第12話 人形迷宮の街、キューゲッチュ

『うわぁ………うわぁ…!!』


ワタシは今、モーレツにカンドーしているっ!!


『すごいすごい!ヒトがいっぱい!!!』


ルノの肩でコーフン中のワタシです。


流石、人形迷宮の街キューゲッチュ。あちこちに迷宮産の人形が置いてあり、見ていて飽きない。◯◯ちゃん人形みたいな人形ではなくて、お高いお人形が店頭に並んでいるかと思えば、細長い麺を小麦粉の塊から削りだす謎人形…というかロボットみたいなのもいる。お茶碗を運ぶ人形とか、ずっとグルグル回ってる人形なんかもあるね。…え、これ全部ダンジョン産???


「どうやら、人形を作る職人がいるようですよ」


なんでも、人形迷宮では完全な状態の人形が出るのは深層で、それ以外だとパーツだけが出るらしい。それらをつなぎ合わせて動くようにしているのが、この街の人形職人なんだってさ。


パーツを集めて自分で好きなようにカスタマイズするのもアリだよね。


ドール愛好家ってさ、既存の人形を愛でるヒトだけじゃなくて、パーツをカスタマイズして自分の好みの人形を作るヒトもいるんだよね。親戚のにーちゃんに、人形が好き過ぎて等身大の人形と暮らすために家まで建てた猛者がいるんだ。オバチャンは「もう孫の顔は見れない…」ってトオイメをしていたけど、ビックリなのが家を建てた翌年には同じ趣味を持つ美人な奥さん(本物)もゲットしてた。今では孫もいるんだよ。奥さんの方は衣装作りが得意で、人形と娘ちゃんにお揃いの服とか着せてたりする。ワタシにクリオネの縫いぐるみとか、クリオネ柄のワンピースとか作ってくれた事もあるよ。変わってるって周りには言われてるけど、本人達はすごく幸せそうだったな。


「なるほど…腕の良い職人なら、そういった事も可能かもしれませんね」


まぁ、とにかくまずは一番奥の宝箱から出る『自動人形オートマタ』を狙いましょう!






『どうしてこうなった』


ワタシ達は今、冒険者ギルドの豪華な応接室にいる。


何でそんな場所に?ってなるけど、原因はルノのステータス。ルノはヒト型をしているけれど元は世界樹を護る神獣。それは称号にもバッチリ記載されていて、冒険者ギルドで登録した時に隠さずそのまま出しちゃったんだって。ルノとしては「隠す必要がどこに?」って感じだったらしいけど、ヒト型の神獣が冒険者登録しに来ただなんて騒ぎにならないわけがないよね。


アトネートで登録した時に騒がれなかったのは、あそこが観光案内所みたいな場所だったから。窓口にいた受付嬢くらいしか職員がいなかったから、騒ぎようがなかったんだね。


ただ、冒険者登録情報はしっかり伝達されるから支部長が『訪ねてきたらここへ通すように』って通達していたみたい。アトネートで預かった封筒は、通達のあったヒト型神獣が窓口に来たという証明。迷宮探索に融通がきくとしか言われなかったワタシ達が出した封筒の中身を確認した職員が、慌ててワタシ達を応接室に通したのが今ってワケ。


ちょっと騙された感があって、ワタシの機嫌はそこそこ悪い。


ルノも少しピリピリとしている。「我が君を不快にさせる輩に配慮など必要ありませんね」だって。とりあえず、すぐに手を出すことはやめてねってお願いしといた。


応接室に通されてしばらくすると、扉の外にヒトの気配を感じた。そして扉が開かれた瞬間、何かの圧を感じて―


『愚かなヒト風情が、我を試すか!!!!』


男性とも女性とも判別出来ない不思議な声色で、ルノが大声を出して威圧した。


ルノから放たれた金色のマナで部屋が満たされ、扉を開けた男性はその場で蹲っている。普段は抑えているけれど、本来のルノは神々しい金色のマナを周囲に放つ神獣だ。それはヒト型になっても同じなんだけど、ヒトに紛れるために力を封じているだけ。力を解放したルノはその場にいるだけで周囲の生物を威圧し、屈服させる。それほどまでにルノのマナは強いのだ。そして、今はその力を男性に向かって使っている。これを『威圧』って言うんだって。


『ルノ、その辺でやめてあげて』


アブ汗を垂らす男性は歯を食いしばって耐えているけど、そろそろ解放してあげないと話が進まないもんね。


「…っは!ハァ…ハァ……」


ルノが威圧するのをやめると、男性はヨロヨロと立ち上がった。そして―


「大変っ…申し訳ございません…でした…っっ」


おぉぉぉ、土下座だー!!!!!


