第11話 さっさとダンジョンに向かいましょ

ワタシ達がボソボソと話している間に、奴らは間近まで迫っていた。


近くで魔法を使われると精霊は体内に蓄えたマナを引き出されてしまうけど、今のワタシは精霊石の中。殻に閉じこもっているので、近くで魔法を使われてもマナを持っていかれる事はない。


精霊のいない精霊石は電池みたいなものだけど、精霊付きの石は精霊に頼まないと力を分けてもらえないんだって。だから、ワタシが力を貸さなければマナは誰にも持っていかれないらしい。更に言えば、力ある精霊は魔法使いに自分のマナを勝手に引き出されるようなことも無いらしい。…知らんかった。


『まぁ、とりあえずマナを半分くらい吸えばいいかな?臭そうで嫌だけども』

「そうですが…気をつけて下さい。何かしらの魔法アイテムを持っているかもしれませんので」

『はぁい』


ワタシはルノから離れると、まずは近くにいたフードの男の真後ろへ。コチラに気付いた様子はないから者では無さそう。身体から黒いモヤモヤが出ていて、マナを吸うのに躊躇してしまう。が、意を決して触手を伸ばした。


『バッカルコーン』


ヒトに魔石は無いので、触手が触れた部分からマナを吸ってみる。


『オェェ…なんか気持ち悪ぅ…』


何となく不愉快なモノを感じたので、体内に取り込まず一つに固める事にした。イメージするのはビー玉。悪意の染みたマナに宝石のイメージは不似合いだし、かと言って他にイメージしにくくて。


カランッ

「ーッ?!」


マナのビー玉が地面に落ちると同時に、フードの男が倒れた。意識はあるみたいだけど、体内のマナが枯渇して動けなくなったらしい。


その間に、ルノの方は何人かのフードの男を地面に転がしている。ヒト型で危なげなく男達を転がしているけど、オオカミ姿のほうが戦いやすいんじゃないのかなぁ?


『おっと、あぶない』


後ろからマナの集まる気配がしたので振り向くと、フードの女性が杖を掲げて何やら呟いていた。なので、まずは杖の先に集まったマナを吸ってから女性のマナも吸う。


杖のマナが消失した瞬間、目を見開いて驚きの顔をした女性だったけど、ワタシがバッカルコーンを伸ばすとすぐに意識を失ってしまった。


店のおじさんが「気をつけろ」と忠告してくれたお陰か、悪意を持った者達は誰一人欠けることなく地面に転がすことができた。ルノが一人ずつ縛ってから、全員を一度に担ぎ上げる。体格が良いとは言え、女性が十数人もの人間を担いでいる姿はなかなか圧巻だ。


路地裏から出てきたルノを、周囲の人達が驚いた顔で見つめている。そのまま冒険者ギルドへ向かい、出てきた職員に事情を説明した。


「…なるほど。街の治安維持にご協力いただき有難うございます。これよりこの者達を精査致しますので、二日後にまた来ていただけますか?」

「…わかった」


悪い人を連れてって終わり…とはいかず、足止めされることになってしまった。セイサ?するとか言っていたけど、何をするんだろ。


「罪の無い者の命を奪うと称号が付くんです」

『…そうなの?』

「このカードの…ここです。この場所には、カードの所有者の賞罰が記載されます。悪人には悪人の称号が付きますから、それを調べるんでしょうね」

『へぇ、不思議だねぇ…』


ルノが言うには、善悪は魂に刻まれて『称号』として見ることが出来るそうだ。その他にも様々な称号があり、称号が付く事で能力が飛躍することもあるらしい。


『ワタシにもあるのかなー』


あるとしたら何だろう。この見た目だから『流氷の天使』もしくは『白銀の天使』とか?


「あー…」


ルノが苦笑いしているけど、その反応は何なんだろうね?!


ちなみに、ルノは『大精霊の守護者』『白銀の王狼』『ユグドラシルの神獣』なんだってさ。なにそれ、カッコいい。



二日後―



「お待たせしました。こちらが報酬になります」


ワタシ達はふたたび冒険者ギルドを訪れている。精霊石ワタシを狙った輩を引き渡した褒賞を受け取る為だ。ついでにこの二日間で狩った魔獣の素材も売ったのでカウンターの上には硬貨の詰まった袋がいくつも置いてある。


「口座へ預けることも出来ますがどうなさいますか?」

「そうだな。それではこっちの二袋は残して後はすべて口座に入れておいてくれ」

「かしこまりました。それと…」


受付嬢はそう言いながら封筒を差し出した。


「キューゲッチュに向かうのでしたらコチラを支部にお出し下さい。迷宮の入場が優遇されます」

「…ふむ、他意はありそうだが受け取っておこう」


ルノがそう言うと、受付嬢は苦笑いしていた。…これは何かありそうだね?


