第8話 旅のお供はグルメとスリルとハプニング

『うひょぉぉぉぉぉ!!!!!』


ルノが精霊石ワタシを装備しているからか、ルノから一定の距離を置くと身体が引っ張られる事に気付いたワタシ。


と、なれば…


『パラセーリング、最っっ高ーーーーー!!!!!』


空を駆けるルノ(が耳に着けた精霊石)から身体を出して距離を取ると、思ったとおりに身体がギュィンと引っ張られる。今はそれを利用して擬似パラセーリングを満喫しているのだ。テレビで芸能人がやってるのを見た事があって、楽しそうだなーって思ってたんだよね。ま、足元に広がってるのは海じゃなくて森だけど。


【我が君、間もなく飛竜種ワイバーンの巣に近付きます。ご注意ください】

『りょー!!!』


ウデ(?)をピシッと敬礼の形にして返事をしている間に、前方の木々の間から大きな鳥のようなモノが飛び上がってきた。


『わぁ!ホンモノだ!!』


テンションの上がっているワタシは、ファンタジーの王道なワイバーンの登場で更にテンションを上げた。


『それじゃ、いっただっきまーーーーーす!!』


慣性の法則で、スピードを緩めたルノを追い抜くとワイバーンは間近に迫ってきていた。ルノよりも大きく見えるが怖さは不思議と感じない。それよりも…だ。


『バッカルコーン!!』


一番前を飛んでいたワイバーンに向かって触手を伸ばす。この触手、思った以上に伸ばせるんだよね。だから、ワイバーンだってヨユウで捕まえられるのだ!


『んグッ…ムグ…』


ワイバーンの胸のあたり。魔石がある部分に触手を突き刺してチューチューすれば、丸ごと捕食しなくてもマナは吸える。追う気が失せる程度にマナを吸ってから離せば、ワイバーンはヨロヨロと巣へと帰っていく。手緩いかもしれないけれど、森の生態系にとってワイバーンは大事な上位者。ワイバーンが減ると天敵の居なくなったウルフ・ボア・ベア・スネークといった、元々数の多い魔獣が更に増えてしまう。そうなると森の中だけでは上手く生命が循環しなくなって、同族食いが始まってしまう。そして、それは魔獣達が朽ち果てるまで続き、周囲を囲われている魔の森は、やがて新しい生命の生まれない死の森になってしまうのだ。


ちなみに、ココじゃない魔の森では魔獣が外に溢れて近隣の街や村なんかを蹂躙していく。これを魔獣暴走スタンピードと呼ぶんだって。


そんな事をツラツラ考えながらワイバーンのマナをチューチューし、気がつけば最後の一匹がヘロヘロと巣に帰っていく所だった。


『ふぅ、満足』


最初こそバッカルコーンを出そうとするワタシを止めていたルノだったけど、今ではこうしてワタシを前面に出させてくれる。ワタシがチューチューしている間は他の魔獣を牽制し、うまく誘導してくれるのだ。


神獣であるルノは生態系のトップなので、本来なら魔獣はUターンしていくのだけど、今は力を抑えて気配を薄くして飛んでもらっている。そうして、気配だけは弱そうなルノに釣られた魔獣が、ワタシのご飯となっている。旅にはやっぱグルメがないとね!味覚ないけど!


【我が君、海を渡りますよ】

『おぉー、ひろーーーい!きれーーーーーい!!』


ワイバーンの巣を抜ければ、大陸は終わり。ここから先は海の上になる。


見渡す限り真っ青な海、水平線が何処までも続いていて『地球と一緒だぁ』という謎の感動があった。それに、海無し県民としては海を見ればテンションバクアゲになるのも当然の事。


『うーみーはーひろーいーなー』


ザバババババッ


『おおきーいなー』


バッシャーーン


『さかなーはーデカいーしー』


ブシューーーッ


『島はーカーメーーー』


ザプーーーンッ


海上に出てしばらくすると、時々海の中に大きな魚の姿が見えるようになった。どれもこれも大型船くらい大きくてさすが異世界だと思ったんだけど、どうやらこの海域が特殊みたい。


パラセーリング楽しんでたら、突然デカい魚にパクリとされた時は『オワタ』って思ったよね。そのまま体内の魔石チューチューしたけども。新鮮なお魚、ご馳走様でーす!


