの街に来たばかりだからな。ゆっくり見て回るだけにしておくよ」

「かしこまりました。では、アチラでご記入をお願いします」


冒険者ギルドと言えば、ウェスタンドアで中には酒場とか掲示板とかがあって、お姉さんが受付して〜ってイメージだったけど、ここはなんだか観光案内所みたい。


小さめの店舗の中には掲示物があって、窓口みたいな所に受付のヒトが座っているだけ。受付の横にはコピー機みたいなものが置いてあって、そこに書類を入れるらしい。


郵便局とかにある、書類を書く台でルノがサラサラと紙に文字を書いていく。


あれ、ルノって文字書けるの?


「…ヒトの知識は叩き込まれていますので」

『なるほど、理解しました』


すべて記入してから、魔導機に紙を入れる。ピピーガガーッッという音が聞こえ、パネルがペカッと光った。


【コチラに手のひらを当て、軽く魔力を流して下さい】


ルノが手のひらをペタリと当て、魔力を流す。


【読み込みが完了しました。発券された用紙を受付に提出して手続きを行ってください】


ジジジジーッとレシートみたいな紙がベロンと出てきた。…なんか、コンビニの発券機みたい。


用紙を受付に提出すると、受付のお姉さんの顔が驚き顔のままで停止した。何かあったのかな?


一瞬固まったお姉さんだったが、すぐに笑顔になると、『しばらくお待ち下さい』と言って奥の扉に入っていった。


受付周辺にある掲示物を眺め、周辺地図を確認したりお得なグルメ情報や観光名所のポスターなんかを見て時間を潰す。あれ、ここって冒険者ギルドだよね?


「まぁ、ここは出張所ですからね」

『そうなんだ?』

「ギルド支部や本部になると、建物も大きくなりヒトも増えますよ」

『へぇ〜』


もしかしたら、ファンタジーなギルドが見れたりするのかな?やった、楽しみが増えたね!


「お待たせしました」


受付のお姉さんが戻ってきた。その手にはトレイがあり、1枚のカードと楕円形のプレートが二枚置いてあった。


「こちらが冒険者証明証になります。登録内容の変更や更新手続きの際に使用しますので、大切に保管して下さい。それから、こちらが冒険者章です。2枚ありますが、1枚は手持ちの荷物に。万が一の際、誰の持ち物か判別するためです。各種手続きや口座への出入金、各所への通行手形、それらを含めた身分証となりますので、肌見放さず持っていて下さい。冒険者章には個人の魔力紋が登録されていますから、他者の手に渡っても扱えませんのでご安心下さい」


お姉さんがツラツラと説明していく。こういうのって世界が違っても同じなんだねぇ。


「それと、有料にはなりますがコチラに『位置追跡』と『帰還』の付与が出来ますが、どうなさいますか?一回につき1000ギラで、初回に限り500ギラになっています」


ギラ…ってのはお金の単位。何だかビリビリしそうな名前だね。


「いや、自分で付与するので必要ない」

「かしこまりました。以上になりますが、ご不明な点はありますか?」

「特にないが…そうだ、どこか宿を紹介してもらえるか?」

「宿泊所ですね、コチラに一覧がございます」

「…何処か安くて良い宿はないか?」

「そうですね…お食事を外でされるなら『波の蛙亭』、お食事を宿でされるなら『青の海獣亭』が人気ですね」


…名前が微妙すぎるね?


「なるほど、ありがとう」

「ご利用ありがとうございました」


宿への行き方を聞いてギルドを出る。


街に入ってすぐにギルドがあったから気付かなかったけど、ルノのように耳や尻尾のあるヒトや、すごく背の高いヒトもいてすごく不思議。海外…というより、コスプレの大会にでも来た気分だ。


街並みはテレビで見た地中海風?白い壁とレンガの家がズラリと立ち並んでいて、すごく綺麗。道幅は広めで、石が敷き詰められている。時々荷車がガラガラと音を立てて道の真ん中を通るんだけど、それを引いているのは見たこともない動物。象と豚が混ざったような見た目で、肌の色はグレー。耳は豚っぽいけど豚の耳より大きめ。鼻は象より短いけど豚よりも長く脚は象みたいに太いのに、体の大きさは豚くらい。体だけならカバっぽさもあるけど、よく見ると質感は豚。すごい不思議。


「あれはモヒーンですね」

『モヒーン?…あぁ!アレがモヒーンなんだね』


ユージュリアの知識ジュリペディアによれば、モヒーンは主に南の大陸に生息する四足歩行の動物で、元々は森林地帯に生息していた草食獣。それを家畜化して、荷車を引かせたりしているのだとか。肉は硬くて筋が多く食用には向かないが、その代わり濃厚なミルクが搾れる。南の大陸にはモヒーン牧場があり、特産品にもなっている。


『ミルクかぁ。飲みたいけど、これは味覚をゲットしてからだね』


残念だけど、今は心の中の食べたいものリストに入れておこう。


宿までの道には屋台がズラリと並んでいる。布が大量に積まれていたり、変な置物があったりと眺めるだけでも楽しい場所だ。


『…というか、食べ物の屋台は無いんだね』


そう、ここの通りには食べ物を売っている屋台が見当たらない。どれも、服や雑貨ばかりなのだ。


「どうやら、飲食の屋台は別の場所にあるようですね」


案内所で貰った地図をみると、飲食店は港に近い場所に固まっていた。仕事終わりの漁師さんや船乗りさんを呼び込むためかな?


飲食店があるという事は、ヒトが集まると言うこと。つまり、噂話という名の情報を集めるならココに行くのがセオリーだよね!


飲食店に向かう前に、宿屋で部屋を確保しておく。2人とも別に宿は必要ないんだけど、身体を手に入れたら使うことになるからね。今から予習なのだ。


「いらっしゃい。泊まりかい?」

「うむ。とりあえず一泊で頼む」

「あいよ。3000ギラ先払いね」

「わかった」

「食事はどうする?」

「外で食べるよ。この辺のオススメはあるかい?」

「そうさねぇ〜、漁港の方へ行けば地の魚を使った料理がいろいろ食べられるよ」

「漁港か。わかった、そちらへ行ってみよう」


ルノが何だか手慣れている…!これも仕込まれたからなのかな?世界樹は一体どんだけ知識を叩き込んだんだろ…。


三日三晩で詰め込まれた知識量を想像したら、軽くプルッとしてしまった。部屋の鍵を受け取ってから部屋に向かうのは日本と変わらないんだね。ただ、鍵は外に出る時もそのまま持ち歩くんだって。


「質の悪い宿だと、外出中に部屋を漁られる事もあるそうですよ」


ち、ち、ち、治安んんん〜〜〜!


そういえば、ユージュリアも人攫いに襲われてるんだよね。魔獣が彷徨いてる事といい、日本のような感覚で外を歩くと危ないのかもね。

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