第7話 つまり、最終目的地が決まったってこと
『おそらく、ジュリィの身体は神族の地で眠っているのだと思います』
それって、死んでるって事じゃなくて??
『…あの日、ユージュリアは私の足元で読書をしていました。神族の地には何本か世界樹があり、そのうちの一本がユージュリアが住む屋敷にありました。彼女はそこで静養しながら過ごしていたのです』
ユージュリアの住む屋敷は神族の地の端にあり、森に近い事でマナが濃く静養に向いている場所だった。しかし、神族の子を攫いに来た冒険者によって魔獣が放たれ、読書をする為に外に居たユージュリアが襲われることになった。
ユージュリアは、神族の中でも特に優秀だった。溢れるマナに身体が耐えられずに弱ってしまうほどに。
人攫いにとっての誤算は、ユージュリアの身体の弱さとその力の大きさ。それから魔獣達が思うような動きをしなかった事だろう。
当時、ユージュリアの周りには使用人が控えていた。とは言っても、彼等は神族ではなく単なるお世話係のヒト族だ。平和そのものの神族の里において、ユージュリアよりも弱いのは間違いなく彼等だろう。
なので、ユージュリアは彼らも護るために力を使った。
放たれた魔法は魔獣を灼き、人攫いを灼いた。
そして、護るために力を使ったユージュリアの身体は加減を知らずにマナを放出し続けてしまった。
体内のマナが一気に枯渇すると、神族は長い眠りにつく。ユージュリアもまた、すべてのマナが尽きる寸前に眠りにつき、他の神族の手によって保存魔法がかけられて神族の聖地に保管された。
おそらく、眠りについた時に何らかの原因で魂が分離し柚子と精霊に融合したのだろう…というのが、樹の見解らしい。
情報通な世界樹の話が曖昧なのは、世界樹のある場所に運ばれてきた時点で、ユージュリアは他の神族の遺体のように
日本人だった柚子の感覚では、冷たいな!って言いたくなるけど、精霊になると『生命の営み』という大きな枠で物事を捉えるから、生死に対して結構ドライになるんだよね。
『それじゃ、ユージュリアの身体はまだ生きているって事??』
『そうなりますね。
『んー、つまり…ピューンと神族の聖地に行ってユージュリアの身体に入れれば人形は必要ない感じ?』
『最終的にはそうなりますが、北の地を目指すなら
『ぴぇん』
簡単に肉体を手に入れられると思ったけど、消滅するのも汚染されるのも勘弁だよ!!この魅惑溢れるツルモチボディを守るためにも、結局はまず南を目指す事になるのかぁ。
『…あれ、って事は南に行くまでもかなり危険なんじゃ』
人形を手に入れるまではこのままの状態だもんね?あれ、詰んでない??
「我が君」
ここまで静かにしていたルノが、不意に声を上げた。
「こちらをお使い下さい」
そう言って差し出したのは、何やら不思議な輝きを持つ石で出来たイヤーカフスだった。吸い込まれそうなほど綺麗な石だけど、これは?
「こちらは精霊石の装飾具です。純粋無垢な石なので我が君が宿るには宜しいかと」
精霊石…精霊が宿る石で、魔獣の体にある魔石とは同じようで違うもの。精霊が生まれるほど濃いマナの漂う地で稀に見つかるマナの結晶と云われているが、精霊のなれの果て。
ルノが持っていたのはそんな精霊石の中でも純度が高く、精霊達の頂点…精霊王クラスが結晶化したもののようだった。
『精霊石に宿れば汚染や消滅は避けられるでしょう。世界樹の実を食した貴女ならば問題なく宿れる石ですよ』
『棺みたいなものか』
「その言い方はどうかと…」
とにかく、この石は私にとっての殻であり身体であり鎧。精霊石にもランクがあって、高位精霊が宿る石ほど純度の高いものとなってくる。そうじゃないと、容量オーバーで砕けるか容量不足で石に吸収されてしまう。宿れれば、精霊側はヒトに消費されることなくヒトの世界で力を行使出来るし外部からの汚染もない。良い事づくしなシロモノ。
精霊が宿らない石でもマナの保管庫としてかなり優秀で、ほんの小さな粒でさえ庶民には手が出せない。更に、精霊が宿れば取引価格は倍以上に跳ね上がる…とユージュリアの記憶にある。だからすごく希少なんだけど、ワタシもルノも精霊の生まれる森に住んでいるからね。ヒトの入れない場所だから割とその辺に落ちてたりする。それでも、精霊王クラスの石なんて滅多に見かけないけれどね。
ソレじゃ早速…と、風呂に入るイメージをしながら石に触れれば身体がシュルンと石に吸い込まれる感覚がした。何故風呂かと言うと、箱とか棺に入るイメージよりもお風呂の方がイメージし易かったから。
『うん、イイ感じ』
石の中はほんのり暖かくて本当にお風呂に入っているみたいに心地が良かった。ワタシの核となる部分を石の中に残しておけば、外にニュルンと出ておける。石からあまり離れられないという制約はあるけれど、これで南に向かう準備は完了したと言える。
「では、改めて旅程を確認しましょうか」
まず、この森はレームリア大陸の南端に位置する広大な『魔の森』と呼ばれる場所。ここは国に属さないのだけど、森の外周に険しい山々があり海に面した場所は高い崖。そして、精霊の集まり森は中央部に位置していて周りを強力な魔獣が彷徨いている。つまり、ヒトが入れない森なのだ。
そんな森から海を渡って南にあるアトレント大陸に向かう。
海を渡るのはどうするのか?と思ったけど、ルノが獣型に戻って空を駆ければ半日出辿り着けるらしい。え、うちのペット優秀じゃない?
「一応、世界樹の守護神獣ですので…」
目的の一つである自動人形はアトレント大陸の東端にある『キューゲッチュ』という街にあるらしい。ここは
そのダンジョンで高性能の自動人形を入手して、自動人形を自分の身体のように扱えれば次は『ユグドラシル商隊』を探す事になる。
『ユグドラシル商隊』とは神族の地に立ち入る事が許された商人集団で、世界樹のある街を巡って旅をしつつ様々な商品を仕入れては神族の地へと向かう。彼等は神出鬼没で、世界樹であっても彼等を補足することは難しいらしい。
『そもそも、ヒトを探すというのは砂の大地の中から砂粒を探すようなもの。余程のことが無い限りは無理』
だってさ。ただ、彼等は世界樹にお参りするのが習慣らしいから、『どの街にいたか』は教えてもらえそう。
「それでは向かいましょうか」
ルノはそう言うと、ポフムと元の大きな白いオオカミ姿になって空に浮かび上がると、一気に駆け出した。風のように空を駆けるルノの耳にはイヤーカフスに付けられた
そういえば、ルノって女性だったんだねー?と聞いたら、【どちらでもありませんので、時と場合によって使い分ける予定です】と言われた。女性体だったのは、ワタシがヒト型になったルノの姿を見て怖がらないようにとの配慮だったらしい。【異形の輩】とか言ってたのにねぇ。
【うっ…それについては…誠に申し訳なく…】
そんな風にルノを誂いながら眼下を覗けば、どこまでも続く森が見えた。そういえば、こんなに高い場所を飛ぶ事なんてなかったもんねぇ。何だか新鮮!
後ろを振り返れば、森の向こうに高い山々が見える。岩肌が陽の光に照らされてキラキラしててすごく綺麗。日本じゃこんな光景見れないからね、本当に異世界なんだなーって、改めて実感した。
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