「支部長が是非お会いしたいとの事です」


なんだろ、輩を捕まえたから褒められるのかな?まぁ、人形を手に入れる手伝いしてもらえるなら良いんじゃないかなぁ。


こうして、ワタシ達はアトネートでの滞在を終えた。


ちなみに、精霊石を狙っていた理由は『とある人物が集めている』としか教えてもらえなかった。ここから先は面倒事の臭いしかしなかったので「そうですか」で終了。君子危うきに近寄らずってヤツ。


ここからキューゲッチュまでは、ヒトの足で1週間ほどかかる。途中には農村がいくつかある程度で、後はちょっとした森や草原ばかり。地平線が見えるほどのって、見るの初めてかも。


ルノはオオカミの姿に戻って草原をすごい速さで駆け抜けていく。何もない場所で空を飛ぶと、すごい目立つんだよね。街や村を繋ぐ街道というのがあって、荷馬車や冒険者が時々歩いているから目撃されるとそこそこ面倒なんだってさ。


街道から外れると魔獣が潜んでいたりするんだけど、そうした場所の方が目立ちにくいみたい。冒険者の気配は分かりやすいから、避けて走れば問題ないってドヤ顔してたのが少しウザかった。ヒト型だとキリリとした美人さんなのにオオカミ姿になると何で残念な感じになるんだろうなぁ…不思議。


草原ではネズミやウサギやキツネをよく見かけた。


草原は、草の中に身を隠しやすい小型から中型の魔獣が多く生息するんだって。それだけ聞けば平和そうなんだけど、草原の中にある小さな森や林には肉食の大型魔獣がいて、食事をしに草原に出てくるんだって。


途中で立ち寄った街のギルドでは、ウサギやネズミの討伐依頼が殆どだった。ウサギもネズミも放っておくとすごく増えるんだけど、人々の食料にもなるからこうして常に買取り依頼が出されてるんだって。ただ、狩りすぎると今度は森から大型魔獣が村や街の近くまで来ちゃうからが良いんだってさ。


「こうした小さな街には冒険者も居着かないからね。迷宮を目指す冒険者達に立ち寄ってもらうくらいが丁度いいのさ」


とは、お肉屋さんの言葉。


ずっと不思議だったんだよね。いくら魔獣のいる世界だからって、小さな街ではどうしてるんだろう?って。冒険者って、強い魔獣の素材やお肉を売って稼ぐイメージがあるし実際そうなんだけど、需要が無ければ意味がない。ゲームのレベル上げみたいに、この世界にいる冒険者が手当たり次第狩って売ってを繰り返したら魔獣がいなくなっちゃうんじゃないかなーって。


それを解消する為には、魔獣が無限に湧いてこないと難しい。


何でー?どうしてー?ってルノに聞いてみたら


「魔獣には種類があるんです」


だって。


そもそもマナが結晶化した魔石を体内に持つ獣を魔獣と呼ぶんだけど、時々草原や森に超高濃度のマナ溜まりが出現する事がある。そこから生まれるのが本来の意味での魔獣。それとは別に、突然出現したマナ溜まりに影響された野生の獣が魔獣に変異した変異魔獣というのがいる。変異魔獣は高い繁殖力を持っていて、誕生して三ヶ月で成体になる。そうした変異魔獣が世界各地に広がって今の状態になっているんだってさ。


「つまり、変異魔獣って奴らがすごい勢いで増えるから冒険者の仕事も無くならないって事か」

「簡単に言えばそうなります」


お肉のために牛や豚を育てるような牧場って少なくて、そういったお肉は王族や貴族で消費されちゃう。庶民の口に入るのはすべて魔獣肉だから、こうした仕事は成り立ってるみたい。


そんな異世界冒険者事情を勉強しつつ、ワタシ達はいよいよキューゲッチュへと足を踏み入れたのだった。

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