第6話 拾い食いは大変危険ですね
『ん?何だろう。何処かに呼ばれてる気がするな』
希少中の希少ともいえる、世界樹の実を食べたワタシ。今のところ何の変化も無さそうだったんだけど、気が付くと何やら呼ばれているような感覚に陥った。
『ユージュ…貴女が口にしたのは、神をも蘇らせる奇跡の実。精霊である貴女が口にするのは物凄く危険なのだけど…何とも無さそうですね?』
『えっ、精霊が食べたらどうなるの??』
『爆発四散』
『えっっ?!』
『実に内包された神気に器が耐えきれなくなって崩壊してしまうのです』
『怖…っ!!!』
そんな怖い実だったとは…道に落ちているものを食べるような事はしないけど、これからは生っている果実なんかにも気を付けないといけないね。てへっ、失敗シッパイ。
ザワリ……
『んっ?』
何処からか呼ばれた気がして、ツーッと高く浮いてみる。方角的には…北かな??
【我が君、どうなされた?】
ルノが隣に来て同じく北の方をみる。
『うん、ちょっと…って、ルノ飛べるの?!ルノだけに?!』
【はぁ…。意味はわかりませんが、神獣ですのでこれくらいは】
フフンという擬音が聞こえそうなドヤ顔で浮いている。そんなん知らんし…
『まぁいいや、何かあっちの方から感じるんだよね。呼ばれてるっていうか何と言うか』
【ふむ。距離はわかりますか?】
『ん~~、すごい遠くって感じ』
【と、すれば…森の外からになりますね】
樹の近くまで降りて、気になった方向について考える。
『そうですね…生まれてから日の浅い精霊が森の外に出るのは危険ですが、世界樹の実を取り込めた貴女なら大丈夫でしょう』
やったね!あ、でも…
『ご飯どうしよう…』
精霊はマナを吸収するけれど、フリョウヒンを摂取しようとするのは生まれたばかりの未熟な精霊だけ。身体が安定すればあとは好みのマナがある場所にいれば、生きていける。精霊にとってはマナは存在を構成するものであり、空気のようなもの。だから、ワタシのように食事としてマナが必須だと考えるような精霊はいないし、だからこそワタシはフリョウヒンなのかもしれないな。
『精霊の集まる地なれば、マナも豊富でしょう。ヒトの住む地にもマナはありますよ』
『ふむ、それもそうかぁ』
別に森の中にしかマナが無いわけじゃないもんね。それにしても…
『味覚が無いのは辛いなぁ』
せっかく異世界にいるのに、マナしか食べられないとか悲しすぎる。魔物肉とか憧れるよね。あ、あと甘いものも食べたい!!あぁっ、想像したらすんごく食べたくなっちゃった…
『精霊つらぁ…』
つらい現実に身体もぐんにゃりとしてしまう。
『味覚…食物の味が分かるようになりたいのですか?』
『うん…』
『ふむ…ならば、まずは南に向かうと良いかもしれません』
『南??』
【我が君が気になされていたのと反対の方向ですな】
『南には自動人形が多く出現する迷宮があるのです。その自動人形の制御を貴女が奪えるなら肉体を得られるかもしれません』
『ほぅ?つまり、自動人形とやらに憑依すると』
『そういう事になりますね。それに、迷宮のある場所の近くには自動人形を研究する者もいるようですよ』
『ほぉぉぉ?それは…良いかもしれない』
人間に近いものがあれば、もしかしてヒトの街にもいけるかも!
自動人形がどんなものかは分からないけど、何だか楽しみになってきた。とりあえず、今後の目標は『自動人形を手に入れて味覚ゲット』だね。
『さて、それじゃ南を目指しますかぁ』
善は急げ、思い立ったら吉日ってね!
これ、おばあちゃんの口癖だったな。…皆は元気かな。ワタシが死んで悲しんだかな。ごめんね、先に死んで。ごめんね、異世界転生して。お母さん、異世界転生モノの小説めっちゃ読んでたし『はーーーー疲れた。寝て起きたらチート系美少女になってないかな』とか言ってたな…。お父さんはMMORPG大好きで『いつかこの世界に転生してエオ充したいぜ…』とか言ってたっけ。猫耳で胸の大きな女の子キャラ使ってたけど、転生したら女の子になりたいのかな?