味はしないけどね!…ぴぇんぴぇん。


【ワシの背にィ、客が来るとはなぁ〜、長生きはするモンじゃぁ〜】


ノンビリとした口調で喋ってるのは、小さな島…くらい大きな亀。魚にパクリとされたワタシがルノの背中でぴぇんぴぇんしてた時に見つけたんだ。この亀さんも神獣なんだって。オオカミだけじゃないんだねぇ。


『これから南の大陸にあるダンジョンに行くんだぁ〜』

【ほぉ〜、そりゃぁ、ええのぉ〜】

『自分の身体に出来る人形が欲しいんだぁ』

【ほぉ〜、なんでぇ、身体なんぞぉ、欲しがるんかのぅ〜】

『…美味しいもの食べたいんだよね』

【ほぉ〜、ヒトのようなァ、事をぉ、言うのぉ〜】

『ヒトの魂が混ざってるからかな?』

【なぁんとぉ、そりゃぁ、珍しい事もぉ、あったもんじゃのぉ】

『元々フリョウヒンだったんだけどね〜』

【はぁ〜、なるほどのぉ〜、ワシはぁ、長く〜、生きているがぁ、魂が混ざるぅなんぞ、聞いたことはぁ、ないのぉ】

『へぇ、そうなんだ〜』


亀さんは神獣の中でもかなりの長生きで、この辺りには海中に世界樹があるんだって!海の中でも樹って育つんだ…?


【世界樹ぅ〜はぁ、植物ではぁ、ない〜】

『あ、そうなんだ』

【アレはぁ〜、世界のぉ血脈じゃから〜】

『へぇ〜』


世界樹って、世界に一つしかない完璧パーフェクト健康薬みたいなイメージしかなかったけど、話を聞く限りでは割とアチコチに生えてそうなんだよね。ケツミャクがよく分からないけど、世界を覆うように根っこが繋がってるって言ってたし、まぁ、そんな意味なんだろう。


お話している間に亀さんが南に進んでくれて、ワタシ達はノンビリと楽しい時間を過ごすことが出来た。亀さんも久し振りに会話が出来て楽しかったと、海に漂っていたモノを詰め込んだ鞄をくれた。鞄は『魔法鞄マナバッグ』という名前で、なんとファンタジーではお馴染みの『空間魔法』と『時間魔法』が付与された魔法の鞄だった!見た目は使い込まれた普通の鞄なんだけど、内側に希少なドラゴン革が使われていて中の容量はお城一つは余裕で入るくらい。それから時間魔法も使われていて、中に入れたものは入れた時のままで保持されるらしい。


『ほんとに貰って良いの?大切なものなんじゃない?』

【いんやぁ〜、ぜーんぶ、ワシには不要なぁモノじゃ〜。何せぇ、はぁ、たぁんと、流れてくるでなぁ。ヒトにはぁ、価値ぃの、あるモンらしいがのぉ】

『それじゃ、遠慮なくもらっていくね!』

【うんむ、またぁ、集めておくでぇ、遊びに来てぇ、くれると〜、嬉しいのぅ】

『ふふっ、集まってなくても遊びに行くよ!』


鞄はありがたく貰っていく。亀さん的にはゴミがちょっと減ったくらいの感じらしいけど…中身が気になるな。


『これ、中身は取り出して確認しないとダメなんかな』

【いえ、鞄に触れれば中身が分かるようになっているはずですよ】

『ほへぇ、そうなんだ?』

【我が君では触れられないので、一旦私が預かる形で宜しいですか?】

『うん、そうしてくれる?陸地に着いたら中身確認してみようよ。何が入ってるか気になるし!』

【そうですね。この進路ですと、おそらく大陸北の貿易港が近いはずですので、まずはそこを目指しましょうか】

『うん』


亀さんの背でこのあとの行動予定を話し合う。ダンジョンは逃げないし、別に急がなきゃいけない理由もないんだよね。何せ、人形の身体で食事が出来るかも不明だし。


そんな理由で、一気にダンジョンを目指すのはやめて、アチコチ見ながらキューゲッチュに向かおうという事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る