すごい、人生で初めてガチな土下座しているヒトを見たよ!!すごいすごい!情けない大人の姿って感じだね!!


「…面を上げて用件を話すが良い」

「はっ…御慈悲に感謝致しますっっ」


男性の名はグラド。キューゲッチュを中心とした冒険者ギルドの長なんだって。扉を開けた時に感じた圧は、ギルド長がルノを試そうとした威圧で、それに怒ったルノが本気の威圧で応戦したって事らしい。冒険者の中にはイキって大きく見せようとする者もいるんだってさ。まぁ、神獣レベルのイキりは流石に無さそうだけど。


「いやはや…こう見えて冒険者としては強い方でありましたが、やはり神獣殿程の方からすれば赤子のようなものですな」


グラドの用件は、本当に神獣なのかどうかの確認と精霊石狙いの強盗の話。それから、キューゲッチュに来た理由が聞きたかったみたい。


実は、神獣の中にはルノのように冒険者として登録してるのもいるんだって。まぁ、滅多に出てこないらしいけど。


「今は北の方にいらっしゃるようですが、細かい足取りまでは不明ですね」


それから、精霊石狙いの話。これは各地で問題になっていて、ギルドも警戒しているんだって。ただ、いまいち指示を出したモノの姿が掴めなくって手をこまねいている状態みたい。何だか不気味だねぇ。


そして、ここからがワタシ達にとっての本題。


「…精霊を宿らせる人形ですか」

「そうだ。世界樹様によれば、迷宮の最奥には自動人形があると」

「…そうですね。そういった記録はギルドにもあります…が、最奥まで行けた冒険者はほんの僅か。しかも、最後の記録も相当古いものでしてお求めの人形があるかどうかは不明なのですよ」

「ふむ…」


うーん、やっぱり情報は少ないみたい。見た目の情報もあやふやで、いまいち分からなかった。なので―


「人形のパーツを繋げて組み上げられる腕の良い職人は居ないか?出来れば口が固く、精霊を宿らせる人形を作れる腕の者が良いのだが」

「ふむ、職人ですか…」


グラドがウーンと考え込む。最奥の人形が希望に沿わなかった場合、パーツを集めて自分好みにカスタマイズしてしまおうって考えたんだよね。その為には、それを叶えてくれる職人が必要になる。


「一人だけ心当たりがあります。ただ…」


グラドの話によれば、その人物は街のはずれに一人で住んでいるらしい。大変な偏屈じいさんで、腕は良いのにその性格のせいで客がつかず小さな工房で細々と暮らしているようだ。若い頃は人形研究家として迷宮にも潜っていた人物なんだとか。


とにかく、一度連絡は取ってみるが期待はしないで欲しいってのと、他にも該当しそうな人形職人が居ないか調べてみるという話で落ち着いた。


あと、忘れちゃいけないのが迷宮への入場について。キューゲッチュの迷宮は人形狙いではなくても旨味のある迷宮で、入場する冒険者が多い。ヒトが多ければトラブルも多くなるので冒険者の能力に応じて立ち入れる区画を決めてあるのだとか。とは言え、決まりを無視してその先に進む奴も居るのだけど、その場合は『ギルドの管理下にある迷宮への立ち入りを禁止』『指定区画外での救援活動は有償』『指定区画外で命を落とした場合、その資産はすべて冒険者ギルドが所有権を持つ』あとは、困っていても助けてもらえなかったり安全区画の利用が出来なかったりと、そこそこ厳しいモノ。


ちなみに、ワタシ達は最奥までの入場許可を貰いました。「神獣殿に許可を出すのもおかしな話ですが」って前置きされたけど、ヒト型で冒険者してる今は、そういった体裁も必要だからね!


こうして、ワタシ達はいよいよキューゲッチュの迷宮へ入ることとなった。

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