第13話 ところで迷宮って、なぁに?
「ふむ、迷宮とは…ですか」
ここは既に迷宮の中、時間的にはそろそろ日が沈む時間帯。
この時間になると迷宮に入場するヒトは少なくなるかと言えばそうでもない。単純に夜行性の種族だったり、昼夜関係なく迷宮で稼ぎたいようなヒト達がいるからだ。
キューゲッチュの迷宮…正式名称を『人形迷宮』といい、地下50層にも及ぶ巨大な迷宮だ。難易度は4段階に分けられていて、最初の15層は初級、16〜25層が中級、25〜40層を上級となっている。また5層ごとに魔物が出ない『休憩地』というのがあって、深い層に入る冒険者はそこを拠点にしている者も多い。15・25・35・40層には地上へ転移する『帰還陣』が設置されていて、そこからすぐに帰ることが出来る。ただし、一方通行。
そして、40層以降は特級となっていて一部の冒険者にしか開放されていない。
人形パーツは主に初級層にいる魔物が落とす。中級層になると縫いぐるみが追加され、上級層では高級そうな人形や謎ロボットみたいな人形が出るんだそうだ。
ここで疑問に思ったのが『そもそも迷宮って何???』ということ。
実際に入って感じたのは、異常なほど濃いマナが絶えず動いているということ。そのせいで、普段はすぐに感じられる魔物の気配がわかりにくい。これは外ではありえない状態でもある。
そして、迷宮で出会う『魔物』の不自然さ。何故魔獣と呼ばないかと言うと、奴らに魂が宿っていないから。見た目や行動パターンなんかは外にいる魔獣と同じなんだけど、倒した瞬間にサラサラと肉体が崩壊してしまう。この時に残されるのが『ドロップアイテム』と呼ばれるもので、魔石や肉等の素材、人形のパーツも含まれる。
他の冒険者が放った魔法も、最後は迷宮に吸い込まれていたから、迷宮自体がマナを吸収しているように思った。もしかしたら精霊も吸われちゃうんじゃないかなぁ?試してみたかったけど、ルノが必死に止めてきたので断念。吸引力の衰えないただ一つの掃除機みたいな勢いはないから平気だってば。
そんな理由で、迷宮という存在に疑問を持ったワタシ。でも、ルノも『そういうもの』として特に疑問を感じた事は無かったみたい。
まぁ、ワタシもこの場所しか知らないからなぁ。考え出すとそれこそ思考が迷宮入りしそうだから、この件は『そういうもの』としておこう。数学問題の「点P」が何故「点P」なのかを考えるほどの不毛なモノだからね。タカシとタロウに、同時に家を出なさいよ!って何度思った事か。
そんなこんなで、ワタシ達は上級層へ一気に駆け下りてきた。
ちなみに、人形迷宮の中は全て石レンガで作られていて各層は迷路みたいになっている。明かりはないので自前で用意するのが普通なんだけど、ワタシもルノも明かりを必要としないので何度か同じ層を探索していた冒険者を驚かせてしまった。
ここまでに出てきたのは、スライム・ネズミ・ヘビ・ムカデ・クモ・Gっぽいナニカ・型崩れした野犬(ゾンビ)・冒険者を模したゾンビ・スケルトン・コウモリ・岩で出来たゴーレム・泥スライム…とにかく、暗くてジメッとした場所に居そうな魔物ばかり。
上級層に入ると、ここに人形達が加わる。ワタシ達は出会わなかったんだけど、中級層には縫いぐるみの魔物が出現するんだと途中で出会った冒険者が教えてくれた。彼等は縫いぐるみ狙いで中級層をグルグルと探索しているんだって。とりあえず、縫いぐるみ情報のお礼にと、通ってきた道と出現した魔物の情報を教えてお別れ。これで、彼等の縫いぐるみ探索が進めば良いな。
ズシャッ
ルノが腕の一部を獣の腕に変化させて、目の前の人形を薙ぎ払う。伸びた爪が大鎌のようになっていて、まるで草刈りでもしているかのようだ。
敵として出現する人形は大抵が三体一組で出てくる。大きさは大体90センチくらいかな?幼児みたいな感じなんだけど、手に持っているのが大きなハサミだったり剣だったりと凄く物騒。それと、チャッ◯ーみたいな凶悪なお顔をしていて大変可愛くないんだよね。もう『人形迷宮』じゃなくて『児童遊戯迷宮』に改名したほうが良いと思います。
ゴウッ
『うわっ、魔法使ってきた!』
チャッ◯ー達の中には魔法を使う個体もいて、しかも連携してくる。コレは確かに上級者じゃないと大変そう。
ルノは特に苦戦する相手では無さそうで、バッサバッサと薙ぎ払いつつ奥へと進んでいる。ワタシも何度かやらせてもらったよ。
『バッカルコーン!!!』
シュルルルルッ
チューチュー
うん、いつもと変わらない感じです。一応相手はヒト型だから、魔獣よりも背徳感がヤバかったけど。親戚のオッチャンが居たら『うほー!触手プレイキター!!』とか喜んでたヤツだね。ほんと、ダメな大人だよ全く。
下の層へ向かうには、階段を探さなければならない。この階段、いつも一定の場所にあるわけじゃなくて常に移動してるんだって。とは言え、パターンが分かれば大体何処に出現しているかも分かるようになるわけで…
「今でしたら、アチラの方に出現しているようですね」
迷宮に挑戦する冒険者が多ければ多いほど、攻略法も解明されていく。ただ、それはヒトの出入りが多いところまでの話。サクサクと各階層を進んだワタシ達は、いよいよ特級層へと足を踏み入れた。
『わぁ……変わり映えしないね!!』
特級層と言うから、何か特別なのかと思ったけど見た目は他の層と変わらない。敵も少し強くなってるかな?程度だけど、ルノの敵ではない。…神獣ってチートすぎるね?