何となく家族の事を思い出してしんみりしてしまったけど『はぁ?!何それ羨ましすぎるんだけどぉ?!』と目をギラギラさせて叫ぶ家族の姿が思い浮かんで、スンッ…ってなった。
『んじゃ、しゅっぱーつ!』
【お待ち下さい!】
『ブベラッ』
早速南へ向かおうとしたのに、ルノがワタシの足?を咥えたせいでビタンとなってしまっま。ルノ…ユルスマジ。
【我が君、南へ征くならば私をお連れ下さい】
『えぇ〜、まだミジュクモノなんでしょ?』
【いやその】
『あと、その姿は目立つ』
【あっ】
森の外でこんなオオカミが歩いていたら確実に通報されちゃうよ。いや、この場合は討伐かな?どちらにせよ連れて歩くには大きすぎる。
『ユージュ、他に立つのは待ってもらえますか?』
『えぇ~~』
『そうですね…3日目の晩。それまでに仕上げておきますから』
仕上げて…???
『よく分からないけど…まぁ、それまでにマナ食べまくっておく事にするよ』
『えぇ。楽しみに待っていてください』
* * * * * * *
約束の日。
『………誰?』
3日間しっかりマナや魔獣を喰らったワタシは、樹の所へ向かった。
そこに居たのは、真っ黒な髪に金色の瞳をした一人の女性。年齢は二十代くらいかな?特徴的なのは頭の上にある大きな耳とフサフサの尻尾だ。ワタシに向かって跪いているけど…いや、ホントに誰やねん。
「我が君。ルノにございます」
『えっ、マジで』
ビックリして四方八方からまじまじと観察する。
わぁ、お肌っゃっゃ
顔も整っていて、美女!って感じ。頭の上に耳があるから顔の横に耳が無いのがすごく不思議。獣人って毛深そうだと思ったけど、耳と尻尾意外は普通のヒトっぽい。腕とか露出している部分を見ると、少し筋肉質かな?って思うけどボディビルダーのようなムキムキじゃなくて、トップアスリートみたい。
『あれ?ルノって白くなかったっけ』
髪や尻尾をモフモフしていて気が付いた。三日前に会った時は真っ白だったよね??
「白は目立ちすぎるので染めました。世界樹様より、ヒトの中で暮らす心構えや知識などを叩き込まれ…いえ、伝授していただきましたので我が君の旅のお役に立てるかと」
『三日三晩、寝ずに仕込みましたから安心して下さい』
『ひぇぇ…スパルタぁ…』
でも、世界樹がヒトの常識に詳しいとかあり得る??なんか、山奥で普通のヒトとは一線を画した感じのヒト達にズンドコ囲んで祀られてるイメージしか無いんだけど。
『私の枝葉はヒトの住む街にもあるのですよ。世界樹というのは、この世界の深い場所で世界を覆うように根を張っていて、そこから地上に枝を伸ばしているのです』
『へぇ?!それじゃ、あの実ってどこでも食べられちゃう可能性…』
『アレはこの場所のように精霊が生まれるほどマナに満ちた場所で数百〜数千年の歳月をかけて付けるので簡単には見つけられません。…世界樹の根元には薬草類が生えやすいのでヒトの話が聞こえやすいのですよ』
『へぇ…。あ、そういえば『世界樹とは世界を包み生命の泉と死したるマナとヒトの世を隔てている』って本に書いてあったっけ』
『おや、それは『聖エルヴィンの書』の一節…。なるほど、神族の子の魂が溶けていたのでしたね』
『うん。本が好きで、よく大きな樹の根元で読んでいたみたいだよ』
『ふむ…神族の住む地にも世界樹はありますが…もしかして…』
ユージュリアの話をすると、世界樹がうーんと考え込む。考え込むように感じただけで見た目は普通の樹なんだけどね。
黙ってしまった世界樹をよそに、ルノと旅路について話す。
しばらくして―
『ありました。ユージュに溶けた子についての記憶が』
『えっほんと?』
『確かに、北の地で家族から『ジュリィ』と呼ばれた娘がいました。よく樹の根元に本を積んで読んでいたようです』
『…うん、確かにジュリィって呼ばれてたね』
『…もしかしたら北の地からの呼び声はジュリィかもしれません』
…はい???
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