第14話 ボス戦やっちゃるよ!(ルノが)

『そういえば、ボスって居ないの?』

「ボス…ですか?」

『そうそう。各階層にさ、こう…他より強い魔物が階段守ってたりしないの?』

「階層主の事ですか。迷宮の主なら最下層にいますね。この迷宮は階層主が居ないのも三つ星である理由なんですよ」

『へぇ、そうなんだね』

「とりあえず、迷宮の主に挑戦してみますか?目的の品もなかなか出現しませんし、元々は最奥にあると噂されている自動人形を狙っていたのですから」

『それもそうだねぇ〜』


そう、目的は『ワタシが中に入って人間みたいに振る舞える人形ゲット』なのだ。だって、美味しいご飯食べたいんだもん!


そんなワケで、おそらく一番奥とされる場所までやってきました。ここに来るまでで人形が数体分作れそうなくらいパーツが集まっているけれど、組めば宿れるか?って言われたら微妙。そもそも、人形ってご飯食べないじゃん?つまり、口が無いのよ。


『それじゃ、サクサクやりますかー』


迷宮の主が居るのは、それっぽい大きな扉の奥の部屋。ギギギギギ…と重い扉が開くと、部屋の奥には王様が座るような椅子と、そこに座る一体の人形の姿。おぉ…なんかすごい完璧な人形!人形というよりアンドロイドに近い感じで、関節なんかもすごく自然。見た目は金髪の美少女!って感じで、黒いゴスロリ服がとても似合っている。眠っているようにみえるけど、近寄ったら襲いかかってくるタイプかな?


「とりあえず近くまで行ってみましょう」


ルノがスタスタと人形に近寄る。すると―


『私の眠りを妨げるのは…誰』


人形の目が開かれて、優雅な仕草で立ち上がった。おぉ、なんか強者感がすごい。


「ふむ、言葉を話す魔物とは珍しいですね。そのような知能があるとは思えませんが」


ルノが何か煽るようなこと言ってる。


『失礼ね!その辺に転がっている人形と一緒にしないで頂戴!』


ノッてきた!!!つまり、会話は可能みたいだね?味覚はあるのかなぁ!!


「ふむ、お前…味覚はあるか?」

『…へ?』

「とりあえず捕まえましょうか」

『…え、ちょっと?』


戸惑う人形を無視して、ルノがオオカミ型に変身する。


『はぁ?!アンタ、ヒトじゃないの?!』


…なんか、やけに人間臭い魔物だね?


それでも、迷宮の主なだけあって身体能力は段違い。ルノの攻撃をヒラヒラと舞うように躱している。この人形ってば相当強いんじゃない?


「悔しいですが、今までの魔物とは比べものになりません。それに、知能も高いようです」


人形は攻撃を避けながら、魔法を放ってくる。時折背後から黒い鎖のようなものが飛んでくるのは、部屋全体が迷宮の主の空間だからかな?ワタシは精霊石の中から様子をうかがっているだけだけど、ルノがちょっと押され気味だ。


「くっ…破壊してしまいたい…」


あっ、捕まえるのを目標にしてるから全力が出せないのか。うーん、それなら―


『…えっ、なに?!』


床からルノ目掛けて飛んできた黒い鎖をバッカルコーンで絡め取る。


「我が君?!」

『どっこいしょー!!!』


いやー、鎖を思い切り引っ張ったらどうなるのかなって気になったんだよね。なので、思い切り引っ張ってみました!


ガゴンッ


『あ、ここまでか』


ズルルルッと引き摺り出された鎖は途中で止まってしまった。ここで終わりっぽいから、チューチューとマナを吸ってみる。


『あ、イケそう』


どうやら、この鎖もマナが具現化したものらしく、マナを吸ううちにボロボロと崩れて消えていった。なので、ルノに迫る鎖はワタシが吸って、ルノは人形を捕まえる事に専念する事に。


人形は鎖と魔法を同時に何発も出せないらしく、段々とパターンが読めてきた。鎖を一度に2本以上出すと、次まで少し間があくんだよね。それをルノと共有し、攻撃の隙を伺って一気に捕獲にかかった。


「よしっ!」

『くっ!!!』


ルノが人形の脚を掴む。身を捩りながら魔法を使ってくるが、それよりも早くワタシの触手が人形を掴んだ!


『きゃー!!!なにこれ!!!!』

『ふっふっふっ…くらえ!バッカルコーン!!!』

『うぎゃー!!!!吸われるーー!!!!』


触手で人形を絡め取ると一気にマナを吸い取る。全部吸いきらないように気をつけながら、人形の動きが鈍くなるまでチューチューとしてから、ルノが人形をグルグル巻きにして床に転がした。


『うぅ…こんなの…こんなのってぇ…』


人形なのにベソベソと泣いてる。話が通じそうな魔物だから、倒しきらずに縛ってもらったんだ。


『ごめんごめん。ちょっと話が聞きたくてさぁ』


精霊石からニュルンと出て、人形の目の前にいくと人形がビクッッとなった。


『ヒッ…バケモノ』

『失礼な!可愛い可愛い流氷の天使クリオネやぞ!』

『ヒッ…なにそれぇ…いったいナニモノなのぉ…?』


さらにベショベショしだした人形にここまでの経緯を話してみた。


人形の名前は『エリス』で、元々はゴーレム使いの所有していたゴーレムなんだって。


『ご主人様には身体の不自由な妹がいてね、その子の手足の代わりに出来る人形ゴーレムの研究をしていたの。ゴーレムは土魔法の一種で、『魔核コア』に燃料となるマナを注いで土や岩を纏わせて人形にする術なんだけど、それを応用できないかって考えたのよ』


石や岩の代わりに、土を含んだ人形の身体を纏わせられないか…という所から研究が始まったらしい。


『最初は当然失敗したわ。それでも挫けずに何度も挑戦して…それでようやく、人形を動かす術を編み出したの。それが、今の『人形遣い』ってワケ』


人形遣いというのは、ゴーレムとは違い人形に細かな作業をさせる職人の事。もともと人形自体が戦闘に不向きなので、土魔法に適性があっても戦闘に後ろ向きな人達には人気の職業なんだって。キューゲッチュにはそうした人達も多く集まっているらしい。


『戦闘に不向き…でも、エリスは違うよね?』


なんか、すごい動きしてたもんね?


『それは、私が特別製だからよ』

「それは…主人が無くても動いている事に関係しているのか?」


あ、そういえばエリスは自立しているよね?知能もあるし…迷宮の人形は魔物だから別としても、不思議だねぇ。


なのよ。私の核には王級の精霊石が使われてるの』

『えっ?!』


なんと、ワタシの目指す形が目の前にあったなんて…!


『ちょっと、そのカラダどうなってるかしっかり観察させて…!!!』

『ちょっ、落ち…落ち着いてってば!!』


エリスにグイグイと顔を寄せるワタシだったけど、ルノに掴まれて引き離される。ちょっとー!


『で、エリスは精霊なの?』


とりあえず落ち着いて話しましょうって事で、迷宮の奥の奥…つまり、エリスとそのゴシュジンサマが暮らしていた場所で話すこととなった。


『私は精霊じゃないわ』

『へ?どーゆーこと?』

『私の魔核にはご主人様の妹の人格が入っているの』

『えーと、それはエリスが妹さんって事?』

『そうではないし、そうでもあるわ』

『????』


エリスが言うには、ゴシュジンサマが魔核を作った時に、妹さんの性格や思考パターンなんかを魔核に登録して妹さんそっくりの人形に仕上げたらしい。そして、最終的には妹さんの魂ごと人形に移植する計画だったんだとか。


『計画は順調に進んでいたわ。魔獣の魂で何度も実験して…成功させる事が出来ていたの』


しかし、事故は突然起こる。


いよいよヒトでの実験が行われる事になった。秘密裏に奴隷を購入し、精霊石が使われた魔核を持つ人形に魂を移す。実験は成功かと思われた。が―


『人形がね、暴走したの』


安全を期して、人形はエリスよりも脆く小さなモノを利用していた。人形は魔核が無事なら外装は交換可能だからだ。


目覚めた人形は手足を動かし、受け答えもしていた。しかし、突然ゴシュジンサマに襲いかかったのだ。喉元を食い千切り、元の身体も喰らい、脆い人形とは思えぬ力と素早さで移動し、ついには妹にも襲いかかってしまった。


エリスはなんとか人形を押さえ込み、魔核を破壊して人形を止めたが、あとに遺されたのは、肉片とエリスだけとなってしまった。


『ここは元々小さな迷宮だったの。それを改造して研究所にしていたのだけど…もしかしたら、それが原因だったのかもしれないわね』


エリスのゴシュジンサマは優秀な魔法使いだった事もあって、小さな迷宮に手を加えることも出来た。しかし、迷宮とは『世界の謎』と呼ばれるヒトの理解の外にあるもの。おそらく、ゴシュジンサマが作った人形も知らない間に迷宮のマナに影響されて魔物化していたのかも…というのが、エリスの見解らしい。


何だか、悲しい話だね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る