「この迷宮は他の迷宮に比べるとランクは普通のようですよ」
『そうなんだ?』
迷宮のランクって、
『えぇと、迷宮のランクは冒険者協会が設定。下から、一つ星〜五つ星まで。人形迷宮は…特級層はあるが三つ星迷宮…なるほど?』
「上級層までの敵の強さと迷宮の特性から、三つ星迷宮と位置づけされているみたいですね」
『へぇ〜』
そんな話をしつつ、迷宮の中をウロウロ。出てくる敵の中にはマネキンも出現している。動きはカクカクしているけど、何だか普通のヒトっぽい戦い方だ。
「おそらく、迷宮を訪れた冒険者の動きを真似ているのでしょうね。…おや、人形が出ましたよ」
ルノの目線の先には魔石と糸、それから一体のマネキンが落ちていた。うーん、コレジャナイ。
『出来れば球体関節人形が良いんだよなー』
「キュウタ…何ですか、それ?」
『人形の一つで、顔とか身体がヒトと瓜二つで関節が球体で出来てるんだよ。…あ、ほらアレみたいな…ぁあ?!』
球体関節人形だぁーーーー!!!!!
曲がり角から出てきたのは、まさに球体関節人形!って感じの魔物。カクンっカクンって一歩ずつコチラに向かって歩いてくるんだけど、フリフリのフリルがあしらわれたドレスは薄汚れていて、全体的にボロッとしてる。あと、なにより目が怖い。…なんか、お化け屋敷に置いてありそうなやつだね?片手には大きなハサミを持っていて、シャキン…シャキン…って音をさせててホラー感マシマシ。
【〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!】
一定距離まで歩いてくると、叫び声のような音を出しながら飛び掛かってくる。
『バッカルコーン!!!!』
それを正面から触手で受け止めてマナを吸い取る。
シャキンッッ
『あだっ?!』
「我が君?!」
ハサミを持つ手をグリンとさせて、手首を押さえていた触手をハサミでチョキンとされた!嘘でしょ?!あのハサミどうなってんの???
痛覚はないけど、触手を切られてビックリしてしまった。それでも、他の触手は離さないワタシえらい。切られた触手もすぐにニュルンと生えてくるけど、切られた分だけマナは失われてる。まぁ、大した量じゃないけどね!ビックリして心臓バクバクだよ!!
『ぐぬぬぬ!!!カラカラになるまで吸ってやんよ!!!』
何度か触手は切られたけど、無事にマナを吸いきった。ショワァという感覚とともに人形の姿は消えていき、足元には今までよりも少し大きめの魔石が転がっていた。
『残念、はずれ!』
ドロップアイテムって一定じゃないから、目当てのモノが出るまで同じ敵を狩らないとなんだよね。これを何回もやるとか冒険者って大変だなぁ…
「魔石はそれなりの値段で売れるので、稼ぐ手段としては一番手っ取り早いみたいですよ」
下の階層に進むほど、ヒトに近い人形が出るようになった。…ただ、ドロップアイテムは微妙。
微妙と言っても、大きめの魔石や壊れていない人形パーツや布や糸などは出ているし、コレだけでも相当な稼ぎになりそう。ただ、狙っているのは『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます